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- 「日本」の読みは「にほん」? 「にっぽん」?-
  Reported by 坪井直樹
 
田原

今年はトリノオリンピックで女子フィギュア初の金メダル、野球のWBCでは王ジャパンが初代世界王者に輝くし、スポーツで明るい話題花盛りですね。
坪井

そして、いよいよ6月にはサッカーのワールドカップがドイツで開催ですよ!再び日本中で「にっぽんコール」が巻き起こるのだろうな・・・・
萩野

スタジアム中に「にっぽん!」の声が響くし、たくさんの「にほん人」が応援するでしょうね。・・・ん?日本人は「にほん」で国は「にっぽん」?
漢字はどちらも「日本」なのに読み方が違いますよね。
 
田原    そうだね。「日本」って「にほん」と「にっぽん」と2通りの読み方をするね。なにもスポーツだけじゃない。例えば「日本人」「日本円」「日本時間」「日本列島」なんてことばも人によって分かれるし。
坪井   企業の名前も団体名も「日本」と付くものがたくさんあって、しかも、
その一つ一つに「にほん」か「にっぽん」かの読みわけがあるし!
だから、ニュースを伝えるときにも大変だもんね。
萩野   そう!ニュース原稿に「日本」とついていたらまず、「にほん」か「にっぽん」か
読み方を調べますもんねぇ。
田原   皆さんのほとんどはご存知ないでしょうが、テレビ朝日の報道スタジオには、「にほん」と読むか「にっぽん」と読むかをまとめた「辞書」が存在するんですよ!
企業名などはそれで調べて正しい読み方で放送します。載ってない場合は直接その会社に電話してどちらか聞きます。
萩野   本番前にドタバタと・・・・(笑)
というわけで、今回のテーマはずばり!「日本」の読み方です!。
皆さんは「にほん」「にっぽん」をどのように使い分けていますか?
坪井   調査を開始した私たちはまず、一般の方たちから幅広く実用例を聞くことにしました。
そこでこんなアンケートを作り実施しました。

どうぞ、みなさんもご一緒に!
<どっちで読むでしょう?アンケート>
  質問:次の読みは「にほん」「にっぽん」どちらで発音することが多いですか?
@ 日本 A 日本人 B 日本語 C 日本代表    D 日本一
E 日本大使館   F 日本列島   G 日本航空   H 日本銀行   I 日本晴れ  
 
下は20歳から上は81歳まで、一般の老若男女50人から回答をいただきました。
そして!集計結果はこう出ました。

  「にほん」 「にっぽん」
 (1) 日本 69(%) 31(%)
 (2) 日本人 90(%) 10(%)
 (3) 日本語 97(%) 3(%)
 (4) 日本代表 45(%) 55(%)
 (5) 日本一 51(%) 49(%)
 (6) 日本大使館 88(%) 12(%)
 (7) 日本列島 60(%) 40(%)
 (8) 日本航空 100(%) 0(%)
 (9) 日本銀行 79(%) 21(%)
 (10) 日本晴れ 94(%) 6(%)
 
坪井   (1)の、他の言葉と結びつかない、国名としての「日本」の読み方は、結果から言うと、「にほん」と読む人が圧倒的に多かったのです。
興味深いのは年齢によって差があったこと。
「にっぽん」と読む人は比較的、高齢の人が多かったです。
実際にアンケートに答えてくださった81歳の男性は、10問中9問を「にっぽん」と読んでいて、若い世代になると「にほん」で通している傾向が見えました。

また、後に結びつく言葉によって「にほん」「にっぽん」と読みわけしている人も少なからずいました。
理由としては
掛け声・スポーツの試合など気合を入れる時には「にっぽん」
桃太郎を朗読するときは「にっぽん」(にっぽんいちの黍団子)
日本語学校で習ったのは「にほん」(外国の人)
などがありましたが、皆さん、それぞれ独自の見解で読み分けていて
共通の判断基準はないようです。
田原    なるほど、ほぼ半分に分かれたのは「日本一」か。興味深いね。
坪井   ちなみに9問目の「日本銀行」は「にほんぎんこう」と読む人が多かったのですが、
正しくは「にっぽん」銀行です。お札を見ると答えが書いてあります。
さらに、100%「にほん」と答えた「日本航空」も実は、正式名称は「にっぽんこうくう」だったのです!
萩野   エーーーーッ!?私たちも放送では「にほんこうくう」って読んでますけど!
坪井   ところが、会社四季報などの正式名称には「にっぽんこうくう」と書いてあるんだ。
この謎を直接日本航空に取材してみました!
すると・・・こんな回答が来ました。
@報道機関等には「にほんこうくう」という読み方をお願いしているのは事実。
 なぜ、そのような読み方をお願いするようになったのかは、わからない。ずっと以前から。
A「にっぽんこうくう」というのは、会社の定款の英語訳に「NIPPON KOKU」とあるため。
 これも、なぜ「NIPPON」になったのかは、わからない。

ということでした。
田原    ムムッ当事者でも解明されない「日本」の謎・・・・・
でも調べてみればみるほどいかに日本のことばには「にほん」「にっぽん」が混在していて、
そのことに日本人である私たちが無意識で無関心であるという側面も垣間見えると思いませんか?
坪井   この現実をことばの達人はどう感じているのでしょうか?
あの朝日新聞夕刊「素粒子」を書いていらっしゃったエッセイストの轡田隆史さんに
ぶつけてみました・・・
 
(轡田さんトーク)
確かに日本の読み方には2通りあります。でも昔は室町時代には「にふぉん」と読んでいたり「じっぽん」とも言っていたりしたようだ。そして現代になって「にほん」が定着してきたようです。日本最大の国語辞典・小学館の日本国語大辞典を見ても「にほん」としている言葉のほうが多いんだ。

でも、戦前は「にっぽん」が多かった。これは大日本帝国(だいにっぽんていこく)の影響。高齢の方々がにっぽんと発音するのもこれに関係するのでは。当時の憲法は大日本帝国憲法この場合の日本は「にっぽん」。で、現在の憲法である日本国憲法は「にほんこくけんぽう」ですよね。この辺から「にほん」に変化してきたんじゃないかな。

「にほん」「にっぽん」どちらを使っても間違いではない。以前、作家の丸谷才一さんも同じことを語っておられたなぁ。(笑)ただ、私自身は意識的に「にほん」と言うようにしているんです。これは。なぜなら・・・・!(力)

「にっぽん」と言うと意識的に力が入る。日常会話で使うと、眦(まなじり)決してって感じで力が入った印象になってしまう。「俺たちは大国だ!」「アジアでも大きいんだ!」といような威張った感じでしょ。それは避けたいな。
だから私はあえてソフトな言い方を選択し穏やかに相手に語り掛けたいので「にほん」を使っています。(柔)

自国の読み方が2通りあるのは珍しくはない。アメリカ人だって「USA」「United states of America」と使い分けるし、イギリスも同じ。

でも大事なのは・・・・!(力)
特に今の日本の若い人たちがどういう意図で「にほん」「にっぽん」を使うかでしょ。
自分の国の名前をどう発音するのかを、アジアや世界の座標軸の中で考えてみなくてはならないと思うんだ。自分の国についてそういう意識がなければ、相手の国に対しての配慮もできるはずがないのだから。ね。
 
 
田原    自分の国名をどう読むか・・それが世界の中の日本を考えることになる・・・か。
萩野   なるほど、とても大切なことですね。私達もアナウンサーとして現場で直面しなければ、もしかしてここまで現実や意味を考えることをしなかったかもしれないですもんね。まだまだだなあ。
坪井   今回のテーマはとても奥が深くここで調査報告したものもほんの序章に過ぎません。

ここから先はみなさん自身で考えてみてはいかがでしょうか?
日本の見方が変わるかもしれませんよ・・・
私たちも機会があればまた取り上げます!
    
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