2006年1月25日(水)
第14話 「アゲハ蝶」
 野口史明(渡辺憲吉)の部屋。テーブルには蝶の標本と札束が置かれている。「お断りですよ」。テーブルをはさんで対峙する相手を、帰そうとする野口。その時…!
 翌日、野口は自室で刺殺体となって発見される。そこへ、熱心な蝶コレクターの染井繁(飯田基祐)が、警察の制止を振り切り飛び込んでくる。「蝶を取り返してください!」。染井は、野口が持っていた世界に2体しかない新種の蝶『ミヤモトアゲハ』の標本のことを言っているのだ。確かに、前日、札束と一緒に置かれていたその標本は、室内から姿を消していた。ミヤモトアゲハの相場は300万円。もし、標本目当ての殺人だとすると、もう1体の持ち主も危ない。杉下右京(水谷豊)と亀山薫(寺脇康文)はさっそく、保管場所の城南大学へミヤモトアゲハの第一発見者、宮本洋一郎教授(並樹史朗)を訪ねる。
 標本は無事。だが、助手の小西美紗緒(板谷由夏)は、宮本教授の悠長な態度が心配でならない。するとそこへ、あの染井が300万円を持って訪ねてくる。ミヤモトアゲハを売ってくれというのだ。教授にその気はまったくないのだが、染井は連日のように現れるという。「あきらめませんよ…いつか必ず…」と、ぶつぶつ言いながら去って行く染井。
 野口宅から盗まれた標本は、かつてオークションにかけられていた。300万円で落札したのが野口。競り負けた相手は染井だ。その後、染井はどうにか金を工面し、幾度となく野口の家を訪れたという。しかし、野口が標本を売ることはなかった。その無念さが、染井を動かしていた。「蝶を手に入れるためなら、どんなこともする…」。
 その夜、城南大学に再び染井が現れる。美紗緒を捕まえて標本を売ってくれと迫る染井。札束はさらに増え500万円。実家の掛け軸を売ったという染井の狂気に、美紗緒は恐怖を感じ、逃げるように大学を後にするのだった。
 あくる日、大学の研究室で宮本教授の他殺体が発見される。標本も見当たらない。当然、染井は重要参考人として聴取を受けるのだが、「天罰ですよ」と笑うばかり。「あの蝶を自分のものにする資格があるのは、この世でただ一人、僕だけなんだ…」。
 教授も野口も、「あの蝶を心から愛してはいなかった」と言う染井。確かに、野口は染井のような蝶愛好家ではない。しかし自宅には、染井が持っていたのと同様の、ミヤモトアゲハの採取・目撃地点が詳細に記された地図があった。その分布状況を見て、右京はある確信を得る。ミヤモトアゲハの羽化地は、採取された地点よりずっと北にあり、季節風に乗って和歌山まで飛ばされてきたのだと。風上には、5年前に地元住民の反対を押し切って操業を開始したものの、1年で閉鎖となったある企業の工場があった。野口は、そこの元社員。また、宮本教授が代表を勤めていた蝶協会のメイン・スポンサーでもある。工場と今回の事件に、何か関係があるとしたら? 右京は、ミヤモトアゲハが工場の自然破壊による“異常固体”なのではと推理を広げ…。