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プロフィール:
竹中 登一(たけなか・とういち)
1941年12月21日 出身地:愛知県
1964年3月:岐阜大学農学部獣医学科 卒業
1964年4月:山之内製薬株式会社中央研究所 入社
1993年8月:   〃  取締役 創薬研究本部長
1999年6月:   〃  専務取締役
2000年4月:   〃  代表取締役社長
2005年4月:アステラス製薬 代表取締役社長
<インタビュアーの目線>
今年、日本の製薬業界は再編の動きが慌しい。年末までには、大手十社のうち3社が、合併で誕生する新会社に入れ替わる。その第一弾がアステラス製薬だ。国内メーカーの5番手だった山之内製薬と11番手だった藤沢薬品工業が2005年4月に合併。国内2番手となる新会社が誕生した。もちろん、市場シェアも、といいたいところなのだが、日本市場はいま激しい外資の攻勢にさらされている。昨年は売上げトップ5メーカーのうち、3社がファイザーなどの海外勢となり、外資上位30社の日本市場シェアは34%にも上った。

すでに、それぞれの国内で合併・統合を繰り返し、巨大化を済ませている海外のメーカーは、グローバルな規模拡大を前提としている。世界第2の市場である日本は当然、その標的だ。グローバルな戦いを余儀なくされた日本の製薬企業が、規模の拡大を狙うのは当然の流れといえるかもしれない。

しかし、製薬企業を苦しめているのは、外資の攻勢ばかりではないのだ。たとえば、研究開発費は膨張の一途をたどっているが、新薬の承認数は減少傾向にある。15年もかけて開発する新薬のコストが、ますます上昇しているわけだ。これは、当局の審査が厳しくなったばかりではなく、薬づくりが簡単な領域では新薬が出尽くしてしまったという見方もある。

これに追い討ちをかけるのが、自社製品の特許切れである。特許が切れると、廉価な後発品が続々と市場に出回り、利益が一気に逃げ出してしまうのだ。世界的に売られている医薬品の特許が、相次いで2010年頃までに切れるため、“2010年問題”とも言われている。

アステラス製薬も、2008年には移植などの際に用いられる免疫抑制剤のプログラフが、2009年には頻尿改善剤のハルナールが、特許切れとなってしまう。果たして次に続く新薬の種は、育っているのだろうか。そして、この厳しい環境の中で、巨大なグローバル製薬企業と対抗するための秘策はあるのか。合併を成功させた立役者の一人、竹中登一社長に聞く。
インタビュー内容
<丸川>なぜ合併が必要だったのか?
<竹中>1990年代は日本の製薬会社は日本の市場だけで売っていても、ちょうど時の経済のように順調に進んでいたが、停滞した。そして少子高齢化が起こってきた。医療費を削減しないととてもやっていけないと、医療費抑制策が出され、薬価切り下げによって、日本国内でのビジネスがうまくいかなくなってきた。さらに、大手の欧米の製薬企業が日本市場に入って、ますます競合状態が強くなってきた。そこで、考えたことは、私たちもグローバルに出て、発明したものをグローバルな市場で売って、競争していこうと。ひとつの製品を開発するのに、約500〜1000億円かかる。ひとつひとつの国に営業部隊を置くと、そこにも非常に巨額な投資がかかる。今までの山之内の規模、藤沢の規模ではグローバルに対抗することはできない。一定の規模がやはり必要だということで、2つの研究開発力、営業力を合わせて、グローバル競争の中で戦っていこうと。こういう道を選んだわけです。

<丸川>合併の効果は?
<竹中>比較的順調に行っていると思う。特にトップラインでは高血圧の「ミカルディス」、入眠剤の「マイスリー」、コレステロール低下剤の「リピトール」。私たちにとって主要な3品目が順調に市場シェアも拡大している。グローバル製品と呼んでいる排尿困難に使う「ハルナール」、移植に使う「プログラフ」、これらは欧米で非常に好調で、マーケットシェアは拡大、売り上げが増加した。合併のもうひとつの要素はコストシナジーだと思うが、人件費、生産にかかわる諸経費、研究の効率化で第1四半期のラフな計算だが50億円ぐらいのコスト削減ができた。

<丸川>今後の課題は?
<竹中>医薬品はひとつの錠剤、ひとつの注射の中に、1つか2つの特許で成り立っていて、特許期間が過ぎるとジェネリックというもので出てくる。ジェネリックというのは研究開発がかかっていないので安い価格で売ることができる。私たちにとって特許切れを起こしてしまうと、製品から利用益を得て研究開発にリターンできなくなる。主力製品で2009年、10年には特許切れが起こってくる。これらの防衛策には、追加の新しい新製品を投入できる研究開発力とその強化、そして新製品発売をグローバルにできる体制をつくること。この一言に尽きる。

<丸川>研究開発費は今後どうするのか?
<竹中>最も積極的に投資しなければならない。つくづく思うことだが、新製品が出れば少しぐらい社長がいい加減でもこの企業はやっていけるのではないかと思うぐらい、私たちには新製品が大事。研究開発費は売り上げの15%は常にスタンダードに。おしなべて見て15%を確実に投資できる会社でないと成長できない。

<丸川>国内の市場に外資が入ってきているが、競争はますます激しくなると?
<竹中>これはすごい競争になると思います。少子高齢化が進んでいて、ますます医療費が必要になってくる。そこに持ち込む財源には制限がある。医療費を国が支払える額は決まっている。製薬会社の売り上げはトータルでは決まってくるわけです。その中に外から企業が入ってきて、国中でも合併によって企業は集約され、これからは数の競争よりも質の競争、それぞれ強いところが残って、そこでまた激しい競争が起こる。これは永遠に続くことになるのではないでしょうか。

<丸川>さらなる業界の再編が起こりうると?
<竹中>起こりうると思います。よその事例を見ると、日本と比較的似ていて、欧州で先に少子高齢化になり、経済の鈍化が起こった。90年代、一国に製薬会社が10〜20社あったが、今ではひとつの国に1つか2つしかなくなった。これは研究開発型のグローバル企業というタイプだが、スイスで2社くらい、イギリスで2社くらい。日本もたくさん企業があるが、おそらく1〜2社に収斂されていくのではないか。

<丸川>買収される可能性は?それに対する備えは?
<竹中>海外の企業が日本の製薬会社を買おうとする場合の魅力度はどこにあるかを考えると、日本の国内で臨床開発する力があるか、国内で販売する力があるか。そこに注目して、90年代に自力で日本の会社を買って、すでに臨床開発、販売する機能を整備している欧米の製薬会社はたくさんある。だから、出遅れてしまったとか、中堅の企業だったりして買えなかったところも、まだ欧米の製薬会社にはある。そういうところは日本の会社に興味を持って、いろんな形でのM&Aは起こってくると思う。敵対的買収については、私たちは企業価値を上げようということを会社の標語にもしているが、企業価値を上げていく以外にM&A防止策はないと思うし、また、もし私たちに買収ということがあった場合でも、非常に企業価値を損なう買収には対抗策を作らなければならないと思う。まだ特別な対策はしていないが、そういう研究は続けている。私たちの企業価値を損ねるような買収の場合に初めて対抗策がワークするわけで、私たちの企業価値をうんと高めて、株主にも従業員にもすべてに良くて、ただ経営陣に悪いというものに対しては、全然、対抗策は考えていないし、考えるべきでもないと思う。

<丸川>長い先を見ながら開発する上でどこに力を入れていきたいと?
<竹中>ちょうどゲノム創薬というものを90年代からやってきて、今ちょうど刈り取り期なんです。これから臨床に入るゲノム創薬が出てきている。2010年ごろには製品として出てくると思う。研究開発のことを創薬と呼んでいるが、英語では“drug discovery”と。ここで大事なことは、経験と先端技術をいかに組み合わせるか。両社の“drug discovery”は60年頃から始め、すでにグローバルに通用する製品を発明している。経験は持っている。今度は先端技術に対する投資、単独だと1社500〜700億円ぐらいだと、大きなイノベーションが起こった時に、多額な一時的な投資をしようと思っても、できなくなる。今度は2社で足した額でできる。集中投資が研究開発でできる。合併によって研究開発力が強くなったと思っている。すでに研究も強い、営業もグローバルでやっているフランチャイズという領域が泌尿器、それから炎症免疫移植と言われている「プログラフ」。これに集中しますね。その他、重点領域というものがある。それは糖尿病、消化器、中枢・アルツハイマー、感染症、この4領域に研究開発力を集中的に投下している。これらを伸ばして2009年、10年の特許切れに対処していきたい。

<丸川>医療費改革について何か意見は?
<竹中>世界にいろんな病気があるが、まだ4分の1しか治療薬がないと言われている。新しい薬を出した場合に、発明に対する価値を与えていただきたい。そうしないと、新しい病気に対するチャレンジ、本当の意味の製薬企業の成長の促進にはならない。全体の薬価を切り下げるのではなく、汎用薬、ジェネリックを使って全体のコストを効率的にして、コストを下げる一方で、新薬に対して研究開発をしたいという促進策を両方組み合わせた薬価政策をしてほしい。それが医薬品産業の発展にもつながるし、世界で困っている人に良い薬を提供することになる。一概に薬価を切り下げというのは望んでいない。

<丸川>一から新しい会社をつくった決断、青木会長とそういう決断にいたったのは?
<竹中>我々を取り巻く環境に対する危機感。それを乗り越え、日本から研究開発によって世界の困っている患者に使ってもらう薬を作って、グローバルな製品にしていく会社を作る挑戦心。二人で焼酎を飲みながら話しているうちに息が合ったと。一方では危機感、一方では“drug discovery”という我々のの夢ですね。青木会長とはともに研究者出身でしたから、夢が先にきたのかもしれませんが、二人の危機感と夢が、その間を焼酎が醸成したのではないかなと。

<丸川>夢を語れる相手とひとつの会社を作るのは素敵なことですね?
<竹中>本当に思いますね。毎朝今でも毎日わいわいがやがや議論しているんですけどね。

<丸川>研究者出身だけに、経験の蓄積が次の新薬を生んでいくという思いが強い?
<竹中>そうですね。もちろん経験が時には阻害されることもあるが。医薬品は失敗の方が多い。万に1つとか、千に1つしか薬が出ない確率。山ほど失敗している。いろんな提案があった時にここまで早く終えてくれたら次にうんと投資できるとか、そういう判断できる。これほど先行投資の多い産業はない。研究所で研究しているが、製品になるのは10〜15年先。15年先の研究開発をいま投資している。次にもう少しステージが進むと工場を作ろうと。発売の5年前に工場を作る。5年先行投資です。次に営業の準備、発売の2〜3年前に営業の整備をする。ほかの産業と違った性格を持っているので、私はたくさん失敗しているので、いま工場建てようかとか、いやもうこの試験が終わってからにしようとか、タイミングを図るというのは失敗や経験から学んでいる。そういう判断には研究開発中心であったことに感謝している。ほかにお金の計算は下手なので苦労している。

<丸川>世界10位をめざす、決め手になるのは?
<竹中>新製品ですね。新製品につきますね。願わくばブロックバスターを。私たちは良い治療薬のない世界を、アンメット・メディカルニーズ、アンメットニーズと呼んでいるが、そこに治療薬を出せばトップ10に入れると思う。それだけ世界には治療薬がなくて困っている病気、患者さんがたくさんいる。これはやり甲斐がありますよ。
トップの横顔
アステラス製薬の本社は、元の山之内製薬のビルにある。社長室の手前には天井の高い空間があって、その四方の壁に、大きくて立派な絵画が飾られている。空間の荘厳さに思わず立ち止まって、社長に声をかけた。「この絵画は、以前どなたか、経営者の方がお好きで集めたんでしょうか。」すると社長は立ち止まることもなく、あまり興味がなさそうな様子で奥のほうへと歩いていく。「さあねえ、僕はそういうものより、こちらのほうが好きですからねえ。」そう言って、竹中社長は自分の部屋の入り口にある、大きなパネルを指差した。そこにはヒトのDNAの塩基配列、つまりヒトゲノムが、まるでデジタル信号の地図のように描かれていた。竹中社長にとっては、まさに夢の詰まった地図だ。次世代の新薬は、このゲノムの解析から生まれようとしている。パネルの下のほうには、海外を訪問したときの写真だろうか、にこやかな笑顔の竹中社長を囲む人々の姿が、何枚か貼り付けられていた。

竹中社長は、山之内製薬の社長になる半年前まで、ずっと現場で研究を続けていた。35年間を振り返ってだろうか、今でもふと、「研究室に戻りたいなあ」ともらすことがあるのだという。研究者としては、山之内製薬の誇るブロックバスター(年間10億ドル以上を売り上げる製品)ハルナールの開発にも関わり、紫綬褒章を受章した。どれだけ長い間研究を重ねても、ヒット商品を生む結果とめぐりあえる研究者は、ほんの一握りでしかない。おそらく竹中社長は、たぐいまれなる幸運を手にしてきた強運の持ち主なのだろう。

そのメダルの入った額は、ゲノムのパネルや、6つほどの蘭の鉢植えや、ゴルフバッグなどが所狭しと並ぶ、こじんまりとした社長室の壁の低いところに掛けられている。まるで研究室にある教授の書斎のように、盛りだくさんな部屋だ。

「この蘭はね、お祝いにいただいたのを、もう一度咲かそうと思って、大事にしてるんですよ。」ひょろりと伸びた新しい花芽の先が、ほんのり色づいていた。竹中社長は、花を愛で、嬉しそうな様子である。なぜだか、生きることを楽しんでいるという空気が、どんな時でも伝わってくる。ただ笑顔が絶えない、というのではなく、なんだかとても楽しそうで、こちらまで幸せな気分になってくるのだ。

35年間、好きな研究一筋に取り組んできたことが、その理由かもしれない。57歳まで現場にいて、若い研究者とともに、良い薬作りに取り組めるというのは、かなりうらやましい環境ではないかと思う。しかもその研究が、会社を支えるヒット商品につながったのだから。

竹中社長の強運のおかげか、アステラス製薬は大きな問題もなく無事スタートを切った。10月には国内メーカーの3強体制が整い、新たな競争時代へと突入する。今後のさらなる合併・統合の可能性について、竹中社長は何ら否定しない。それどころか、口調はむしろ前向きだ。社長の心中には、より大きな夢のためには小事を乗り越えて当然、という精神が貫かれているのだろう。ちなみに今回の合併は、竹中・元山之内製薬社長と青木・元藤沢薬品工業社長が焼酎を傾けながら、大きな夢を語り、実現したという。とすればこの合併は、M&Aという言葉が持つ無機質な語感とは程遠い、幸せなマリアージュではないだろうか。そこに1プラス1が3にも4にもなる可能性が秘められているような気がする。

(丸川珠代)
記者の目
「新薬を求めて」

製薬業界の再編の動きがめまぐるしい。旧山之内製薬と旧藤沢薬品工業が今年4月に合併、武田薬品に次ぐ国内2位のアステラス製薬が誕生した。さらに、10月には三共と第一製薬、大日本製薬と住友製薬の合併が予定されている。業界地図を一変させるような再編を促しているのは、国内外の環境の厳しさだ。

90年代、日本の製薬メーカーは世界に通用する「ブロックバスター」と呼ばれるヒット作を次々と世界に送り出し、空前の好況を呈した。しかし、先進各国の医療費削減による薬価切り下げや、欧米製薬メーカーの攻勢を受け、競争は一段と激化している。

さらに、危機感に拍車をかけているのは、「2010年問題」。各社の屋台骨を支える主力商品の特許が2010年前後に次々と期限切れを迎えるのだ。アステラス製薬では年間1359億円の売上高(04年)を誇る主力製品、排尿障害改善剤「ハルナール」の米国での特許が09年に失効する。特許が失効すると独占的な販売ができなくなる。その結果、後発品が一挙に市場に出回り、価格が急落する恐れがある。武田薬品や三共、エーザイといった国内大手も例外なく「2010年問題」を抱えている。

それだけに各社とも新薬を求めて躍起になっている。しかし、新薬の研究開発には膨大なコストと時間がかかる。成功例も極めて低い。竹中社長は「新製品が出れば少しぐらい社長がいい加減でもやっていけるのではないか」と自嘲するが、それほど新薬の開発は難しく、製薬メーカーにとって死活問題。「売り上げの15%を確実に投資できる会社でないと成長できない」(竹中社長)として合併に踏み切った。

さらに、欧米の巨大メーカーの圧倒的な存在も再編の背景にある。欧米メーカーはM&Aによる再編を繰り返し、巨大化した。国内トップの武田薬品ですら、売り上げ規模では世界で14位程度。世界最大のファイザー(米)の時価総額は武田薬品の4倍以上。研究開発費の比較で見ても5〜6倍の格差がある。欧米メーカーは90年代から日本の中堅メーカーを次々と買収、日本市場の3割超のシェアを占めるまでになった。競争が厳しくなる中で、竹中社長も「おそらく1〜2社に収斂されていくのではないか」と予想する。自らに対する敵対的買収の可能性をも念頭におきながら、さらなる再編をにらんで緊張感を緩めない。統合効果を活かして、世界の巨人に伍していくだけの強力な新薬を生み出すことができるのか。「世界10位内」を目指す竹中社長の手腕が問われている。

(経済部 梶川幸司)
 
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