そして、町の方々は皆さん、『クマが出てきてしまうのは、森が荒れているからなのだ』とおっしゃるのです。
私は、この問題はとても根が深いのではないかと感じ、報道ステーションに特集の企画を出して、じっくりと取材してみることにしました。
調べれば調べるほど、クマの被害が出ている全国各地で、同じような現象が起きていることに気付きました。
クマの住む山と人里の緩衝地帯とされてきた『里山』が、ひどく荒れてしまっているのです。
里山に今、何が起きているのか?
調べみると、そこには、戦後日本の大いなる林業行政の失敗がありました。
戦後、日本は国を挙げて、杉の植林を全国的に行いました。当時は住宅用の建材などとして重宝され、各地で林業が盛んになり、成功して杉御殿といわれるような豪邸を建てた人も多くいたようです。
ところが、その後、安い外国からの建築材に圧倒されて、国内の林業は急速に衰えました。
結果、杉林が放置され、今、日本の山は無残な姿をさらしているのです。
杉林は、適度な間伐や下草刈りなどの手入れをしてあげないと、密生しすぎて、日光が遮られてしまうのです。その結果、手入れのされていない杉林はうっそうとして昼間でも暗く、下草もまったく生えない、いわゆる『緑の砂漠』といわれる状態になっています。
杉は針葉樹ですから、どんぐりなどの実をつけません。さらに下草もないとなると、クマにとってはまったく食べるものがない、まさに砂漠なのです。となると、今年のように山のブナなどが凶作になれば、クマは里山を通過してそのまま人里に出てきてしまうのです。
クマが出没する背景には、人間の行ったとんでもない生態系の破壊があったのです。
しかし、今回の取材では、こうした厳しい現状に対して、すばらしい取り組みをしている方にも出会えました。
兵庫で森の手入れをしている幸福さんという男性です。
幸福さんは、兵庫の里山で、りんご農園を営んでいます。
今から6年前、そのリンゴ園がクマによって壊滅的な被害をうけました。
その時は、クマを殺すしかないと思ったという幸福さんですが、1週間悩み続けて、ある行動に出たのです。
彼は、自分自身がかつて林業家で、広葉樹を伐採し針葉樹を植えた過去を思い出しました。そして、クマが住みづらい環境を作ったのは、自分たち人間であることを悟ったのです。
以来、幸福さんは、りんご園で余ったりんごや売れないりんごを、クマの住む山に置きに行くようになりました。
さらに、自分たちがかつて植えた針葉樹を伐採して、ブナや栗などの広葉樹の苗木を植え始めたのです。
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