世界の車窓から

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ドイツ編 撮影日記

海の上を走るカートレイン
北海を巡る
ロケも、はや8日目。北ドイツの北海沿岸を巡っている。一昨日は船でボルクム島へ 渡り、島を巡るカラフルなミニ列車を撮影。町を歩いていたら家を囲っている不思議なものを発見。なんと鯨のアゴの骨!18世紀、ボルクム島の漁師たちはグリーンランドで捕鯨をしていて、そのとき土産に持ち帰ったものだという。ほとんど化石のようになっていて、300年にもなる長い時の流れを感じた。
今日はハンブルクからドイツ最北端の島、ズュルト島へ向かった。この島はドイツ本 土と土手道で結ばれていて列車で渡ることができる。両側の車窓に海が広がる。この 土手道は鉄道オンリーで、車で渡れる道や橋はない。その代わりカートレインが走っ ていて車に乗ったまま運んでくれる。帰りはこれを利用した。左右だけでなく前方も よく見え、この時初めて海の中に造られた細い一本道を走っていることを実感。なぜ か子供の頃に見た映画「十戒」の名場面、モーセが神に祈ると海が割れて道が現れる シーンを思い出した。
北ドイツはとにかく平坦。山がなく車窓はちょっと退屈。時折現れる菜の花畑と風力 発電用の風車が目を引くだけ。どうしても人に目がいく。ホームで悲しげに見送る人、車窓をじっと見つめる老婆、仲睦まじい若い恋人たち、忙しく働く車内販売の女性、 母親の胸で眠りこける幼子・・・本当に様々な人が、それぞれの人生を抱えて列車に 乗っている。年をとったせいか、そう感じてしまう。始発駅のハンブルク・アルトナ で妻を見送る初老の男性がいた。彼の趣味はカメラで妻の趣味は美術館巡り。お互い 行きたい場所も見たいものも違うので、旅行は別々の一人旅が多いという。列車が動 き始めると追いかけてきて二人で手を振り合っていた。若い頃だったら微笑ましいと 思うだけだったかもしれないが、私も結婚して35年、夫婦の在り方について考えさ せられた。一人になった奥さんが、二人でいる時とは全く別の表情を見せていたのが 心に残る。
ディレクター 福本 浩
クジラの骨の垣根
カラフルなボルクム島の列車