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Vol.28 「年の瀬に思うこと」 (2005/12/17)

カバンの中の手帳が、マフラーに隠れてなかなか見当たらない。
慌てている時に限ってのにわかかくれんぼに、
「今年はまだ、終わっていないよ」と、ちょっと駄々をこねられた気分。
年末の新幹線の切符を予約しようと電話したら、
「満席ですねぇ…ちょうどこの時期、帰省ラッシュですから」。
あぁ、毎年分かっていることなのに。
愕然と受話器を握りしめたまま、まだ年賀状の準備もしていなかったことを思い出した。
師走のせわしなさは、切羽詰って初めて実感する。

そんな中、忘年会に出かけた。
友人お勧めのホルモン焼きのお店である。
レバー、コブクロ、ハツ、センマイ…名前と部位が合致しないまま、
カウンター越しに運ばれて来るつややかなホルモンに舌鼓を打つ。
話に夢中になり過ぎて途中何度も七輪の網を焦がしてしまい、
見かねた店長に、大きな氷のかたまりを網の上に置いてもらった。
てんやわんやの消火活動の挙句、
来年は胸を焦がすような出来事が起きることを願いながら、私たちは焦げたミノをほおばった。

お店を出ると、冬の風がひょうと頬を包む。
年末恒例の道路工事は既に始まっていて、ガガガガガ…と、辺りに重低音が鳴り響いている。
ドリルが深部をえぐる音。
胸をえぐられるような気持ちを思い出しそうになったら、マンホールでフタをしてしまおう。
駅前では、年末ジャンボ宝くじの行列が絶えない。
最後尾には「○時間待ち」のプレート。
その横の交差点では、信号待ちの人たちが、青に変わるのを待っている。

赤が青に、昼が夜に、今日が明日に、秋が冬に。
日々は過ぎ行く。
分かったつもりでいても、分かっていないことはたくさんあって、
たまに立ち止まって、また歩いて。
時には慌てふためきながら、全速力で駆けて。
さて、今日は…。

休みの日がな一日、そんなことをぼんやり考えていた。
感傷は少しずつみかん色の夕日に溶けていき、いつかは達観へと傾いていく。
今年を無事に過ごすことが出来たことに安心し、感謝する。
世の中が厭世的になってきている中で、平穏という言葉の重みを感じずにはいられない。
残りわずかな手帳に、何も記さなかった日。 
そして、2006年へ。


(「日刊ゲンダイ」12月17日発刊)
   
 
 
    
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