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タイ・マレーシア・シンガポール編 撮影日記

ターピー川沿いに暮らす人々
原風景の広がるスラーターニー
タイ南部の港町、スラーターニー。旅行者はこの街から船に乗って、有名なアイランドリゾート、サムイ島やパンガン島に向かう。駅には、そんなバックパッカーの姿が多く見受けられた。一方で、地元の人々に目を向けると、昔ながらのどこか懐かしい空気が漂っている。街を流れる広大なターピー川。そこでは、男性たちが早朝から漁をする。川岸には木造の高床式住居が立ち並び、女性が川の水で食器や洗濯物を洗っている。子供たちは飽きることなく犬と戯れていた。
ここスラーターニーの駅からは、山奥の町、キーリー・ラッタニコムまでの区間を走るローカル列車が出ている。この路線は朝と夕方の1日1往復。沿線に住む人々が通勤・通学に利用する、全長27キロ、所要時間1時間の単線の鉄道だ。私たちは夕方5時の列車に乗った。スラーターニーの学校に通う学生たちが、授業を終え続々と駅にやってくる。彼らの楽しみは駅前に並ぶ屋台でおやつを買う、いわゆる「買い食い」だ。麺類や串焼きのようなもの、クレープに似たおやつなどが並び、みなそこで大量に買っていく。食事1食分はあろうかという量、夕方のこの時間に食べて、晩御飯は果たして食べられるのだろうか、と疑問に思うほどであった。
出発すると車内はまるで学校のような賑わい!ゲームで盛り上がる男子。お喋りに花が咲く女子。それに脇目もふらず勉強や読書に励む人。彼らのリーダーは車内を闊歩し、カップルで座っている男女は周りからちょっかいを出されていた。スラーターニーの街を抜けると、草木が伸びきった森林地帯を突き進む。列車の窓からは、風はもちろん、列車の勢いで刈り取られた草までもが入ってくる。駅はといえば、森の中にほとんど駅名板を立てているだけ。学生は、列車が止まるか止まらないかのうちに飛び降り、木が生い茂る中へと三々五々散っていく。終着駅キーリー・ラッタニコムも民家とわずかな商店があるのみ。その先はジャングルが広がるばかりだ。
素朴で活発な学生たちを乗せて、大自然の中を駆け抜ける列車。秘境ルートと呼ばれる醍醐味を存分に味わえた気がした。
ディレクター 許斐康公
スラーターニー駅前の屋台
駅名板だけの駅