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11月17日 クマとの共生を目指して!


先月は、相次ぐクマ出没の取材とその背景を探る日々が続きました。

きっかけは、10月中旬、福井県勝山市の高齢者施設にクマが入り込んでしまったニュースの取材で、驚くべき実態を目にしたことでした。

住民の方々が口を揃えて、『クマは毎日、町に出没している』というのです。



クマ出没注意


確かに住宅の庭の柿の木にクマが登った爪跡や、栗の木に登って栗を食べていた痕跡が、町のあちらこちらで見られたのです。

さらに、町にある『恐竜の森』という広大な公園では、園内にクマが住みついてしまい、一部しか開放出来ない状態に陥っていました。



恐竜の森


そして、町の方々は皆さん、『クマが出てきてしまうのは、森が荒れているからなのだ』とおっしゃるのです。

私は、この問題はとても根が深いのではないかと感じ、報道ステーションに特集の企画を出して、じっくりと取材してみることにしました。

調べれば調べるほど、クマの被害が出ている全国各地で、同じような現象が起きていることに気付きました。

クマの住む山と人里の緩衝地帯とされてきた『里山』が、ひどく荒れてしまっているのです。

里山に今、何が起きているのか? 調べみると、そこには、戦後日本の大いなる林業行政の失敗がありました。

戦後、日本は国を挙げて、杉の植林を全国的に行いました。当時は住宅用の建材などとして重宝され、各地で林業が盛んになり、成功して杉御殿といわれるような豪邸を建てた人も多くいたようです。

ところが、その後、安い外国からの建築材に圧倒されて、国内の林業は急速に衰えました。 結果、杉林が放置され、今、日本の山は無残な姿をさらしているのです。

杉林は、適度な間伐や下草刈りなどの手入れをしてあげないと、密生しすぎて、日光が遮られてしまうのです。その結果、手入れのされていない杉林はうっそうとして昼間でも暗く、下草もまったく生えない、いわゆる『緑の砂漠』といわれる状態になっています。

杉は針葉樹ですから、どんぐりなどの実をつけません。さらに下草もないとなると、クマにとってはまったく食べるものがない、まさに砂漠なのです。となると、今年のように山のブナなどが凶作になれば、クマは里山を通過してそのまま人里に出てきてしまうのです。

クマが出没する背景には、人間の行ったとんでもない生態系の破壊があったのです。

しかし、今回の取材では、こうした厳しい現状に対して、すばらしい取り組みをしている方にも出会えました。

兵庫で森の手入れをしている幸福さんという男性です。 幸福さんは、兵庫の里山で、りんご農園を営んでいます。 今から6年前、そのリンゴ園がクマによって壊滅的な被害をうけました。 その時は、クマを殺すしかないと思ったという幸福さんですが、1週間悩み続けて、ある行動に出たのです。

彼は、自分自身がかつて林業家で、広葉樹を伐採し針葉樹を植えた過去を思い出しました。そして、クマが住みづらい環境を作ったのは、自分たち人間であることを悟ったのです。

以来、幸福さんは、りんご園で余ったりんごや売れないりんごを、クマの住む山に置きに行くようになりました。 さらに、自分たちがかつて植えた針葉樹を伐採して、ブナや栗などの広葉樹の苗木を植え始めたのです。



幸福さん


それから6年、苗木は人の背丈ほどの大きさになり、実をつけはじめました。 そして、今では、クマによるリンゴ園の被害は、ゼロになったのです。 今では、多くのボランティアや企業が、彼の行動に共鳴し、一緒に活動しています。

もし、この運動が全国的に広まれば、日本の元の豊かな森がよみがえり、人とクマが共生出来る日も来ると思います。

今回の取材で、福井県勝山市でクマの張り込みをしていた時、一頭の子グマと遭遇しました。子グマは、すぐ近くでオリに入り捕まった母グマを捜して、においを頼りに町をさまよっていたのです。 母グマを捜すあのさびしげな子グマの姿には、心を打たれました。



小グマ


人間は、時に自然を破壊してしまいますが、その一方で、その問題を解決する知恵も持っています。 日本の森を復興して、動物とも共生出来る豊かな自然をもう一度作りあげなくてはと、強く感じた今回の取材でした。

   
 
 
    
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