放送したお宅
2012年5月11日(金)放送
東京都調布市・与倉邸
− 屋内に路地をつくった家 −

2011年1月

敷地面積 104平米 (32坪)
建築面積 59平米 (18坪)
延床面積 87平米 (26坪)
木造
建築費:非公開 坪単価:非公開



旗竿形の敷地。単なるアプローチや駐車場になる事の多い「竿」部分まで張り出す形の建物。畑に接した裏側から見ると、複数の建物が寄り添っているようにも見えます。

「竿」に張り出した部分は書庫。地域に対して開いた「縁側」のようなスペースです。隣家との間の塀を低く抑えたのも、周囲に対して閉鎖的にならないための配慮です。

屋内も複数の建物が寄り添ったようなイメージ。その狭間に生まれた「路地」が食堂になっています。およそ6mの高さにある3つの天窓から自然光が注ぎます。

杉板下見張りの内壁やアプローチから続くタイル張りの床が屋外の雰囲気を演出します。正方形の食卓は、卍方に組み合わせた木材が自重で締め付け合って安定するデザインのオリジナル品。

台所は独立しつつもシンク前のスリットで他の空間と繋がっています。東西に出入り口があり、回遊性と開放感を生み出します。

居間は2階ですが、真下の寝室の床高・天井の高さを下げる事で食堂の高低差を2.1mと小さく設定。居間と食堂の一体感を強調します。向かいの子供室とも吹き抜けを介して繋がります。

浴室はハーフユニットバスに檜板張りの壁の組み合わせ。小さなテラスに面しています。子供室は吹き抜けで他の空間と繋がった間取り。

1階テラスの上部に階段と回廊を設置。屋上テラスへとアクセスします。屋上テラスは寛ぎの空間であると同時に、天窓のメンテナンスに利用されます。

建築家のプロフィール
加藤詞史
1989年 早稲田大学理工学部建築学科卒業
1991年 同大学大学院修士課程修了
1991〜2003年 池原義郎・建築設計事務所
2007年〜 加藤建築設計事務所
2006〜07年 早稲田大学芸術学校 講師
2007〜10年 早稲田大学建築学科 助教
2010年〜 早稲田大学理工学研究所 客員上級研究員

1999年

建設業協会賞 西武園競輪場(前職担当作品)※
2003年 建設業協会賞 下関市地方卸売市場唐戸市場(前職担当作品)※
2005年 まちなみ百選奨励賞 伏めがちな家
2011年 グッドデザイン賞 広島ホールハウス

株式会社加藤建築設計事務所
所在地 東京都新宿区弁天町177 エクセルワセダ5F
電話 03-5285-5833
FAX 03-5285-5833
E-mail k_arch@tc5.so-net.ne.jp
URL http://kotofumi.com

建築家の一言
「まん中からひらく」
 建物は5つの箱が重なる入れ子状の構成で、いくつかの建物が集まったかのような、あるいは一つの建物が分裂したかのようにも見えます。中央筒状の空間に十分な気積と自然採光、通風を持たせ、開放感のある外部のような空間を考えました。
筒状の中央D室からの外部への視線は、奥行き(距離)のあるもので、そこから見える周辺の緑や得られる通風は、隣人と直に視線を合わせること無く同じ緑を活用可能です。そこには程よい距離感と共有意識が生まれ、垂直方向高さ6mからの採光と通風(排気)による良質な環境は、エネルギー消費の抑制にもつながっています。天井の存在を感じることのない空間は、限られたスペースだからこそ得られる広がリ感です。中央の空間を外部と見立てることで、周囲の室には実際以上の距離感が生まれ、家族に程良い関係と距離を実現しています。
前面道路から、旗竿形状を活用した縁側本棚、筒状の中央D室を介して、畑テラス、畑がつながり、通りからの視線は畑まで届き、街に奥行きのある広がリと場所性を付与しています。
縁側本棚は隣家の庭を借景とするとともに、隣家からの視線には、深さと景色を与えています。この場所は半公共的な交流スペースとして成長することを期待しています。
場所を少しずつシェアしながら、つながり、開く構成が、1軒に閉じること無く相互に連携、連続する建築群のきっかけとなるのではと考えています。
渡辺篤史の感想
各部屋がそれぞれ一棟の建物となって路地空間を成す、言わば内外が裏返ったような間取り。どこまでが内で、どこからが外なのかが曖昧になる開放感があります。旗竿地というと、どうしても閉鎖的になりがちですが、この建物は近隣の人々を招き入れるような温かさが感じられます。大胆にして繊細な、作り手の思いと住み手への心遣いが伝わってくる建物です。