1月19日放送のディレクターズアイ 

1月19日放送  ディレクター/江野夏平
【現代科学が解明した23年前の冤罪事件のからくり〜キャンディキャンディの鞄が物語る事件の真実】

いまから23年前(1979年9月11日)、千葉県野田市で小学校一年生の少女が何者かに殺害されるという事件が発生した。警察は遺体の発見状況などから、変質者による犯行と断定し捜査を開始。事件から18日目にして、現場のすぐそばに住む31歳の知的障害者の男性を逮捕した。逮捕直後、容疑者の男性は容疑を否認、警察にも事件と容疑者を結びつける直接的な証拠は何もなかった。しかし、結局容疑者は自白へと追い込まれていく。

冤罪の訴えもむなしく、その後、控訴、上告するも訴えは棄却され、実に14年もの間、拘置所(刑務所)での生活を強いられることになるのだった。(94年8月14日出所)ところが、容疑者逮捕につながった最大の物証が、警察によってねつ造されたのではないかという疑惑が浮上する。事件発生後の捜索で、殺害現場の近くから被害者の女の子が所持していた「キャンディキャンディの絵がプリントされた鞄」が発見されている。実はこの鞄の裏側には女の子の名前と住所が書いてあったのだが、発見された時、証拠隠滅のためかこの部分だけが切り取られて無くなっていた。

「犯人はこの鞄の切れ端を持っているに違いない」。警察はこの鞄の切れ端を最大の物証として捜査をすすめ、逮捕から10日目の取り調べで、容疑者から押収した定期入れの中からその布きれを発見するに至る。

警察はこの鞄の布片と、鞄の切れ端を裁判所に証拠提出しているが、番組の取材で、事件当時に警察がマスコミ向けに発表した鞄と、裁判所に提出された鞄とが違うものである可能性が極めて高いことが分かった。つまり証拠ねつ造ということをのぞいては、この鞄のすりかえを説明することは出来ない。

容疑者の男性は、逮捕当時31歳。重度の知的障害者だった。精神鑑定では、知能指数は36程度という結果が出ている。当時の欧米の基準 「知能指数50以下は訴訟無能力」に従うのであれば、彼には訴訟能力はなかったはずである。ところがこの裁判は、なぜか訴訟能力についての結論を出さないままに進められていく。

実はこの鑑定の中には、「迎合性が強い」という鑑定結果もある。つまり人の言うことに流されやすいのだ。そんな人が警察の取り調べで、誰の助けもなく独りで取り調べられていたとすれば、何があってもおかしくない。警察は脅迫や誘導がなかったことを証明するために、取り調べ時の様子を録音したテープを証拠提出しているものの、その時間は100時間程度で、実際の取り調べ時間からすると、ごくわずかしかないのだ。つまりこのテープについても、警察側によって編集されているため、聞かれたくないところについては編集で落とすことが十分に可能だった訳である。

私たちはこの取材を通して、出所後の彼に何度か会っている。日常生活はヘルパーの方々の助けもあって、何とかやっていけるものの、会話中、自分が話した内容をそのすぐ後には忘れてしまうようなこともしばしばだった。曖昧な返事をすることも多いし、分からないと言うことも多かった。ただ、長時間にわたる取り調べ時の苦痛は、今でも忘れられない過去として鮮明に彼の脳裏に焼き付いていた。

番組では、現存する貴重な資料、「取り調べ時の録音テープ」「実況見分のVTR」「物証の鞄の写真」などを基に、現代の最先端技術を駆使して、物証の鞄がすりかえられた可能性が極めて高いものであることまで突き止めた。

放送終了後、23年も前の事件を何故今扱うのかという問い合わせがあった。企画に古いも新しいも無い。もし犯人でない人が逮捕され、14年もの間自由を奪われたとしたら。知的障害と言うことを巧みに利用され、自白へと導かれている可能性があるとあるとしたら。「疑わしきは罰せず」という定義に反して、「疑わしいから罰してしまえ」 そんなことがもし本当に行われていたとしたら、それは許されないことだ。

ただただ、真実を知りたいという思いだけで取材は進められた。
23年前の科学技術では解明できなかった証拠ねつ造疑惑を、現代の科学技術が解き明かしたのだ。そしてこの取材はまだ終わった訳ではない。
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◎79年頃に発売された、アニメ「キャンディキャンディ」のレッスンバッグを持っている方。もしくはレッスンバッグの写真を持っている方は、こちらまで情報をお寄せください。

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