2007年3月7日(水)9:00〜9:54pm第19話「殺人シネマ」

 往年の名映画監督・織原(森山周一郎)が、自らの作品を鑑賞中に映画館で殺害された。かつては新進気鋭の若手監督として注目を集めていた織原だったが、創作意欲を失い、いつしか映画界でも忘れ去られた存在に。支配人・江守(石井洋祐)や清掃係ののぶ子(松本留美)によると、最近は昼間から酔って映画館によく来ていたという。
 織原の作品をDVD化して発売しようとしながら、織原に断られ続けていたビデオ会社の海老名(鈴木リョウジ)も容疑者として浮上。織原が死ねば映画の著作権は遺族に移り、DVD化もしやすくなる。そうなれば会社に利益をもたらすことになるのだが、決め手はない。
 そんな折り、織原作品に主演していた女優・島加代子(星由里子)を事件当日映画館で目撃したという人物が現れた。右京(水谷豊)と薫(寺脇康文)は思わず息を呑む。

 さっそく加代子を訪ねる右京と薫だが、加代子は事件当日自宅にいたとあっさり否定。織原と会ったのも半年前が最後。織原が体を壊したと聞き、見舞いのつもりで会いに行ったが、心ない言葉でひどく傷つけられたという。誰に対しても平気でひどい言葉を投げつける。加代子はそんな織原をあまり良く思っていないらしい。
 支配人の江守も事件当日、加代子は来ていないと証言。清掃係ののぶ子も見ていないという。
 犯人は加代子のように織原を良く思っていない人間か?右京らはかつて織原の映画に出演、監督の織原にひどく叱られ、ストレスで体を壊した若手女優がいたことを知る。絹ちゃんと呼ばれていたその女優は加代子とも共演。ただ、当時を知る人間によると、現在はどこで何をしているのかわからないらしい。

 加代子に会いに行くなど捜査を続ける右京らは、内村刑事部長(片桐竜次)に呼ばれるが、なぜかお咎めなし。内村は加代子が犯人かと心配する。どうやら加代子の熱烈なファンらしい。
 右京は再び加代子を訪ね、絹ちゃんについて質問するが、なぜか加代子は大部屋女優など覚えていないと語気を荒げて自宅へと入ってしまう。その場にいた海老名によると、織原はかねてから映画館で死ぬのが夢だと言っていたとか。しかも自分の映画を見ながら死にたい、とも。犯人の目星をつけていた右京は、ある確信をつかんで…。

 右京らは再び映画館を訪ねると、支配人に絹ちゃんこと青葉絹子に会いにきたという。AOBA KINUKO…ローマ字の並びを変えると、AKAI NOBUKO…つまり清掃係ののぶ子になる。のぶ子は自分が絹ちゃんであることを認めるが、共演した加代子は自分のことなど知るはずがないという。
 と、そこへ加代子本人がやってきた。右京らの巧みな追及にのぶ子はついに犯行を自供。しかし、加代子と江守は懸命に否定する。が、のぶ子が血のついた制服をクリーニングに出した事実を突きつけると、加代子らも言葉を失ってしまう。

 自分の作品を見ながら死にたい。そんな織原の夢を叶えてあげたい、それがのぶ子の犯行の動機だった。偶然、のぶ子の犯行を見てしまった加代子と江守は、のぶ子の織原を思う心を理解、彼女を守ろうと誓い合ったという。
「信じたくなかったんですよ。これほど素晴らしい映画を作った監督が、誰かに恨まれたあげく殺されたとは…」。
 事件のほろ苦い結末に、右京はわずかに救われた思いを噛みしめていた。

ゲスト:星由里子

脚本:岩下悠子
監督:橋本一