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前回に続き、今回も産婦人科をテーマに送った「Smaクリニック」。
産婦人科が抱える問題に、さらに迫っていきます。
今回は「立会い出産のすすめ」。そのメリットとは何なのでしょうか。
 妊婦が本当に安心できる出産スタイルとは、どんなスタイルなのでしょうか? SmaSTATION-2がお勧めするのは“立会い出産”。夫や家族・友人など妊婦にとって身近な人が、出産の現場でお腹を痛めて頑張る妊婦の心の支えになり、赤ちゃん誕生の瞬間を見守るスタイルです。夫や家族が立ち会うことによって、妊婦は「心強い」とか「一緒に頑張ってる気がする」など、安心しリラックスしてお産に臨めるでしょう。また、出産に立ち会った夫は、妊婦の苦労を少しでも分かち合い、その後の育児参加への意識も高まると言われています。また、万が一の事故発生の時に重要なカギを握ることがあるんです。3年前、東京都のある産婦人科医院でこんなことがありました。陣痛が始まった妊婦が、生まれるまでにもう少し時間がかかると言われ、陣痛室という待機場所で、様子を見ることになりました。しかし、出産が間近に迫っているにもかかわらず、妊婦は部屋に一人で放置されたまま。医師や看護師が定期的にチェックすることもなく、胎児の状態を監視する分娩監視装置という機械さえ取り付けられていませんでした。その時です。突然、妊婦が猛烈な痛みに襲われ始めました。あまりの苦痛にナースコールも押せず、たった一人で耐えること1時間。ようやく看護師が現れたときには、ベッドは血の海となっていました。この事故の最大の原因は、明らかに医師や看護師の管理ミス。ただ、もし妊婦の側に夫や家族が付き添っていれば、異常発生にいち早く気づき、ナースコールを押すなど、何らかの対応ができたはずです…。欧米では出産に夫が立ち会うのは当たり前。一方、日本では一昔前はほとんど行われていませんでした。しかし、「出産は夫婦の共同作業」、「我が子誕生の瞬間を見届けたい」という意識が日本人の間にも広がり、徐々に増えてきています。とはいえ、全体の36%に過ぎないのが現状なのです。
 立会い出産をしなかった場合の理由にはいろいろありますが、その40%以上を占めるのが、妊婦自らが断ったというもの。「出産する姿を見られたくない」と、立会い出産を拒否するケースが半数近くなのです。ついで21.3%を占めるのが「病院に断られたから」。特に、大規模な大学病院には立会いを許可しないところが多く、高度な医療機関と言われる全国80カ所の大学病院のうち、30カ所が、立会い出産を認めていません。「感染を予防するため」という衛生面での判断や、「そういうキマリだから」という意味不明なものまで、その理由はさまざま。「安心できるお産」をサポートするために、もっとオープンになってほしいところですが…。
 中には立会い出産を認めながらも、それを無視してとんでもない事故を引き起こしてしまった例もあるんです。98年、新潟市で初めての出産を迎えたAさんは、早朝に分娩台へ運ばれました。一方、Aさんの夫は立会い出産を希望しており、分娩室から呼ばれるのを廊下でじっと待っていたのです。が、いつまで経っても声がかからない。実はその間、分娩室ではとんでもないことが起こっていました。医師の杜撰な管理によって、赤ちゃんがAさんの胎内で仮死状態に陥り、慌てた医師が金属製のカンシという器具を使って胎児の頭を引っ張り出す緊急措置をとっていたのです。その際にミスを犯し、赤ちゃんの頭蓋骨が骨折。致命的な傷を負わせてしまいました。Aさんが分娩室に運ばれてから3時間後、ようやく夫は分娩室に呼ばれます。愕然とする夫に、医師は「死産」を告げました。納得がいかない夫や家族が診察室の中を調べると、片隅に放置されていた赤ちゃんはまだ生きていました。直ちに赤ちゃんは近くの救命センターに運び込まれましたが、懸命な手当ての甲斐もなく、数時間後、短い命に幕を閉じました。このように、分娩室はある意味、密室。誰かがその一部始終を見守っていないと、母子の命が危険にさらされてしまう時だってあるのです。
 新しい命の誕生を悲劇に変えないために、立ち会う側は、ただ立ち会うだけでなく、もう一歩踏み込む必要があるのかも知れません。妊婦の心の支えになる「安心できるお産」だけでなく、医療事故を防ぐための「安全なお産」にするためには、立ち会う夫や家族はどうすればいいでしょうか?それにはまず、何よりお産について「知ること」が大切。お産のプロセスを知ることで、緊急時にも対応できたり、危険を予防することもできるのです。あなたが夫や家族に立会い出産を希望する時には、まずはよく話し合い、お互い同意の下で「立会い出産をしたい」と、通っている産婦人科に伝えます。もしこの時医師が立会いを認めず、納得の行く理由もない場合には、病院を替えた方がいいかもしれません。「立会いOK」という病院の了解が得られたら、立ち会う夫や家族に早速レクチャーを受けてもらいしょう。病院によっては立ち会うお父さんのための出産教室などもあるので、積極的に参加して下さい。特に、お産のおよそ1割を占める帝王切開や、たびたび用いられる陣痛促進剤に関する知識は必ず身につけておきたいところです。万が一のトラブルが発生しても、立ち会うパートナーが冷静に対処できれば、とんでもない事故や医療ミスから、あなたとあなたの大切な赤ちゃんを救うことだってできるのです。
 今回はオープンシステムについての話をしたいと思います。開業医ひとりの小さな診療所でも、バックアップ体制をきちんと整えているところがあります。例えば、これは浜松のケースですが、開業医が自分の診療所で妊婦さんを10カ月間検診し、出産時にはマンパワーや機能が十分に整った病院で分娩をするシステムがあるんです。もちろん、 出産の際には開業医が、中心になりお産を進めるので妊婦さんは普段と同じように安心して出産に臨めます。また、助産院でも病院とタイアップし、お産の際や緊急時には すぐドクターやスタッフが介助できる体制を持っているとこ ろがあるのです。こういったシステムのメリットは、小さなところだから実現できるアットホームな環境、そして隠れた安全性の両面を兼ね備えているところです。私はこの二面を備えていることはお母さんと赤ちゃんにとって、とても理想的だと思っています。出産とは両親にとっての大きな節目であり、より生命を身近に感じられる瞬間です。ですから立会い出産は、医療に携わる人々だけでなく、ごく普通の人たちにも生命誕生の素晴らしさを十分に感じてもらえる良いチャンスだと思います。私は日ごろから、出産するご夫婦皆さんに「ぜひ!」と立会い出産を薦めていますが、 立ち会うことで夫婦の絆が深まり、ご主人も我が子に対する責任をより自覚できる良い機会だと思っています。また、父親のその後の育児参加がスムーズになるという研究結果も出ています。まだまだ日本では立会い出産がメジャーではありません。が、ご夫婦、そしてお腹の赤ちゃんが出産の主役だということをはっきり自覚して、日本中で立会い出産を希望していけば、立会うことを「昔からの決まりです」と拒否するような古い考えを持った大学病院なども変わっていくのではないでしょうか。そうやって、医療を施す人々と医療を受ける人々が感動を共有することで、より開かれた医療が作られていく――私はそう信じています。
(写真家/医療ジャーナリスト 伊藤隼也氏・談)
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