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- 言葉の戦略?!和製外国語の用法-
  Reported by 田原浩史



坪井さーん、この服!
 
萩野   坪井さーん、この服いかにもセレブって感じですよねー!
坪井   それを言うなら、セレブ風なんじゃないの?セレブって人のことでしょ。
萩野   ははは(笑)!さすが坪井さん!最近は「セレブ」っていう表現がものすごく多用されていますよね。
坪井   そもそも「セレブ」ってさ、セレブリティ(celebrity・・・元々は「名声、名士」という意味。そこから祝福された人々。つまり限られた成功者、著名人という意味)っていう英語でしょ。限られた小数の人にしか使えないと思うんだけど。
田原   「セレブ」って言葉は、上品で高貴な雰囲気はイメージ出来るけど、突き詰めていくと何だかよく分からない言葉だね。
もしかしたら、そんな風に、外国語が日本語に定着して広まる過程で、本来の意味とはズレた言葉って沢山あるんじゃないのかな。また、最初から違うニュアンスで輸入されている言葉も、あるかも知れないね。
坪井   和製英語はその典型ですよね。例えば「オーダーメイド」


イタリア語ではですね
 
萩野   英語だけでなく、他に和製イタリア語もありますよ。例えば「カフェラテ」に始まる、「キャラメルラテ」や「ミルクティーラテ」。本来の「カッフェラッテcaffelatte」は、caffeがコーヒーでlatteが牛乳。だから、最近よく使われるカフェラテのことを指す「ラテ」という言葉だと、牛乳だけになっちゃうんです。それから「パスタ」。イタリア語のpastaは生地全般を指す言葉なので、スパゲッティやラザニアもパスタなら、デザートのケーキをさす場合もあるんです。だから、スパゲッティを食べるときは、「スパゲッティ」を食べるって言うんですよね。
田原   でも、不思議なことにパスタの方がお洒落な感じがするんだよね。
萩野   そうですね。最近ではすっかり、お洒落な言い方が「パスタ」で、懐かしいナポリタ
ンのようなメニューが「スパゲッティ」っていうイメージになってしまっていますもんね。私ナポリタン大好き(笑)。
坪井   確かに本場のイタリアンレストランへ行くとメニューには「パスタ」という括りになってその中に「スパゲッティ」や「フェトチーネ」「ニョッキ」などの種類が書いてあるよね。さすが萩野アナ、イタリア語にはうるさいなあ。

テレビ朝日の食堂も「パスタ」 私ナポリタン大好き!
 
田原   こうやって考えてみると、日本語はかなり外国語を受け入れやすい性質があるようだね。そして、受け入れた外国語が日本でしか通用しない意味や形に変化した時「和製外国語」になるんだろうね。それが英語なら「「オーダーメイド」のような和製英語」というふうに。
坪井   そうですね。これだけ外国語や和製外国語が氾濫しているのですから、きりが無いくらいありますよね。


「日本語は外来語を受け入れやすい言葉?」


今回は威圧語に注目
 
田原   歴史的に見ても、日本は大陸や朝鮮半島とのつながりが古くからあることは、小学校でも勉強したよね。「遣隋使」がその初めだね。古くは万葉の時代から、外国から文化や言葉、文字を輸入している・・・。
萩野   おっと!勉強会っぽくなってきましたね(笑)
田原   えーと、結論を言うとね、ぐぐっとしぼり込んで、最近使われている「和製外国語」や「外来語」の用法から「威圧語」とよばれるものに焦点を当てようと思っているんだよ。
坪井・萩野   威圧語ですか?何ですか?
田原   『日本語の化学変化』岩松研吉郎著 日本文芸社によると、抽象的な高級感・新しさをイメージさせる言葉をそう呼ぶらしいんだ。
坪井・萩野   へえ〜!
田原   「セレブ」はその代表的な例だといえるね。もともとは、ごく限られた、成功をおさめた人達や大富豪を指していたのが、ハリウッドスターなど、一般人からは手の届かない雲の上の存在を指すように意味の拡大が起こっているよね。
萩野   そうですね。それに、セレブリティーが「セレブ」という風に略された形で広まっているというのも特徴的ですよね。略語の形で、しかも意味も変容して浸透しているなんて。まさに和製外国語ですね。
坪井   でも世の中に浸透させているのは雑誌やテレビなどのマスコミの影響もあると思いますね。インパクトや独自色をだそうとするため新しい言葉をドンドン作って世に出している。そして若い人達が広める。責任は大きいですよ。だからこそ自戒を込めてこれからも言葉には敏感になろうと思います。
田原   今回「威圧語」という言葉は初めて聞いたんだけど、新しい言葉の使い方かもしれないから、岩松先生に聞いてみよう!


慶応義塾大学岩松教授

岩松先生
もともと学問的にも一般的な言葉ではないから、「威圧語」というのは聞き慣れないかもしれないね。実はこの用法は、話し手が聞き手に対して、内容をより上手く伝える効果を狙った「言葉の戦略」といえるんだよ。

基本的な「言葉の戦略」は次の二種類があります。
@同化語(法) 相手と同じレベルに自分を合わせる言葉や、話し方。
幼い子供に「ぼく、ぶーぶ好き?」と話しかけることで、親近感を出して仲良くしようとする時。
円滑なコミュニケーションを図ろうとして上司が部下に対して若者言葉で話しかける時などに見られます。
A異化語(法) 相手に「自分とは違う」と思わせて、相手との関係性の違いをはっきりさせて、より効果的に伝えようとする言葉や話し方。
相手に多少の違和感・驚きを与えて、自分の方に引き込む効果のある言葉や話し方。

今回のテーマの「気になる和製外国語」はこの異化語(法)の表現のひとつだね。
「セレブ」を例に挙げて考えてみよう。「セレブ」以前に使われていた同類の言葉は「ハイソ(ハイソサイエティの略語・・・和製英語)」だったね。しかし、「セレブ」という外国語の略語を使うことによって、聞き手に「新しさ」と同時に「自分よりもさらに詳しく知っていそうだ」「自分とは何かが違う」と思わせて、話しに引き込む効果が生まれるんだよ。

田原 たしかに、聞くほうは「何それ?」って興味がわきますね。

岩松先生
そう、しかも聞き手に、自分よりも「高い立場」や「遠い立場」であることを感じさせることで、優位に話を展開することが可能になるんだよ。プレゼンテーションで専門用語を多用する場合は、「専門知識がある、情報を持っている」という印象を与えて聞き手を引き付け、効果的に内容を伝えようとする戦略が見えるね。

田原 ですが、まったく知らない言葉を連発されると、聞く方はつらいですね。

岩松先生
そう!だから、聞き手が知っているか知らないか「ギリギリ」のところを攻めて、「はっ!」とさせるんだよ。ファッション関係の広告戦略はここにあるようだね。
「セレブ」から「celebrity 」を連想して、ギリギリで意味がわかるよね。いまや「セレブ」は「ハイソ」よりも、より豊かで立派なという意味合いが加わり、ただお金持ちというだけじゃなくなってきた。ことばの情報量が多くなっている。
「ハイソ」とは似ているが、明らかに違う。その意味では異化語なんだ。だから威圧語としての効果も高いんだよ。

「威圧語」は相手をはっとさせて引き付ける、心理的なインパクトを与えて引き付ける用語や表現方法のこと。

聞き手を圧倒的に威圧して、萎縮させてしまうと威嚇になってしまい、効果はないから、かなり頭脳的な戦略だね。

田原 伝え手としての私達も「言葉の戦略」を研究すべきですね。


言葉の戦略ですか

岩松先生
話し手は、無意識のうちにも言葉の戦略は常に考えているはずだよ。聞き手との距離感や関係性をどう想定するかによって、話し方を変えているはずなんだ。異化しながら同化するなど、かなりの頭脳プレーが必要だね。メディア、特にテレビは視聴者の反応がその場で感じられないから、言葉を発するときの戦略を意識する必要があるね。

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田原   会話の中にちりばめられている外国語は、使い方によって、さまざまな効果を狙ったり、戦略を立てることが出来るんだね。だからこそ、適切な戦略、言葉の選び方が大切なんだね。
坪井   世界中の情報が飛び込んでくる世の中になって、言葉もボーダレスになったことで新しい表現や定義が生まれている。まさに言葉は生きていると再認識しました。
萩野   外国語を輸入して、日本独特の解釈を持つ新外来語が生まれれば生まれるほど、本来の意味への知識や、変容の過程に気持ちを馳せることが大切なのではと、改めて感じました。

    
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