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Vol. 1 「父のこと」 (2004/05/22)

師走も残りわずかとなりました。
皆様、いかがお過ごしでしょうか?

今年の5月から、「日刊ゲンダイ(土曜版)」にて、
三週間に一度エッセイを執筆させて頂いております。
今回、ゲンダイのご了承を頂き、バックナンバーを掲載することになりました。
連載一回目以降を、毎週月曜日に随時アップしていく予定です。

「祐子抄」も、のんびりペースではありますが、
なるべく滞りなく更新していくつもりです。

どうぞよろしくお願い致します。

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家族とは、高校の時から離れて暮らしている。
来年還暦を迎える父とは、とりわけ会話を交わさない。

先日、珍しく父から電話があった。

「祐子?」
「…はい(「本人の携帯電話なのに?」と内心思いながら)」

GW中、私の出演番組を見たそうだ。

「どんなことがあっても、挨拶の時には、眉間にしわを寄せてはいけないよ」

米兵のイラク人虐待が報道された日。
冒頭の挨拶だけでなく、私は番組中終始表情が厳しかったという。
確かにあの日、私はずっと揺れていた。
虐待されているイラク人たちの映像に衝撃を受け、色々なことを感じていた。
だが、そのことを素直に認められないのだ。
ただでさえ気持ちが揺れている時に、「こうしてはいけないよ」。
しかも図星であるがゆえ、余計に腹が立ってしまった。

「なんなの!久しぶりなのに…」

「お父さんには仕事の詳しいことなんて分からないでしょう?」と、
かなり感情的になって電話を切ってしまった。

番組に出演して頂いているコメンテーターの方々は、ちょうど父と同じ世代である。
放送中だけでなく、CM中も、打ち合わせの時も、かけて下さる言葉はとても素直に響く。
「ちょっと太ったんじゃないの?」と、テリー伊藤さん。
「そうなんですよ!最近、たい焼きが美味しくて…」
「昨日、寝不足?どうした、何かあった?」と、丸山和也弁護士。
「さっきから、とちってますよね…。ごめんなさい」
それなのに、父の言葉にはどうして感情的になってしまうのか。

電話を切った後、録画しておいた放送を見た。
私の表情は確かにこわばっていた。

部屋で一人、ばつが悪くなってごろんと寝転がる。
なぜか父には、強く言ってしまう。
母の場合は何倍にもなって返ってくるが、父は黙って受け止めてくれる。
そんな父に、私はいつも甘えてばかりいる。

6月20日は、父の日だ。


(「日刊ゲンダイ」5月22日発刊)
   
 
 
    
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