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Vol.29 1月24日 『好きだ、』

溢れんほどの思いを抱いているのに、どうしても言えないことがある。
たとえば、「好きだ」という気持ち。
物語の二人も、17年間、その一言を告げられないままだった。

ユウとヨースケ。
17歳で出会い、34歳に再会する。

【17歳の風景】
放課後、いつも川辺でギターのワンフレーズを繰り返し弾いているヨースケ。
「覚えたくもないのに覚えてしまった」その歌を、傍で自然と口ずさむユウ。

17歳のヨースケは、進路相談で「音楽で食べていきたい」と担任に告げた。
担任は「お前の気持ちはよく分かるけど…」と言って、目を伏せる。
ヨースケは毎日、川辺でギターを弾く。
河川敷の草いきれに、ラムネ色の空が流れる。

記憶の額縁に囲まれた日々は、水彩画のように止まったままで、美しい。

【34歳の風景】
上京して、レコード会社で営業の仕事をしているヨースケ。
音楽の制作会社で、事務の仕事をしているユウ。

34歳のヨースケは、ギターを弾かなくなっていた。
仕事の後、酔って得意気にくだを巻く上司に合わせて、
ヨースケは相槌を打っている。
「今度、僕も連れて行って下さいよ」

今ある日々は、フィルムの停止ボタンを押せないままに過ぎて行く。

とあるレコーディングスタジオで、二人は偶然に再会する。
会うことのなかった17年間。
ラムネの泡が現実に消えていくことに、お互いはとっくに気付いていた。

好きだ。

言えないのではなく、言わない。
人は年を重ねるにつれ、愛を告げることに臆病になる。

それでも、好きだ。

今ある自分を、受け入れること。
同時に、相手に委ねること。

ギターを弾かなくなったヨースケが失ったものと、手に入れたもの。
そして、手に入れたいもの。

だから、好きだ。

大切にしたいと、心から思えること。
幸せとは、そういう人に巡り会えることだと思う。

♪作品データ♪
『好きだ、』
監督/脚本/編集:石川寛
製作:土屋尚士 、石川寛
音楽:菅野よう子
出演:宮崎あおい、西島秀俊、永作博美、瑛太、小山田サユリ、野波麻帆、加瀬亮、大森南朋ほか
配給:ビターズ・エンド /2005/日本
※2月下旬〜順次公開/渋谷アミューズCQNほか
『好きだ、』公式サイト
http://www.su-ki-da.jp/

今年の映画初め(?)は、ホ・ジノ監督の『春の日は過ぎゆく』。
家族でおせちをたらふく食べた後、DVD上映会はゆるゆると始まりました。

「バスと女は、去ったら追うもんじゃないよ」

物語の中で、主人公サンウのおばあちゃんはこう言います。
コタツの横で、黙ってうなずいた父の姿が印象的でした。
   
 
 
    
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