アナウンサーになって十七年目になりました。後輩にアドバイスする立場になったため、気をつけて放送を見ていると、「これはおかしいぞ」と思う言葉遣いが、実に多くなりました。視聴者の方々から「アナウンサーの言葉が乱れている」というご指摘を受けることも少なくありません。それは漢字の誤読に始まり、敬語の使い方や若者言葉の安易な使用、さらには、言葉の歴史的な背景を知らないことによる間違いなど、多岐にわたります。しかしその原因は、正しい言葉遣いを知らないことや、単なる誤用というだけではない、大きな社会的背景があるのではないかと考えています。
いま、「言葉の乱れ」と指摘されている現象のひとつひとつは、若い世代を中心に、まさに言葉が変化しようとしている証拠であるといえます。「アナウンサーの言葉の乱れ」も、そのひとつの現象であり、「言葉のプロ」の領域にも変化の波が押し寄せてきているのです。
若手アナウンサーの言葉遣いで、特に気になる変化が見られるのは「敬語」です。正しく敬語を使える若い人は本当に少なくなっています。
自分が入社当時注意された敬語の誤用は、尊敬語と謙譲語の混同が主なものでした。いまでも誤用の例としてよく挙がる「○○社長はおられますか」など、本来尊敬語として「○○社長はいらっしゃいますか」と言うべきところを、謙譲語の「おる」を使ってしまい、その後に尊敬の助動詞「れ」をつけて尊敬表現にしている場合などです。
しかし、最近の敬語には「尊敬語」と「謙譲語」の取り違えというような簡単なものではなく、もっと複雑で、これまでには思いもよらなかったような新しい表現さえ生まれています。
また、本来は誤用とされていた表現が、ここ十年ほどで、特例として正しい使用であると認められるようになったものもあります。「お申し付けください」や「お申し出ください」がその一例です。
店員が客に対して、自分に「申し上げなさい」「申し出なさい」といっているわけですから、立場の逆転がおきているのです。しかし、その使い方は、他の場面では使用されることがほとんど無く、丁寧表現として定着してきたため、特例となったといわれています。
言葉は、時代とともに確かに変化しています。 |