溢れんほどの思いを抱いているのに、どうしても言えないことがある。
たとえば、「好きだ」という気持ち。
物語の二人も、17年間、その一言を告げられないままだった。
ユウとヨースケ。
17歳で出会い、34歳に再会する。
【17歳の風景】
放課後、いつも川辺でギターのワンフレーズを繰り返し弾いているヨースケ。
「覚えたくもないのに覚えてしまった」その歌を、傍で自然と口ずさむユウ。
17歳のヨースケは、進路相談で「音楽で食べていきたい」と担任に告げた。
担任は「お前の気持ちはよく分かるけど…」と言って、目を伏せる。
ヨースケは毎日、川辺でギターを弾く。
河川敷の草いきれに、ラムネ色の空が流れる。
記憶の額縁に囲まれた日々は、水彩画のように止まったままで、美しい。
【34歳の風景】
上京して、レコード会社で営業の仕事をしているヨースケ。
音楽の制作会社で、事務の仕事をしているユウ。
34歳のヨースケは、ギターを弾かなくなっていた。
仕事の後、酔って得意気にくだを巻く上司に合わせて、
ヨースケは相槌を打っている。
「今度、僕も連れて行って下さいよ」
今ある日々は、フィルムの停止ボタンを押せないままに過ぎて行く。
とあるレコーディングスタジオで、二人は偶然に再会する。
会うことのなかった17年間。
ラムネの泡が現実に消えていくことに、お互いはとっくに気付いていた。
好きだ。
言えないのではなく、言わない。
人は年を重ねるにつれ、愛を告げることに臆病になる。
それでも、好きだ。
今ある自分を、受け入れること。
同時に、相手に委ねること。
ギターを弾かなくなったヨースケが失ったものと、手に入れたもの。
そして、手に入れたいもの。
だから、好きだ。
大切にしたいと、心から思えること。
幸せとは、そういう人に巡り会えることだと思う。
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『好きだ、』 |
監督/脚本/編集:石川寛
製作:土屋尚士 、石川寛
音楽:菅野よう子
出演:宮崎あおい、西島秀俊、永作博美、瑛太、小山田サユリ、野波麻帆、加瀬亮、大森南朋ほか |
配給:ビターズ・エンド /2005/日本
※2月下旬〜順次公開/渋谷アミューズCQNほか |
『好きだ、』公式サイト
http://www.su-ki-da.jp/ |
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今年の映画初め(?)は、ホ・ジノ監督の『春の日は過ぎゆく』。
家族でおせちをたらふく食べた後、DVD上映会はゆるゆると始まりました。
「バスと女は、去ったら追うもんじゃないよ」
物語の中で、主人公サンウのおばあちゃんはこう言います。
コタツの横で、黙ってうなずいた父の姿が印象的でした。 |
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