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身長
177cm
出身地
埼玉県さいたま市
出身校
県立浦和高校→
早稲田大学
入社年月日
1992年4月1日
星座
天秤座

2016/2/16  大雪の中の奇跡

アナウンサーになって24年目、この間様々な現場を経験してきましたが、先月末、初めて奇跡的に人命救助に携わることができました。

あの日は数十年ぶりという寒波が西日本を襲い、前日からの大雪の影響により各地で交通障害が続くなど、その爪痕が色濃く残っていました。

私はその朝、まだ東京の自宅にいたのですが、大雪の影響が気になって電力会社のホームページを調べていました。すると、島根県邑南町という山間の町で、停電が続いている集落が数多く存在することに気づきました。
すぐに、邑南町役場に電話して状況を聞いてみると、除雪車が足らず個人宅までたどり着くのが困難な場所があるとのことでした。

私はすぐに当日のニュースデスクに電話し、この邑南町に取材に行くことを提案しました。そして羽田空港でカメラマンたちと合流し、広島空港経由で陸路雪道を車で進み現地に向かうことになりました。

広島市内でも、大雪のために坂道で多くの車がスリップするなどして立ち往生し、大渋滞が起こっていました。
そうした場所をリポートしながら北上し、トンネルを抜けて島根県邑南町に入った時には、すでに午後4時を過ぎていました。


大雪の邑南町

邑南町に入ってすぐの所で、また大渋滞が起きていました。近くにいた方々に状況を聞いたところ、このはるか前方でトラックが雪道で横転して道をふさいでいるとのことでした。
私たちはその状態をリポートするために、車を降りて雪道を歩き始めていました。5分ほど国道沿いに歩いていたその時です。私の20メートルほど後ろを歩いていたカメラマンが何かに気づき大声で叫び私を呼びました。

すぐにカメラマンのいる場所に駆け寄ったとき、私は驚くべき光景を目にしました。
国道沿いの住宅の庭は高さ1メートルから2メートルほどの雪の山に覆われていたのですが、その合間から高齢の女性の顔と手だけが見えたのです。
その女性は雪の山に首まで埋まりながら、「見えますか?」と私たちに向かって助けを求めていたのです。

私たちはすぐに彼女を救出するべくその家の庭に入りました。しかし、庭全体が2メートルほどの雪の山に覆われていて簡単には女性に近寄れません。
女性宅の玄関先にはシャベルが2本置かれていましたので、それで雪をかき分けて進むことにしました。途中、私自身も何度も雪の山に足を取られました。
同行したディレクターは、私の反対側からもう1本のシャベルを使って雪をかき分けて女性のいる場所に進もうとしました。しかし女性から、そちらは雪の下に池があり危ないという指摘を受けたため、彼は私の後方に戻ってきて、周辺の雪を取り除き女性を救出した後の脱出路を確保してくれていました。

5分ほど雪の山をシャベルでかき分けて前進し、何とか女性の傍にたどり着きました。女性は肩の下まですっぽりと雪に埋まり全く身動き気が取れない様子でした。私はシャベルで女性の周りの雪を慎重に取り除き、ようやく彼女を雪の中から救出することができました。女性はタートルネックのセーターにズボン姿で、髪の毛にもたくさんの雪がついていました。女性を雪山から救出したとき、発見から10分ほどが経っていました。


救出に向かう。オンエア画面より。

女性は80歳過ぎのお一人暮らしで、彼女によれば、庭の排水溝が雪で詰まってしまい、庭に出てその様子を確認していたそうです。その時突然、屋根に積もっていた雪が一気に落ちてきて、立った状態のまま首まで雪に埋まり身動きが取れなくなってしまったとのことでした。

ご自身の力で両腕は雪から出せたものの、それ以上は身動きが取れなかったといいます。彼女はありったけの声で助けを求めていたそうです。女性の家の前は国道で大渋滞が起きていて多くの人が車の中にいました。しかし誰も彼女の存在には気づいていませんでした。車窓からでは、庭に積もった雪山に阻まれ彼女の存在は見えなかったのだと思われます。
また、外が寒いのでみなさん車の窓を閉めてエンジンをかけていました。そのエンジン音に、助けを求める彼女の声はかき消されていたのだと思います。

実際、私自身も渋滞の前方で起きているというトラック横転情報に気を取られていたこともあり、車列の横を歩きながらも彼女の声には気づきませんでした。
最初に気付いたカメラマンも彼女の声が聞こえたわけではなく、何となく誰かに呼ばれているような気がして振り向いたところ、雪山の隙間から人の手が動いているのが見えて、それで初めて気づいたそうです。それはいわゆる第6感のようなものだったそうです。

救出した後、女性は「私は覚悟していて、これが抜けられないようなら運命だと思っていました」と私たちにその時の思いを語ってくれました。

かつて私は報道ステーションの特集の取材で、新潟県長岡市にある研究機関で専門家立会いの下、雪に肩まで埋まる実験をしたことがあります。その時は仰向けに寝た形で、首から下の全身に厚さ30センチほどの雪をかけたのですが、まるでコンクリートのような硬いものに覆われたような感じで、全く身動きが取れませんでした。
おそらく、あのまま誰も彼女の存在に気づいていなければ、彼女も危ないところだったと思われます。


屋根からの落雪は町のあちこちで。

先日、地元の警察署が今回の救出についての感謝状を贈ってくださいました。私たちとしては、危ない状況の方がそこにいたので、人として当たり前のことをしただけですので、本当に恐縮するばかりです。

今、邑南町に限らず過疎化の進む山間の集落では、雪下ろしや除雪をする人手が足りず、毎年のように屋根からの落雪に巻き込まれて住民の方々が命を落とすという事故が起きています。

あの日の朝東京の家にいてたまたま島根県邑南町に向かおうと思い、何度も渋滞に巻き込まれながらちょうどあの時間にあの場所に差し掛かり、偶然にもお一人の命を救うことができました。
とにかく現場に駆けつけることの大切さを、改めて肌身で感じた今回の取材でした。

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