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Vol.69 「秋風立って」(2008/09/22)

秋風立って、独り立ち。
10月から、新人アナウンサーの女性3人がレギュラー番組でデビューします。

半年間の研修の集大成は、卒業制作。
一人ずつ、与えられた5分間以内にニューススタジオでニュースを読み、
その後で自己紹介を行います。
電波にこそ乗りませんが、その様子はテレビ朝日社内で「放送」されます。

定刻が近付くにつれ、アナウンス部内にも緊張が走ります。
実況の資料整理をしている先輩も、パソコンと向き合っている私も、
モニターをちらりちらり。
しばしの静寂。
満を持して、ニュースのオープニング曲が流れます。

「こんにちは!ニュースをお伝えします」

「声、上ずっていない?」
「今のアクセント、おかしくない?」
部内視聴率が100%の中、刻々と時間は過ぎていきます。
ニュースを読み終え、自己紹介に移り、内なる思いが最高潮に達した時に…
まさかの強制終了。 
「ああああああ〜〜〜」
ため息と悲鳴で、5秒間のエンディング曲がかき消されます。

限られた時間内に収める。
確かに、アナウンサーとしての鉄則です。
原稿を目で追いながら、話す内容を考えながら、残りの秒数を調整する。
それが出来なければ、放送事故につながります。

部内に戻った彼女たちには、先輩たちからの講評が待っていました。
三人ともストップウォッチを握ったまま、膝を磁石のようにきゅっと揃えて。
そんな中、早朝勤務を明日に控え、そうっとアナウンス部を後にしました。

歩きながら、さっきの5分間を思い出します。
最後まで声のトーンを落とすことなく、迷いも焦りもなく、
全力でエンディングへと飛び込んでいく。
バケツをひっくり返したように、言葉がこぼれる。
ゲリラ雷雨さながら、私たちは大いに面食らう。でも…。

突き抜けるような曇りない空が、次の季節を知らせています。

(「日刊ゲンダイ 週末版」9月22日発刊)


入社以来、苦楽を共にしている相棒と。
デジタルタイプもありますが、私はずっとアナログ派です。
   
 
 
    
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