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タイ・マレーシア・シンガポール編 撮影日記

朝のフアランポーン駅南本線ホーム
「旅のはじまりはタイ・バンコク」
今回はタイ・マレーシア・シンガポールのマレー半島縦断2700キロの旅。
バンコクからシンガポールまで、国際列車やローカル列車、新型列車など様々なタイプの列車に乗り、その都度、人も雰囲気も全く異なる体験ができる旅だ。
撮影は7月中旬に始まった。出発は、タイ最大にして最古の駅、バンコク・フアランポーン駅。夜通し走ってきた列車を清掃する乗務員、ここから全国各地へと旅をする人々。24時間営業のこの駅は朝から活気づいていた。そんな人々が朝8時になった瞬間に一斉に立ち止まる。タイでは朝8時と夕方6時に国歌が流れ、全員その場で直立不動の姿勢を取らなければならない。駅には2016年に亡くなった前国王ラーマ9世の祭壇が設けられていた。タイ国民は国王が亡くなってから1年間、喪に服すらしい。国歌斉唱と相まって、国への愛国心と敬虔さを実感しつつ、バンコクの街を出発した。
乗車したのは全席3等席の普通列車。車内は、タイ有数のビーチリゾート、ホアヒンに遊びに行く若者の姿が目立っていた。列車はバンコクも郊外を抜けて来ると、緑一面の田園地帯、そして水田地帯へと入ってくる。タイ国鉄の普通列車は窓が開けられるので、車内には爽やかな風が吹き渡る。私たちもその心地よさを感じながら撮影していた。
ところが、当の学生たちは、初めこそ遊びに行く高揚感に浸っていたが、しばらくすると友人と話すわけでもなく、かといって外の景色を眺めることもなく、みな手元のスマートフォンばかりをいじっていた。その光景は、日本のそれと同じもの。せっかくの景色なのにもったいない…。
『人のふり見てわがふり直せ』ではないが、日本でもスマートフォンから顔を上げてみると案外素敵な景色が広がっているのかもしれない。そう思える出来事だった。
ディレクター 許斐康公
フアランポーン駅の構内
タイの若者もスマホは手放せない