前の記事を読む 次の記事を読む  

 
 

Vol.41 「ウェディングドレス」(2006/11/06)

ウェディングドレス。
これほど、男女で思い入れが違うものはない。
プリンセスライン、マーメイドライン、Aライン。
パールオーガンジー、ラメチュール、シルサフィア。
まるで呪文のような言葉の数々は、デザインや素材を表す。
頭に飾るのは、お花か、ティアラか。
些細な違いに思えても、本人にとっては大問題。
数あるドレスショップから自分だけの一着を決めるのは、
新婦にとっては宝探しのように真剣な反面、
新郎にとっては気が遠くなるような「作業」だと思う。

先日、『虎の門』のスタッフから電話があった。
「あのう…とっても頼みにくい話なのですが…」
「ゴーストライター選手権」という企画の依頼だった。
結婚式でお馴染みの、花嫁が両親に手紙を読むシーン。
私から両親への手紙を、
品川庄司の品川祐さん、ブラックマヨネーズの吉田敬さん、
アンタッチャブルの山崎弘也さん、ほっしゃん。さんらに代筆してもらい、
誰が一番心を動かすかを競う企画である。
「その手紙を、是非、村上さんにウェディングドレスを着て読んでもらいたくて…」
番組で、ウェディングドレスを着ることは稀にある。
その際、アナウンス部では本人の意思を確認することになっていて、
抵抗があれば、辞退することも出来る。
最初に身に纏うのは、結婚式の当日でありたい。
自身の挙式を控えていたため、そういう思いが強い反面、
番組が盛り上がるなら、着た方がいいな…とも思う。
ドレスの代わりに白無垢なら…などと、折衷案も考えた。
だが、数日間悩んで、着ることにした。

当日。
いつもよりも早く出社して、スタイリストさんにドレスを着せてもらう。
手袋をはめてベールを被ったら、不思議と迷いはなくなった。
そして、4人の芸人さんたちが書いてくれた手紙を、スタジオで読んだ。

「中学生の頃は、ケンカにあけくれる毎日を送っていました」
「学校に行かず、バイクを乗り回している時も…」

便箋に綴られたのは別人の私だったが、何故か手が震えた。

放送後。
スタッフの皆さんからは、「よく笑わなかったねぇ!」。
帰宅して、録画した番組を見直したら、
大爆笑のスタジオで、私一人が神妙な面持ちだった。

一度、ウェディングドレスに袖を通したら。
ベール越しの風景は、まだ見ぬ世界と重なった。



(「日刊ゲンダイ 週末版」11月6日発刊)
   
 
 
    
前の記事を読む

次の記事を読む