世界の車窓から

トップページ > 撮影日記

チェコ・スロバキア編 撮影日記

車体を傾けてカーブを曲がるスーパーシティ
ボヘミアを巡る旅
旅の序盤はプラハからチェコ西部ボヘミア地方を巡っていく。この地方は森と湖に囲まれた中世の街が点在する美しい地域。その街々では、ビール、温泉、白亜の城、国立公園……旅行好きにはたまらない名物や名所が待っている。
意気揚々とボヘミアを走り始めると、早速、2つの大きな障害に当たった。一つは、天気。ボヘミアにいたほとんどの間が曇りだった。そしてもう一つは、開かない窓。はじめに乗った高速列車スーパーシティは新幹線のような車両で、窓は開かない仕様になっていた。ガラス越しの撮影と、開いた窓から撮影したのでは、臨場感や開放感が大きく異なる。窓の外が薄暗いとなると尚更だった。ボヘミアの車窓は、まるでカフカやヤン・シュバンクマイエルのシュールな世界…と、良いように解釈をしようともしたが、解決策は一つしかなかった。良い瞬間を逃さないよう辛抱強く撮影していくことだ。
とはいえ、辛抱強く撮影していくにしても、思い通りの映像を撮影することはかなり難しい。それは、この番組のロケには“ロケハン”、つまり“撮影前の下見”がないからだ。例えば、ボヘミアの森を走り抜ける列車の撮影。地図で調べた場所に行くも、工事で車が入れなかったり、森が茂りすぎて列車が見えなかったり。仕方なく、さらに車を走らせると、美しい小麦畑があったので予定を変更する。だが、いざ場所を決めても、列車が定刻通りには来ない。チェコでは社会主義時代に行われなかった鉄道工事がいまだに各地で続き、遅刻は日常茶飯事だったのだ。30分や1時間待つのは当たり前、そうかと思えば、定刻通りに列車がきて慌てることも。
ぶっつけ本番での撮影は、その場で臨機応変に対応していかなければならない。しかし、だからこそ予期せず良い画が撮れたときの喜びもひとしおで、次第に絶対こんな画を撮らなければ、という意識も解きほぐされ、私の気も楽になっていった。
ディレクター 小峰 康平
曇り空の下列車を待つ
温泉地マリアンスケーラーズニェ