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Vol.19 10月6日 『誰も知らない』


皆様、ご無沙汰しております。
先日は夏休みを頂き、都内でのんびりと過ごしました。
夜の競馬場に出かけたり、奥多摩湖でのんびりしたり。
日常に身を置いたままの非日常も、案外いいものです。
旅の楽しさは、必ずしも走距離には比例しないことが分かりました。

さて、前回の更新から随分経ってしまいましたが、映画紹介をさせて頂きます。


都内の2DKのアパートで、大好きな母親と暮らす4人の兄妹。彼らの父親は皆別々で、戸籍がないために学校に通ったことがない。長男以外の3人の妹弟の存在は、大家にも知らされていなかった。
ある日、母親は20万円の現金と短いメモを残して家を出る。やがて生活費は底をつき、電気、ガス、水道が止まり、季節だけが過ぎてゆく。
誰にも知られてはならない、誰にも知られることのない、4人だけの生活が始まった。

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駅前の商店街を抜けて、家路を急ぐ。
走り行く塾帰りの子どもたち。
きちんと手入れされた、軒先のゆうがお。
何もかも、風景に溶けている。
  
コンビニ裏の小さな駐車場。
置石のたもとに、ひっそりとツユクサが咲いている。 
世話をしようと、水をやる人などいない。

風にゆれるツユクサ。
お腹がすいて、ゆれて見える夕空。
 
角のゴミ箱には、賞味期限切れのおにぎりが捨てられていた。
 
明けない夜はない。
だがここで、誰を待つのだろう。

幸福と孤独を詰め込んだコンビニの白いビニール袋が、
ふわりふわりと、目の前を通り過ぎていく。

いつかこのツユクサが枯れてしまっても、誰も気付かない。 

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試写会の帰り道。
いつも通る商店街の風景は、まるで映画の続きのようでした。
行き交う人々の話し声、自転車のベルの音、惣菜の匂い。
立ち止まる私の中に、彼らがいる。
まなざしの先にも、彼らがいる。
 
私の目の前の現実が、非現実的な4人の現実と重なって、映像と現実が混じり合う、不可思議な錯覚に襲われました。

あの、コンビニ裏の小さな駐車場で。
足を投げ出して、壁にもたれた4人の子どもたちが、こっちを見ている気がするのです。
静止した時間。

それはとても息苦しいことでした。
なぜだか、涙が止まりませんでした。

■作品データ/『 誰も知らない』
監督・脚本・編集:プロデューサー:是枝裕和
撮影:山崎裕
音楽:ゴンチチ
出演:柳楽優弥北浦愛木村飛影YOU平泉成加瀬亮寺島進
        
配給:シネカノン/2004年/日本/141分

※シネカノン有楽町にて8/7(土)よりロードショー

『誰も知らない』公式HP:

http://www.daremoshiranai.com
   
 
 
    
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