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フィンランド編 撮影日記

北カレリア地方のヨエンスーへと向かう列車
心の故郷
フィンランドを巡る旅も終盤に差し掛かり、列車は北カレリア地方にあるヨエンスーへ到着。カレリア地方はフィンランドの人たちにとって一際、特別な地域。中世以来、統治国だったスウェーデンとロシアの戦いで何度も国境線が書き換えられたにも関わらず、フィンランド独自の民族文化が育まれてきた場所だ。フィンランド人を独立へと奮い立たせた叙情詩「カレワラ」もこの地方の伝承を集めたもので綴られている。そんなカレリア地方の中でも、特にヨエンスーの北に位置する「コリ国立公園」の景色は、フィンランドの人たちにとって原風景。『心の故郷』と呼ばれている。
岸壁の上から臨む湖と森に朝靄が掛かった景色は荘厳でどこか神々しい。撮影も忘れて見入っていると、20人ほどの子供たちが岸壁の上に登ってきた。子供たちは地元の小学生で、遠足に来たのだという。「コリ国立公園」はフィンランドで遠足の定番スポットだと誰かが教えてくれたが、それよりも子供たちの動きが気になって仕方ない。柵も何もない岸壁の上を、飛ぶようにずんずん進んでいくので、転落するのではないかとヒヤヒヤする。引率の先生も特に厳しく注意する風でもない。子供でさえも「自己責任」なのだろうか。日本ならこの岸壁の上に登る事すら許されないだろうか。などと考えていたが、調子に乗って崖のギリギリまで進んだ子供はしっかり怒られていた。多少の幅はあるが、危ないことをすれば怒られるのはどの国でも同じだ。
ハイキングに来ていたグループが岸壁の裏で何かを発見したらしい。後について見に行ってみると、木を組んで作った十字架があった。この十字架は少なくとも1991年にここが国立公園に指定される前からあったようだが、いつ、誰が、なぜ作ったのか詳しいことは一切わからないらしい。昔のフィンランドの人たちは『心の故郷』を眺めた後、ここで何を祈ったのだろうか。わからないことがかえって色んなことを想像させる。神々しい景色を見た後に不意打ちのように神秘的な十字架を見たので、思わず神社で参拝するように合掌してしまった。
ディレクター 浜田悠希
展望台からは森と湖の連なる景色を見渡せる
木でできた十字架