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ドイツ編 撮影日記

沿線には心和む春の風景が見られる
めぐる季節を旅する
ドイツのフランクフルトに降り立ったのは4月の中ごろ。長い冬も終わり、ようやく春めいてきたそんな一日だった。冬着を脱ぎ捨てたフランクフルト市民たちの足取りは軽く、自転車は颯爽と風を切る。でも街路樹をよく見ると、枝にはまだ葉っぱがついていない。茶褐色の樹皮がストリップ状態だ。ちょっと早すぎたかな、そう思った。新緑に包まれたヨーロッパはとても美しい。できれば春に彩られた美しいドイツを撮りたいと思っていたからだ。
その昔ドイツ語には春を表す言葉が無かった、ということを何かの本で読んだことがある。ドイツの冬はとても長くて、やっとめぐってきた春はあっという間に通り過ぎ、すぐに夏がやって来る。ドイツの古い民謡に春を謳ったものが多いのは、短すぎる春への期待感からではなかろうか。ドイツに到着早々、そのことをドイツ人の女性コーディネーターに問うてみたが、もちろん今は春を表すドイツ語があるわけだから、期待したような答えは返ってこなかった。最初から微に入り細をうがってもしょうがない。旅に出よう。
まずはメルヘン街道に沿ってドイツの北へと向かう。スタート地点はフランクフルトの近くに位置するハーナウ。18世紀末、グリム兄弟が生まれたところで、この先、グリム童話の舞台になったところを辿りながら北上してゆく。
グリム童話を読んだのは思い出せないくらい遠い昔だが、折角なので久しぶりにグリム童話を手にしてみた。但し、今回読んだのはグリム童話の初版本の日本語訳である。つまりグリム童話の原型にあたる。グリム童話の初版本は、改訂版と内容がかなり異なっている。単純な勧善懲悪ものではなく、複雑な価値観が交錯し、残酷な部分もそのまま表現されている。18~19世紀、ドイツをはじめヨーロッパが置かれていた社会状況がにじみ出ていて面白い。子供より大人向けといえる。その後グリム兄弟は、童話に幾度か改訂を加えながら、子供たちにも親しめるものにしていったのだった。かつてグリム兄弟が闊歩していたシュタイナウからカッセルへ。北へ向かうメルヘン街道に、いつしか春が訪れていた。沿線の木々たちは緑の衣を覆い、 野っぱらには色とりどりの花々が埋め尽くそうとしていた。
ディレクター 浦野 俊実
ハーナウのグリム兄弟像
フルダ駅前のマグノリアは満開