4月27日放送のディレクターズアイ 

4月27日放送 プロデューサー/原 一郎
※後半にディレクター/田中伸夫【まさかの逮捕劇、そのとき現場は
…】があります。

【彼は私たちに何を伝えようとしたのか】

「検察の裏金」疑惑に斬り込もうと決めたときから、スタッフルームには何とも言えない緊張感が漂い、私自身、重苦しいプレッシャーを感じ続けている。テレビから真紀子疑惑や辻元参考人招致のニュースが流れてきても、これまでのような関心を覚えず、「これくらい可愛いもんじゃないか、政治家の方が100倍攻め易しだな」などと不謹慎な事を考えてしまう。

ザ・スクープはこれまで全国の警察・政治家・官僚機構・企業などの数々の不正を暴いてきた。しかし、今回のターゲットは「正義の番人」である検察組織・・・

「正義の番人」は、同時に「日本最強の捜査機関」でもあり、警察や国税局とも太いパイプを持っている。ひとつ攻め方を間違えると、一個人や一番組にとどまらず報道局全体や会社そのものに大きなダメージを与えかねない。これまで一部週刊誌を除いて、テレビや新聞が正面切ってその疑惑に挑んだことはない「未知なる闘い」なのだ。

しかも疑惑がハンパじゃないときている。検事総長・各高検検事長・各地検検事正ら検察のトップが調査活動費の大半を流用したり、カラ出張・カラ残業を重ねて「裏金づくり」に励んでいるという、にわかには信じがたい組織ぐるみの疑惑なのだ。もちろん事実だとすれば、国民の税金の横領という犯罪行為である。それどころか、日本の司法そのものが地の底に落ちる・・・そういった問題の追及なのだ。

こうした疑惑の存在が浮上したのは1999年4月、匿名の内部告発文が永田町やマスコミに流されてからである。そして「噂の真相」「週刊文春」「週刊朝日」などの雑誌がこの問題を取り上げた。ザ・スクープがこの疑惑の内部告発者のひとりと接触を始めたのは去年12月である。その人物とは大阪高検のナンバー3、現役公安部長であった。

匿名ならばいつでもインタビューを取れたが、それでは秘書疑惑における真紀子氏の反論と同様、単なる「怪情報」で終わってしまう(事実、法務当局は各雑誌の告発記事を「怪情報」と一刀両断している)。私たちは現役の検察幹部がその身分を明かした上でテレビカメラの前で告発してくれることにこだわった。

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実名・顔出しじゃないと、とてもじゃないが闘えない・・・
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ようやく彼が実名での告発を決心してくれたのが4月初旬。そして取材日が4月22日午後3時、場所は大阪全日空ホテルの一室に設定された。当日、彼は普段通り大阪高検のオフィスに勤務しているので適当な口実で抜け出して来るという。その2日前に担当スタッフが確認の電話を入れたときも、彼が何かにおびえていたり、何者かに追われているような様子はうかがえなかった。むしろ当人は、実名でやれば、逆に上層部も首を切れないだろうとタカをくくっていたふしがある。
 
衝撃的なニュースが駆けめぐったのは、そんな矢先のことであった。

「大阪高検・三井環公安部長が詐欺などの容疑で逮捕された!」

私たちが取材予定だった内部告発者は、インタビューの3時間前、わずか48万円の詐欺などの容疑で、同じビルに居を構える大阪地検特捜部の同僚の手で逮捕されたのである。そのわずかな金額の詐欺容疑を森山法務大臣は「前代未聞の犯罪」とし、原田検事総長は「想像を絶する容疑」と切り捨てている。
仮に容疑がすべて真実だとしても、検察の力を持ってすれば極秘裏に処理されても不思議はないと思うのだが、なぜあえて強制捜査に踏み切ったのか?こうまで大っぴらにやれば、上司の監督責任や任命責任も問われることになるだろうし、口封じ疑惑を報じるマスコミも出てくることは当然予想できたはずだ。

そんな返り血を浴びてでも守ろうとしたものとは何だったのか?
そして、三井部長が、いや三井容疑者が私たちに語ろうとしていたものとは?さらに、その内容の信憑性はどうなのか?

あぶらげを攫われたトンビのように地団駄を踏んでばかりはいられない。さっそく検証取材が始まった。彼があるジャーナリストのインタビューに答えたテープ、直筆の告発文、彼を直接取材した記者の心証・・・ 比較的スムーズに三井容疑者が暴露しようとしていた「検察の裏金」の詳細は判ってきた。しかし、現段階ではそれを裏付ける調査活動費の支払い明細書などの状況証拠や元検察事務官の証言はあっても、決め手となる物的証拠は入手できていない。

そして連日、検察情報を元に、暴力団との癒着ぶりや所有しているマンションの家賃収入脱税疑惑について三井容疑者の「想像を絶する」悪行ぶりが報道されている。三井容疑者は本当に「前代未聞の悪徳検事」だったのか?

去年11月、彼は直筆でこんな決意表明ともいうべき文章を残している。
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検察官はいかなる犯罪についても捜査をする権限と義務とを有し、公益の代表として真実追究の責務を国民から負担されている。上司の不正な捜査指揮については、その部下は従うべき義務はなく、そのような指揮がなされたならば、従わないことこそが検察官としての真の対応である。
加納氏の裏金づくりが表面化すると当然、原田検事総長ら検察幹部の過去の裏金づくりが発覚することとなろうが、これにふたをすべきではなく、これを契機として過去の犯罪行為を国民に謝罪して、調活予算を返上することこそが原田検事総長ら検察幹部がとるべき姿勢であった。すべての検察官及び検察事務官に知ってもらい、また多くの国民に知ってもらって、どこに大きな問題があるのかを真に議論してもらいたい。そうすることによって、はじめて検察の刷新になるのである。
外務省・機密費事件については多くの者を起訴し、自らの調活費(裏金づくり)については黒を白とし、果してこれでいいのか?捜査の公平は保たれるのか? 
捜査権の乱用であろう。
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また、三井容疑者は逮捕後、弁護士を通じてこんなメッセージを奥さんに伝えている。
「自分は間違ってないから。お父さんがやったことは正しいと思ってしていることなんだ。」

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今はまだ「検察の裏金」疑惑も、三井容疑者が行ったとされる犯罪も、突然の逮捕の裏側も、すべての真相は闇の中である。
引き続き取材を進めていく一方、三井容疑者や大田原元検察事務官に続く、更なる内部告発に期待したい。 なぜなら、相手はこうした犯罪を捜査する最強のプロであり、それは裏を返せば、どうすれば犯罪に問われないかを熟知していることを意味するからである・・・

取材の過程で知り合ったあるジャーナリストはこうつぶやいた。

「○○新聞だのテレビ朝日だの、週刊文春だの週刊朝日だの言ってる時じゃない。一紙とか一番組だったら勝負にならない。マスコミが結束しないと潰される。我々は、それほど巨大な敵を相手にしているんだ!」(4月26日記)

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【まさかの逮捕劇、そのとき現場は…】ディレクター/田中伸夫

突然だった。奈良で大田原さん(前奈良地検事務官)の内部告発のインタビュー撮りが終わったところで、鳥越キャスターの携帯が鳴った。席を外した大田原さんがドアを開けて入ってくる所を撮ろうと私はカメラを回していた。ところが、「え?逮捕?」という鳥越キャスターの言葉が聞こえた。あわてて、デジカメを構え直そうとした…というのが、あの乱れた画像だったわけです。新しいデジカメで、ズームの操作が慣れていなかったんです・・。
とにかく事実を丁寧に、記録することが大事だと思ってカメラを回しました。原プロデューサーからも同じ指示がありました。

奈良から移動して大阪の待ち合わせのホテル、逮捕現場の大阪検察庁前を取材。検察庁前は報道陣でごった返していた。ビルは総ガラス張り。威圧感のある高層ビル。このビルの実質ナンバー3の高官が、国民に知ってもらいたかった内容は、本当に「事実」なのか?しかしそれを確かめる機会は、『逮捕』で奪われてしまった。『口封じ』・・?

インタビュー直前の4月18日、三井容疑者は、親しい人に「逮捕は絶対にない」と自信たっぷりに語っていたという。なぜか。「逮捕すれば、検察にとっては、『やぶへび』になるから・・」。
しかし、三井容疑者の楽観的な読みははずれた。果たして、検察の「ウラ金作り疑惑」は、事実なのか?現職幹部の新たな内部告発に対して、検察はどう答えるのか?則定スキャンダルの時のように、検察は派手な話題を繰り出して、再び、国民の目と耳を他所にそらそうとするのだろうか?いまこそ、国民の眼力が、試されている。注視したい。

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