放送したお宅
2007年10月14日(日)放送
東京都文京区・廣瀬邸
こだわり素材の家シリーズ(1) 鉄
- 鉄道模型1000台! “鉄”が住む鉄でできた家 −
2007年3月完成
敷地面積 203平米 (61坪)
建築面積 113平米 (34坪)
延床面積 265平米 (80坪)
RC+S造
建築費:非公開
坪単価:非公開



土木用のデッキプレートの外壁。内部に柱が無く、壁自体が建物を支える構造です。コンテナのようにも見えます。

地階にあたる玄関を入ると「土間」と呼ばれる多目的空間。生花や絵などを置いても映えます。

奥さんたっての希望で作られた和紙の茶室。斬新なデザインですが、全て茶道の正式な作法に則った設えになっています。

1階は「L」字形の大きなLDK。天井は外壁と同じくデッキプレート、内壁はポリカーボネート複層板です。

壁の中、床より低い部分に照明が仕込まれていて、夜に浮かび上がる風景は幻想的です。

この家の中核とも言える鉄道模型の展示棚。少しでも傾いていると模型が動き出してしまうため、大変な工作精度が要求されました。

リビングの奥は収納のはずが「模型部屋」に。ご主人曰く『車窓のような』窓があります。2階のテラスもさながら『ローカル線の駅のホーム』です。

2階の個室は壁で仕切らず、カーテンでやわらかく仕切ります。ご主人曰く『寝台車』です。お風呂は照明付きのジェットバスです。

建築家のプロフィール
隈研吾
1954年   横浜生まれ
1979年   東京大学建築学科大学院修了
1985〜86年   コロンビア大学建築・都市計画学科客員研究員
Asian Cultural Council給費研究員
1987年   空間研究所設立
1990年〜   隈研吾建築都市設計事務所主宰
2001年〜   慶應義塾大学理工学部教授
 
隈研吾建築都市設計事務所
連絡先   東京都港区南青山2-24-8
TEL   03-3401-7721
FAX   03-3401-7778
E-mail   kuma@ba2.so-net.ne.jp
URL   http://www.kkaa.co.jp
 
建築家の一言

 クライアントである廣瀬通孝教授は子供の頃からの鉄道の熱烈なファンであり、千台以上の鉄道模型を所有しています。鉄道模型をどう展示するかが設計の初期段階からのテーマであり、彼も鉄道車両の中に暮らすような生活をのぞんでいました。結果として、高低差のある旗竿敷地という特殊な敷地形状に合わせて、細長い貨車がL字形に折れ曲がって坂道に停車したような姿の家となりました。

 この家は内部に柱梁がありません。外壁の3.2 mm厚の鉄板(スラブプレート)が構造になっているモノコック構造の家です。鉄板を折り曲げる事で強度を上げるというのが、この構造の基本的な考え方です。折り曲げる事で、その曲げた部分のディテールから鉄という素材がどのくらいやわらかいかが伝わります。
  鉄道の車体は、そもそもは構造体に皮膜という設計思想に基づいてデザインされていましたが、今日では構造体と皮膜という区分のないモノコック構造の考えに基づいて設計されています。その点でも、この家は鉄道と建築の中間的存在といえるでしょう。

 
渡辺篤史の感想
6mの高低差を持つL字形の敷地です。建築家にとっては挑戦し甲斐があったのではないでしょうか。さらに、ご主人の趣味の鉄道模型、奥さんのお茶という趣味の要素、来客の多い生活スタイルなど、考慮しなくてはならない要素は少なくありません。そうした要素を上手くまとめつつ、新しいことにも挑戦しています。構造体を兼ねた外壁です。交通量の比較的多い道路に面しているので遮音、そして鉄は熱を伝え易い素材なので断熱にも気を配らなくてはいけません。その辺りも上手くいっていますね。
鉄の強靭な外殻に守られて安心して生活を楽しめる。そんな風に感じます。