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- 第二回テーマ「いまどきのマニュアル語」 -

今回のテーマで取り上げるのは、「マニュアル語」といわれるものです。ファミリーレストランやコンビニエンストアを中心に幅広く使われている言葉です。
皆さんもよくご存知だと思います。「気になる」と思っている方も多いでしょう。
そこで今回、この言葉をテーマに取り上げました。

【坪井・萩野】
あるファストフード店での店員の言葉・・・
注文の番が来たら・・・
「いらっしゃいませ。ご注文のほうよろしかったですか?」
商品が出てきたら・・・
「こちらがチーズバーガーとポテトのセットになりますっ!」
そして代金ちょうど払ったら・・・
「515円ちょうどお預かりします。」
この会話に気持ち悪さを感じませんか?

「ご注文のほう」の「ほう」って何だ?しかも、
「よろしかったですか?」なんで過去形なの?
「こちらが〜になります」って変身するのか?
「ちょうどお預かりします」って、預かるなら、後で返してくれるのか?

正しい日本語での会話はこうなります。
「いらっしゃいませ。ご注文は何になさいますか?」
「こちらがチーズバーガーとポテトのセットでございます!」
「515円ちょうどいただきます。」

【坪井】
私は以前から、どうもこういう会話が気持ち悪くてしょうがないんです。しかも、こんなヘンな応対は日常茶飯事。おそらく皆さんも一度は経験しているでしょう。

【田原】
こういう言葉使いは、今ではファミリーレストラン(以後ファミレスと略します)やコンビニエンスストア(以後コンビニ店)を中心に幅広く使われているよね。
だからと言って、それがお客さんに受け入れられているのかというと、必ずしもそうではないのが現実だね。
【坪井】
文化庁の「国語に関する世論調査」をみてもこれらの言葉が気になるという人が増えているようですしね。
こういう言葉って、きっとマニュアル化されていて、アルバイトや店の人は深く考えないで、そのまま使っているのではないでしょうか。
だってお客さんが子供でも、お年よりでも、みんな同じテンポと話し方だもの。そういう意味では、心が通っていないというか、聞いていて私は気持ちがよくないです。
【田原】
では、なぜ、このような言い方になるか、いまどきの「マニュアル語」について、慶応義塾大学岩松研吉郎先生は著書「日本語の化学」ぶんか社の中で説明しています。
マニュアル語の代表ともいえる「〜からお預かりします」を例にして、かいつまんで説明します。
 
「預かる」広辞苑から
@ 引き受けて保管する。世話を任せられる。任せて取り仕切る。
A 処置を保留する。勝負をきめずにおく。

店頭で使われる場合は@の「世話を任せられる。任せて取り仕切る」に近い意味ですね。

実は、この「〜お預かりします」という言い方には、「店員の立場」が反映されているということです。
かつて、店主と客とが直接相対して売り買いをしていた個人商店が多い時代だと、店主は客に対して「980円ちょうだいします」 「(その前に)1000円お預かりします」という直接的な言い方でよかった。
ところがスーパーやファミレス、コンビニ店では、店員やアルバイトがレジ担当者として、店主の代わりにお金を受け取ります。
レジ担当者は、あくまでも「店主とお金の仲介人」の立場だから、客のお金を「お預かりします」ということになります。
だから、このような言い方になると岩松先生は分析しています。
また、「〜のほう」「〜になります」という言い方も、断定的な言い方を避け曖昧な言い方で『相手をたてる』心理が現れている表現で、本来正しい敬語の用法と根本は同じである点が興味深いと指摘しています。
(次回は、曖昧語法がなぜ敬語表現になるのか、私がまとめてみます。)

【坪井】
これらの「マニュアル語」ですけど、一方で、言葉は時代を映す鏡だ、変化していくものだからしょうがないよ、と感じる人もいるでしょう。しかも、「〜のほう」という表現は丁寧な表現方法のひとつだという説や、「よろしかった・・・」という言い方も、地域によっては、現在形でも過去形で使っているところもあると聞いています。

しかし最近、ある都内の有名ファミリーレストランでは、完全にこの「マニュアル語」を見直して、正しく、心の通った言葉遣いを目指しています。私、先日、そのファミレスに行きましたが、本当に「〜のほう」とか「1000円からお預かりします」なんて言葉は使っていない。実に気持ちよく食事ができました。

この現象は、まさに現代の社会を表していると思います。なんでも効率よく、淡々と、システム化された形を崩さないようにという点ばかりに重点を置き、人間らしさを失ってはいないでしょうか。「商売」ではなくて「ビジネス」になってしまっていると思うのです。

★編集後記★

私は学生時代、接客のアルバイトをしていましたが、一番気をつけていたのは、人間相手の仕事だから、その相手とのコミュニケーションを楽しんだり、気持ちよい会話で接客しようという気持ちでした。

だからこそ、今、気持ち悪い言葉遣いをしている店があったら、その店にはまた行こうとは思いません。逆に、正しい日本語を使っている店員がいたら、次もこの店にしようと思います。
全国の店長さん!これって結構大事なことだと思いますよ!

    
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