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Vol.14 12月4日 『天使の肌』
  天使の羽ではなく、肌だ。
何かになぞられたような生々しさを感じながら、ストーリーを追う。
すると、昔読んだ小説と重なった。
遠藤周作の『わたしが・棄てた・女』である。

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「天使の肌」

天使という名のアンジェルは、神を信じはしない。
「神様が本当にいるのなら、どうして不幸はなくならないの」
貧しい暮らしのために、家族と離れて家政婦として働く。そんな生活の中で偶然に知り合った孤独な男、グレゴワール。
母を亡くした男は弱い自分をさらけ出し、女は男を受け入れる。
男は一夜をその場限り、と。
女は一夜を永遠に。
その後グレゴワールは、勤め先で結婚する。一方アンジェルはグレゴワールのことを忘れられないまま事件に巻き込まれ、刑務所に入れられてしまう。

 
「わたしが・棄てた・女」

町工場で働く森田ミツは、大学生の吉岡努との二度目のデートで関係を持つ。
ミツは憧れの大学生吉岡を切ない程に思い続けるが、ミツの体だけが目的と割り切っていた吉岡は彼女を棄てた。吉岡は就職し、やがて結婚する。
ミツは棄てられたことを知っても、彼を思い続ける。その後、彼女にはハンセン病の症状が表れ、外界から隔離された病院に入院する。

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重なるのはストーリーだけではなく、ひりひりするような痛ましい感情だ。

神を信じなかったアンジェルと、不器用なミツ。
数奇な運命に翻弄されようとも、相手に拒まれようとも、ただひたすらに思い続ける。

一夜限りの関係で、相手を愛し続けることが出来るだろうか。
狭い世界で暮らす彼女たちは、純粋で無知だ。
だが、それだけだろうか。

愛が錯覚でも、女としての自分の存在を確信したかった?

「僕は君を愛してない。愛は嫌いだ。妻を愛しているかも、確信がない」
「愛は不確かなもの…でも、私はあなたを愛してる」
グレゴワールに、アンジェルは穏やかに応える。

病室で、隣の患者がミツに言う。
「苦しいのは体のことじゃなくってよ。苦しいのは…誰からも愛されぬことに耐えることよ」

男に棄てられた女が忘れられない思い。
女を棄てた男が忘れることの出来ない思い。

二人の身体に残ったのは、一夜限りの温かさ。
心に残っていくのは、忘れられない肌触り。
女にとっては絹のようになめらかで美しく、男にとってはざらざらした後ろめたいような感覚。
互いの肌触りは衣擦れを起こし、永遠に消えない。

■作品データ/『天使の肌』
監督:ヴァンサン・ペレーズ
脚本:カリーヌ・シラ、ヴァンサン・ペレーズ
撮影:フィリップ・パヴァン・ドゥ・セカティ
音楽:レプリカント
出演:モルガン・モレ、ギヨーム・ドパルデュー、マガリ・ヴォック、カリーヌ・シラ、エレーヌ・ドゥ・サン・ペール、ステファン・ブシェ、他
配給:アスミック・エース/2002年/フランス/85分

※10/25(土)より新宿武蔵野館で公開中

■新宿武蔵野館では11/7(金)監督ヴァンサン・ペレーズの舞台挨拶も
 http://www.musashino-k.co.jp/

※遠藤周作氏の小説『わたしが・棄てた・女』とのストーリーの類似については、作品の本国・フランスのマスコミからも指摘の声があがっているそうです。
(現地では同小説の仏語訳も出版されているとか)

「やじうまプラス」のHPでは、週に一度、雑感を綴っています。
お茶請けを召し上がる感覚で、よろしければご覧下さい。

「祐子抄」
http://www.tv-asahi.co.jp/yajiplus/top.html

   
 
 
    
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