2月9日放送のディレクターズアイ 

2月9日放送  ディレクター/大木 茂生
【保土ヶ谷事件〜“警察のシナリオ”はあったのか】

「ホルマリン漬け心臓」「DNA鑑定」これは一体何???何が始まったんだ???…取材をはじめる前の印象である。しかし、取材を進めるとそこには「警察のシナリオ」が見え隠れしてきた。

■真相を求めて
現在に至るまでには、遺族の壮絶で孤独な5年間に及ぶ闘いがあった。一般的には「疑うことのない警察」に「疑い」を持ち始めた遺族は何が真実で何が嘘なのか混乱したに違いない。そして遺族は痛感した。「権力に対する個人なんてちっぽけなモノ」だということに。夫(父)の死の真相は何なのか?遺族が知りたいのはそれだけだった。

■パトカー警察官のミス
そもそも、パトカーの2人の警察官はなぜ久保さんを放っておいたのか?酒に酔って寝ていると思ったのなら、警察官はそのままにしておくのだろうか?交差点に止まっている事故の形跡がある車の中に運転手が倒れていた、そんな状況を見ている警察官が交通の邪魔にならないところに移動するということは一体どういうことなのだろう…2人の警察官の単なるミスなのだろうか…現場だけでそのような判断をするのだろうか…いずれにしても、もちろん単なるミスでは済まされないことである。それによって久保さんは帰らぬ人となってしまったのだ。

■シナリオのはじまり…
10時間後、パトカー警察官が置き去りにした車の中から久保さんが遺体となって発見された。「パトカー警察官のミスが公になると大変なことになる」。このミスを隠すために急きょ警察による「シナリオ」作りがはじまったのではないだろうか?

■遺族への対応
当初から久保さんに対応したS巡査部長。久保夫人への事件連絡から関わっており、遺族の遺体対面の場にもS巡査部長はいた。しかし何故か遺族にパトカー出動を伝えなかった。(本人は知らなかったと言っている)そして遺体対面に来た久保夫人に「心臓悪くなかったか?」としつこく尋ねている。結果として警察の調書には「心臓が悪かった」となっているという。さらにS巡査部長は司法解剖にも立ち合ったことになっている。ここには「シナリオ」が存在していたのではないだろうか?

■崩れるシナリオ
「シナリオ」にはなかった「パトカー出動を遺族が知る」事態が発生した。しかしそれは遺族にとって不幸なことに葬儀が終わった後だった。証拠である久保幹郎さんの遺体は荼毘に付されていた。(遺体が残っていた時であれば、解剖した、しないの長い議論は避けられたはずである)久保さんが「パトカー出動の事実」を知った翌日、保土ヶ谷署の副署長をはじめS巡査部長も謝罪に久保家を訪れている。久保さんによるとS巡査部長は終始うつむいていたという。これは何を意味するのだろうか?

警察が当初犯したミスを取り繕おうとして嘘に嘘を重ねていったとしたら…そして警察によって作られた「シナリオ」の辻褄が合わなくなったら…司法解剖を担当したA監察医は真実を知っているはずである。

■神奈川県警と監察医
久保幹郎さんの司法解剖をしたのはA監察医。解剖の結果出された死因が心筋梗塞である。もし、これが「警察のシナリオ通り」に出された鑑定結果だとしたら…神奈川県警と監察医の問題も浮かび上がってくる。現在、DNA鑑定の結果待ちの状況である。この結果が出ることで全てが明らかになるはずである。
神奈川県警の体質事態が再び揺れることになるのかもしれない。しかし、遺族に残るものは何なのだろうか…

最後に我々の取材に対するA監察医の弁護士の回答を紹介しておく。

「回答書」

監察医としての立場上、職務上なした死者の解剖に関して、マスコミの取材に対応して、いかなるコメントも出すことは適切でないと考えております。監察医としては、行政上あるいは司法上の要請から、それぞれの関係機関より委嘱され死亡原因を医学的に解明するために職務上解剖するものであって、必ずしも死者の遺族より委嘱されたものではないので、仮に遺族の要望が存在したとしても公的要請により行った解剖に関してその有無、内容、結果等、いかなる事柄も、マスコミに詳らかにすることはその職務上適切を欠くものと考えております。監察医としては、そのことを以ってその職務を充分に果たしているものと考えております。

ところで、亡久保幹郎殿の遺族の一部の方は「監察医として解剖をしていないのに亡久保幹郎殿の死体検案書を作成した」などという著しい誤解に基づき、虚偽公文書作成罪で告訴されたり(不起訴処分が確定)、民事の損害賠償の訴訟を提起されたりしておりますが誠に迷惑しております。前述のように、今回のようなテレビ朝日の取材に関しても、監察医の職務上、個別的解剖に関して如何なるコメントも出すべきではないと考えており報道機関の在り方としての観点からも、然るべくご理解戴くべき事柄であると考えております。因みに、多くの公職を歴任する医師として、鑑定に基づく司法解剖もせずに、検案書を書くなどという犯罪行為をすることなど決してあり得ないし、民事の裁判において、DNA鑑定に際して、久保氏の臓器でないものを、久保氏の臓器であるとして提出することなどもあり得ないことは最小限度弁解しておきたいと考えております。

尚、貴局「ザ・スクープ」において、公共性の強い放送において一方当事者の一方的な推測に基づき、視聴者において事実を誤認されかねない放送をすることは厳に慎んでいただきたいことを強く要望いたします。

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