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#66 ワレリー・ゲルギエフの強烈演奏会
ゲルギエフ。なんて強そうな名前でしょう?実際も結構強面、でも美しい音楽を引き出すロシアの指揮者です。

3年前にゲルギエフ氏にインタビューをしました。当時はロシアが経済の混乱期にあってエリツィン政権も内部分裂とどうしようもない時期でした。そんな中ゲルギエフ氏はロシアのオーケストラを連れて外貨獲得のために世界中を旅していました。

「時間がないので5分くらいで、、、」といわれ本人と対面。「エリツィン大統領と仲がいいそうで、、」と問い掛けると、太い眉にどんぐり眼、しかもたっぷりとヒゲをたくわえた野武士のような風貌でギョロっと私の目を見つめ、今のロシア情勢と自らの芸術観を語り始めました。

気が付くと最初5分の約束がゲルギエフ氏は30分間熱く話をしてくれました。そして慌しくリハーサルへと消えていきました。

あれからロシアも変わり、再び来日したゲルギエフ氏の演奏会に行きました。

演奏したのは大曲のマーラーの交響曲第9番。
何かにとりつかれたような独特のエネルギッシュで緻密な指揮。そして圧巻のラストが待っていました。
「死」を表現したこの曲のラストは、弦楽器がだんだん音を弱くしていき、最後は消えるような音で終わるのですが、この日の演奏は、音が消えて演奏が終わっても、誰一人として拍手ができませんでした。ゲルギエフ氏の指揮棒が降りて1分以上、会場は沈黙に包まれたのです。

2000人を超える人たちが1分も動けなくなる。そんな強烈な音楽を創れる指揮者は世界中にそうはいません。
またその瞬間に立ち会えたことが人生の楽しさなんだなと感じました。