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撮影日記1

 アンカレジの町は、クルマはそれなりに走っているけれど、歩く人は少ない。アラスカの取材は、まずアンカレジを基地にしてスタートした。どこをダウンタウンと呼ぶのかわからないまま、北の町はずれにあるアラスカ鉄道の白い瀟洒な駅を訪ねて、明日からの撮影の打ち合わせ。「この場所で空撮するなら午前中のほうがいいでしょう」「必ず一番後ろの席に機材置き席を設けてあげる」などアラスカ鉄道会社は全面的に協力体制だった。今回コーディネーターは3日前ニューヨークからアラスカ入りしたポール、ドライバーはアンカレジ在住の大男ドン。共に〈やる気を見せる〉ナイスガイ。全てがなかなかいい感じで始まる。

 翌朝夜明け前の6時45分、アンカレジから南のスワードへの約4時間半の乗車から、車窓の旅はスタートした。アンカレジの町からすぐに海岸沿いを走るコースタル・クラシック。約1時間後にガードウッド駅で2人を乗せただけで後はどこにも停まらない。そう教えてくれたのはアラスカ鉄道の付き添いスタッフ、ティム。この人も、車掌との交渉や私たちへの撮影ポイントのアドバイスなど真に的確で、ロケの間ずいぶん助けてもらった。

 しかし、ガードウッド辺りから雲行きが怪しくなってくる。どうもターナゲン湾に面した、ポーテージ周辺は今回のロケでは鬼門というか魔の三角地帯のようだ。後日にも、何度かこの辺りを撮影するけれど、たいてい雨模様。ヘリコプターによる空撮をしようとした日には、前日の大雨により線路に支障が起きて、なんと列車は不通に。再度空撮に挑んだ日には、今度は強風のためヘリが飛ばないという事態となった。それでも悪天候だったからこそ、車窓の風景はアラスカらしい荒涼としたものが撮影できた……とよい方向に考えよう。

 氷河をいくつか過ぎて、アンカレジから3時間も過ぎると、空は晴れ上がり、路線の周りを囲む森や湖が美しく映えている。南部でもあるせいか、「秋の、紅葉の美しいアラスカ」にはまだ早いように思えた。

 昼前にスワードに到着。町の名前の由来となる、19世紀ロシアから領土を買い入れた当時の合衆国の国務長官、スワードの像を探すがなかなか発見できない。やっと見つけたそれは町外れにあり赤く錆びている。撮影していると地元の人は不思議そうな顔をして眺めていた。
 
ディレクター 宮崎祐治
車窓から見たスペンサー氷河
森を抜けると、もうすぐスワードだ
スワードからキナイ・フィヨルド・クルーズへ
撮影日記2

 さすがアラスカ、飛行機による移動が多いロケになった。空港で何度靴を脱ぎベルトを外して、セキュリティ・チェックを通過しただろうか。アンカレジからジュノーへ。さらにセスナ機でカナダ国境の町スキャグウェイへ。空から見る青い海と氷河によってつくられた稜線と点々と浮かぶ島々は美しいばかり。私たちは眠るわけでもなく、うっとりとそれを眺めていた。1時間ほどで見えてきたスキャグウェイは山に囲まれた小さな港町。この港にも豪華クルーズ客船が二隻停泊していた。ここからカナダのカークロスという町まで走るホワイト・パス&ユーコン鉄道を撮影する。

 19世紀末、カナダのユーコン川のクロンダイクで金鉱が発見されたことから始まったゴールドラッシュ。スキャグウェイはゴールドラッシュに沸くカナダのドーソンシティにつながるアメリカ側の入り口に当たる町だそうで、地図を見ると、ここから鉄路が敷かれたのも成る程と思う。メインストリートにわずかに古い町並みが残るだけで、レストラン以外はほとんどが宝石店。ゴールドラッシュの「名残り」なのか、豪華客船でやってきた金持ち観光客相手のせいか。町をブラブラする人は多いけれど、手持ちぶたさの様子。町のはずれの砂金堀を体験するアトラクションや線路脇の「ゴールドラッシュ・セメタリー」というメモリアル霊園に観光客が訪ねていた。(つまり、ほとんど観光するものがこの町にはないということかな)

 ホワイト・パス&ユーコン鉄道も撮影には協力的。明日からのスケジュールを鉄道スタッフと打ち合わせする間に、撮影の中村健さんと堀金さんが二人で町を撮影してくるという。「できるだけたくさん撮る」というのが「車窓」のポリシーだそうだから、二人に任せた。1時間しても二人は戻ってこない。車で探したが、どこにも見当たらない。「もしかすると」と思ってまだチェック・インしていないホテルのロビーに行くと二人は椅子に座って爆睡中。起こすと「だって、こんな小さな町、1時間で十分撮影できたよ」とのこと。夜、食事に出ると東西を山が迫っているスキャグウェイの町は真っ暗。町を往く人もわれわれ以外ほとんど見かけない、まさにゴーストタウンのようだった。
 
ディレクター 宮崎祐治
蒸気機関車は美しい
寡黙な、鉄道の男たち
蒸気機関車の煙は山火事のようだった
撮影日記3

 ホワイト・パス&ユーコン鉄道の走りを撮影するためにフレーザーという駅に向かう。フレーザーはカナダ国境を越えたすぐのところにあり、スキャグウェイからやってきた蒸気機関車はここで給水して、グルッとループで折り返して戻って行く。それを撮影しようとロケ車を降りようとすると、近くのハイウェイにある国境警備隊の男がすごい勢いで飛んできた。「国境近くで何を撮っているんだ」という剣幕。短い髪、レイバンのサングラス、腰には拳銃も光っていた。カナダへの入国審査はまだ済ましていないけれど、私たちは蒸気機関車が走り去る前に、どうしても撮影したい。結局クルマから降りなければOKということで、冷汗ものの、手持ち撮影となった。蒸気機関車が去った後、国境警備隊は「二度とこういうことはしないように」とまたサングラスを光らせた。「ボーダー」のジャック・ニコルソンや最近の「ノーカントリー」を思い出させる、まるで映画のワン・シーンのようだった。

 ホワイト・パス&ユーコン鉄道のユーコン・アドベンチャーは、エンジンの車体が緑と黄色の可愛いデザインの列車だ。この鉄道は、以前ゴールドラッシュ時代に繁栄したカナダ、ユーコンの州都ホワイトホースから走っていたそうだけれど、今はそれより短い距離の、人口400人余りという小さな町カークロスから出発する。しかし、ここには宿泊施設はない。私たちはホワイトホースまで足を伸ばした。さすがに州都、大きいけれど、漫然と町並みが広がっている。列車とは関係ないけれど、サーモンベイクというアラスカ名物料理を撮影しようとその店を探すが、今はどこも調理済みで、客前に出されてしまうそうだ。

 鉱物産業不況で営業をやめていたホワイト・パス&ユーコン鉄道は、1988年に観光列車として再開したそうだ。細長いベネット湖に沿ってゆっくり走ってゆく。標高のせいもあるけれど気温がだいぶ下がってきた。周辺の木々もだいぶ紅葉して、短い秋が感じられる。ずいぶん遠くまでやってきた印象だ。金に目がくらんでここまでやってきた、ゴールドラッシュ時代の人々の気持ちに思いを馳せた。
 
ディレクター 宮崎祐治
国境近く、フレーザー駅
ベネット湖畔に立つ中村カメラマン
ユーコン・アドベンチャーの車掌はかわいい
撮影日記4

 北のフェアバンクスに向かうデナリ・スター。ワシラ辺りの走りを撮るために乗ったロケ車の中で、アメリカ人の3人コーディネ―ターのポール、ドライバーのジェイ、アラスカ鉄道のティムが次期大統領選のことで盛んに議論していた。2、3日前、共和党の副大統領候補にアラスカ州知事のサラ・ペイリンが決まったというニュースが流れて、急にアラスカも合衆国だということが身近に感じられる。ホテルの部屋で見るABCなど各局の全国ニュースにもヘラジカやムースが出てくるアラスカの映像が多くなった。偶然にも、これから向かうワシラは、何とペイリンの故郷の町だった。
 しかし、ワシラ湖周辺に広がるこの町は、国道沿いにレストランなどもチラホラあるけれど、他はまったくというほど特徴のない町だった。

 天候が急激に良くなって来た。ワシラの次の停車駅はタルキートナ。マッキンリー山の麓に位置し、登山者たちの基地となる町だとか。マッキンリー山で亡くなった、冒険家の植村直己に関する展示がある歴史博物館は、撮影時にはもう閉館時間になっていた。しかし、この町は不思議な雰囲気だ。時代から取り残されたヒッピー風の人も多く見られ、時計が止まっているような様子。以前撮影したことのある、ニューヨーク郊外のウッドストックを思い出す。店も少なく、だらだら歩く人もまばら。翌朝の夜明け前、ドライバーのジェイから眠っているスタッフみんなの部屋に電話あり。「マッキンリー山がきれいに見えるぜ」。マッキンリー山は3日に1日の割合で顔を出すぐらいと聞いていたけれど、ジェイのおかげで私たちは雲の上にそびえる見事なマッキンリー山を撮影することができた。

 タルキートナからはデナリ・スターと同じ路線をハリケーン・ターンが走る。二両だけの銀色の古い車体で、出発時には乗客二人だけ。その二人もまもなくして降りてしまう。駅などはなく、なんと彼らの山小屋の前で停車。車掌は二人の荷物を下すのを手伝っていた。ハリケーン峡谷に架かる鉄橋でUターンして、再びタルキートナへと戻る。帰り列車は何度も停車して、次々と客を乗せてゆく。線路脇で待っていたり、昨日降車した時に約束したりという、昔の旗を振って列車を停めた「フラッグ・ストップ」の慣習が残っている。なんとも微笑ましい。しかも乗ってきた人の中には、まだ砂金堀の仕事帰りという女性もいた。やっぱりこの辺りは不思議な時間が流れている。
 
ディレクター 宮崎祐治
晴れると展望車は人が多い
ハリケーン・ターンの車掌は良い人だ
高さ90メートル、ハリケーン峡谷橋
撮影日記5

 今回の空撮は苦労続きだった。アンカレジからスワードへ走るコースタル・クラシックの空撮は、大雨による線路の支障で列車が不通になったり、強風のためヘリが飛ばなかったり。デナリ・スターの方も、予約していたヘリコプター会社が機体の不備でキャンセルしてきたり、雨で中止になったりと散々。ようやくハリケーンからデナリ近くまでの路線を空撮するヘリコプターに乗りこんだ。空撮は初めて出会うパイロットの技術を信じるしかない。無人のハリケーン駅近くで飛び上がると、「列車が来るまで、まだ余裕があるから、美しい橋があるところまで、迎えに行ったらどうか」というパイロットからの提案。彼はこの辺を何度か飛んだ経験があるというので、それにOKを出して線路に沿って飛んでゆくが、列車の姿は全く見えない。山間なので、列車との携帯電話もつながらない。仕方なく一旦ヘリは着地して、線路補修工事をしている人に聞くと40分も前に列車は通過したという。あわてて上昇して猛スピードで列車を追いかけ、やっとどうにかこうにか、黄葉した中の走りの撮影に間に合った。

 夏の間、犬ゾリの犬たちはどうしているのか。そんな疑問を持って、犬ゾリレースで何度も優勝しているというジェフ・キングが設けている「ハスキー・ホームステッド」へ。訓練所を観光地にしてしまう商魂もたくましいものだけれど、50匹あまりのハスキー犬たちは、訓練師たちがやってくると構って欲しいのか大騒ぎ。尻尾をぶんぶん振り回していた。雪が降る季節に合わせて、少しずつ訓練は増やされ、犬たちは肉付きも良くなり、逞しく見えて来るそうだ。

 デナリ国立公園の奥に入ってゆく。高い料金を払って許可証をもらう。それ以外の観光客は緑色のシャトルバスを利用するしかない。チェックステーションを経て2時間も走ると、まさにワイルドライフ!大自然に四方八方を取り囲まれる。野生動物の撮影も狙いだけれど、簡単に野生動物とは出会えない。みんな眼を凝らして丘や森を見ているが、いつも動物を最初に発見するのは、ドライバーのジェイだった。「ホラあそこにカリブーが…」「あの尾根にドールシープがいるよ」と、どんどん見つけてくれる。しかも運転しながらだから余計すごい。「アフリカの人は視力6.0で遠くの動物を発見できる」という冗談があるけれど、アラスカの人もどうやら、視力が4.0ぐらいあるような気がした。
 
ディレクター 宮崎祐治
犬ゾリの、子犬訓練
出現!グリズリーベア
懐深いデナリ国立公園
撮影日記6

 いよいよ「アラスカ鉄道」の終点、フェアバンクスへ向かうデナリ・スターに乗り込む。車窓から見えるアスペンと白樺の木々は黄金に染まり無限に広がっている気がする。日没が近づいてきた。といっても北極圏まであと僅かな距離のこの辺りは、日が傾いてからが長い。無人のネナナ駅を過ぎ、ミアーズ・メモリアル橋を越えると、フェアバンクスまでもうすぐだ。列車の中では乗客の降りる準備も始まる。車窓の左手の丘の上に近代的なアラスカ大学が見える。1996年に死んだ写真家星野道夫が野生動物学を学んだので有名。アラスカ鉄道のティムが「アラスカ大学を撮り逃さないように」と何度もいうので「母校かい?」と聞くと「俺はアンカレジ大学だ」という返事。フェアバンクス駅に到着すると西の空が、絵の具でいうところのピオニーレッド色に染まった夕陽が私たちを迎えてくれた。終点に着いた感傷はさらに増して、ちょっと涙が出た。
  
 フェアバンクスの北にある渡り鳥保護区、クレーマーズ・フィールドを訪ねる。雨上がりの朝、深い森の中へ。ツルの群れを撮影した後、テントで鳥に調査用のバンドをつける様子を見せてもらう。そこに小学生の団体が野外授業でやって来る。付き添いの先生に日本のテレビ番組だけれど、子供たちを撮影しても良いか聞くと、校長に電話連絡して許可をもらうから、待ってくれと言う。子供たちの野外授業はすぐに終わってしまうのに、撮影許可はなかなか校長から届かない。「子供を撮影するのは、今、世界的に大変なんだよ」と撮影の中村健さんはポツリと呟いた。
 
 フェアバンクスの撮影スケジュールの中にはオーロラが入っている。1日目。雨模様の中、フェアバンクスの住宅地にある民宿B&Bを夜中にそっと抜け出す。郊外でオーロラが出るのを待つけれど、雨が上がることはなく、撮影はできなかった。2日目。今日も夜中にB&Bを出て、オーロラの出るのを待つ。クルマも通らない丘の上、真っ暗な空にはオーロラの兆しもない。夜食にカップヌードルを用意したのだけれど、助手の堀金さんが箸のないのに気づく。「眼鏡のツルで食べろよ」なんて冗談も出た。午前1時過ぎにまた雨が降り出す。明日は早朝5時にフェアバンクス空港に行き、飛行機でアンカレジに戻り撮り残し分を撮影しなければならない。結局オーロラは諦める。
 
ディレクター 宮崎祐治
夕焼けで迎えてくれたフェアバンクス駅
クリーマーズ・フィールドの渡り鳥
再現された外輪船ディスカバリー号
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