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Vol. 8 1月21日 『草ぶきの学校』

 
今週は「草ぶきの学校」をご紹介。

草ぶき屋根の校舎、禿げ頭の少年の孤独、友人の新品の自転車、悲しい笛の音。
文化大革命以前の1962年。中国の農村を舞台に、主人公サンサン少年の目を通して幾つかの物語が語られる。

 


小学校の校長を父に持つサンサンの悩みと葛藤。
いつも禿げ頭をからかわれ「ハゲツル」と呼ばれている少年の屈折した怒りと自尊心。
皆が羨む自転車を持っている少年の家の、突然の破産。
笛の上手い青年教師の悲しい恋。
日常の日々。私が過ごした幼少期と、国も時代も異なる話。それなのに、景色の一つ一つが胸に迫って見える。小さな物語の数々が、心の底に染み入る。

クラスのルーホーは禿げ頭。皆からは「ハゲツル」と呼ばれている。先生たちは行事の度に頭を隠そうとするが、彼はいつも堂々とさらけ出す。普段は反抗的なルーホーだが、演芸大会では皆が嫌がる禿の軍人役を買って出た。上演は大成功を収め、
その後、彼は姿を消す。
「ルーホー、泣いてるの?」
「泣いてなんか…」
離れた渡し場に座って肩を震わせるルーホー。サンサンは、彼の後ろ姿をじっと見つめていた。

チアン先生の笛の音は、ある時からとても悲しく響くようになる。先生は恋をしていた。
サンサンは恋人との手紙のやり取りを手伝うが、彼女は様々な事情から別の男性と結婚する。結婚式当日。花嫁はサンサンの手に飴を握らせる。
「受け取ってちょうだい」
「飴は嫌いだ」
サンサンは飴を地面に叩きつけて行ってしまう。

笑い、怒り、悩み、妬み、悲しみ。七色の虹のような、透明で多彩な感情。時として鈍色に翳り、残酷さが顕わになる。子供の目には見えても、大人には、この虹はかかりにくいのかもしれない。
 
だが、しかし。
物語の間、降り続くやわらかな春雨のように、私は涙が止まらなかった。
そして、雨が上がった後には…。乾いた気持ちは水玉模様に彩られ、目の前には小さな虹がかかった。

思い出は、甘く慕わしいだけではない。
恐ろしいほど鋭く、眠っていた感情を覚醒させる。
やはり、虹のように、清々しい。

■作品データ/『草ぶきの学校』
監督:シュイ・コン
原作・脚本:ツァオ・ウェンシュアン
出演:ツァオ・タン、ウー・チンチン、トゥ・ユアン、マー・リンイェン、チン・シーロン、ほか
配給:日本ヘラルド/1999年/中国/107分

※3月下旬まで岩波ホールにて公開

■この作品、岩波ホールで昨年末から好評上映中の中国映画。岩波ホールといえばあの『山の郵便配達』の超ロングランを思い出す方も多いはず。
監督は「子どもの演技指導では右に出るものがない」とも評され、中国ではすでに高い評価を得ているシュイ・コン。それだけに『山の郵便配達』同様、じわじわと息の長いヒットにつながりそうな予感がします。

■『草ぶきの学校』公式サイト
http://www.herald.co.jp/kusabuki/

◇村上祐子アナの近況報告

年明けから、平日の「やじうまプラス」も担当させて頂いています。低血圧な私(上が76)にとって、早起きは至難の業!やじプラHP内での「日刊村上祐子」も、よろしかったら見て下さい。 「話すこと」はもちろん、「書くこと」の難しさを、日々実感しています。
そして、「続ける」ということも…。

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