トップ > にほんご学習帳 トップ > 言葉の現場検証
言葉の現場検証
  reported by 田原浩史

先日女子プロゴルフ「プロミスレディース」の中継を担当しました。
解説の小林浩美さんとコースの難しさについて話していた時に出て来た言葉が
冒頭の「難易度」です。
以前からちょっと変だぞ?と思っていたので考えてみました。


「難易度」という言葉は、ゴルフ中継ではよく使われます。
例えば「このホールは難易度が高いので、
ティーショットでフェアウェイを外さないようにしないといけませんね」という具合です。

「難易度が高い」とは「難しい」という意味です。
だったら「難度が高い」もしくは「高難度」が正しいはずです。
しかも、「易」の意味がほとんど反映されていません。

「難易度」が使われる時は、必ずといっていいほど「難しさ」を基準に表現するときです。
「難易度が高い」= 難しい、    
「難易度が低い(高くない)」 = 難しくない
決して「易度が高い」 = 易しい とは言いません。
フィギュアスケートや器械体操でも「高難度のジャンプ」「難度の高い技」と表現します。
難易度とはいいません。
「難易度」が頻繁に使われるスポーツはゴルフ以外には、ほとんどありません。

「全英リコー女子オープンゴルフ」の準備をしていた進藤アナに聞きました。


準備中の進藤アナと

進藤アナ「難易度って意味が良く分からない言葉なので、使わないようにしています。
      難しいホールとか、バーディーがとりやすいホールという表現にしています。」

田原   「そうだよね。難易度って正確な意味がよくわからない言葉だよね。」
進藤アナ 「難しさを意味しているのだろうな、っていうイメージはみんな分かると思うのですけど、
      難しいのか、易しいのか言葉として曖昧ですね。
      『難易度が2番目のホール』は『2番目に難しいホール』と言い換えます。
       突き詰めると、よく分からない言葉です。
      そこが気になっちゃうので、使いません。

ここで「難易度」が使われる理由を考えました。
ホールデータという表があります。これです。


ホールデータ表

18ホールの各ホールの平均スコアが計算されています。
そして、パーに対しての難しさが数字で表され、
「難しさ」や「易しさ」の度合いがまとめられた一覧表です。
基準となる数字に対して、難しさの度合いをプラス、マイナスの数値で表していますから
「難易度」が示されているといえます。

しかし、順番は難しさを基準に示されています。
一番難しいホールは難度1。もっとも易しいホールは難度18。難しい順です。


よく考えてみると・・・。

数字に着目してみます。
仮にパー4のホール  全選手の平均スコアが 4.16 難度順が2 だとします。
この場合規定打数4打でホールアウトするとことが、全選手の平均スコアが4.16。
プラス0.16の難しさということになります。
18ホール中、2番目に難しいという意味です。

反対に同じくパー4のホール 全選手の平均スコアが 3.91 難度順18 ですと、
規定打数4打に対して全選手の平均スコアが0.09少ないということになり、
バーディーが多く出ていることになります。
易しいホール、バーディーが取りやすいホールということです。
難度順が18ということは、最も易しいホールです。

では、難しさと易しさを数字で表すのだから「難易度」で表現できるのでしょうか?
パー4を基準にして平均が4.16なら難度プラス0.16、 3.91なら難度マイナス0.09となるはずです。
やはり難しさが基準の表現となります。

このように突き詰めて考えていくと「難易度」は「難しさ」や「易しさ」の度合いや、
ホールごとパーという基準値に対しての難しさのふり幅をプラス・マイナスで示すものといえます。
ホールデータ表にはまさにそれが表されています。

しかし、それを「難易度」という言葉で表現して伝えようとすると、
結局は難しさを意味するものとなり、「難度」を使うほうが適切だということになります。


進藤アナのコース資料

「難易度」は難しさを表現しようとする雰囲気は伝わる言葉です。
このごろ良く耳にする「世界観」や「原風景」といった言葉にも、
同じような曖昧な雰囲気言葉の要素を感じます。
表現しようとしていることは、何となくは分かりますが、突き詰めていくと意味がよく分かりません。
進藤アナは「世界基準」という言葉に同じような曖昧さを感じているといいます。

私たちアナウンサーは、便利な雰囲気言葉をなんとなく使うのではなく、
意味をよく考えて、より適切な表現をするように心がけています。

トップ > にほんご学習帳 トップ > 言葉の現場検証