ディレクターズアイ 

 プロデューサー/原一郎
【日本初!番組まるごとインターネット配信てんまつ記】

この10月よりテレビ朝日「ザ・スクープ」のインターネット配信が試験的にスタートした。今後、急速な普及が予想されるADSL、CATV、FTTHに対応した300kでの動画配信で、当面は64kでISDNにも対応していく。地上波放送のレギュラー報道番組を“ほぼ丸ごと”動画配信するのは日本では初めての試みとなる。翌日には、さっそく3万5000ヒットを記録し、テレビ朝日の番組アクセス・ランキングで圏外から4位に急浮上した。トップ2は「仮面ライダーアギト」や「ガオレンジャー」が不動の地位を占めており、お堅い報道番組としては、これはかなり喜ばしい状況だ。今後、本格的なブロードバンド時代が来れば、インターネットでいつでもどこでも、より高画質の番組が楽しめるようになり、映像メディアの中核がテレビからパソコンに変わっていく可能性が高い。そのさきがけとして、あえて実験場に立候補した「ザ・スクープ」だが、きっかけは、実はもっと切実で皮肉な事情であった。

ことし9月、全国ネットで放送していた「スクープ21」が終了し、新番組はタイトルも元の「ザ・スクープ」に戻して関東ローカル+2局のみのネットで再出発することになった。この情報が伝わるや、12年来のスクープ・ファンから「なぜ私が住んでいる地方では放送しないのか、何としても番組を見たい」というメールが殺到。この声に後押しされる形でBS朝日に異時再送信を打診したり、番組販売の道を探るがうまくいかず、せっぱ詰まった末の「苦肉の策」がWEB配信であったのだ。「そうだ、この逆境を逆手に取ろう、全国ネットでなくなった分アクセスも多いはずだ」となかば開き直って・・・

ところが、具体的な準備作業に入ってみると、番組のインターネット配信に関しては、BS・CSなどと違い明確なルールというものが全くない。例えば出演者・VTR素材・音楽など様々な権利クリアが必要だが、我々が前例を作っていくしかない。取り敢えず、 
@取材時には公人の直撃をのぞき先方の許諾を得る   
AVTR部分はMAをやりなおし「音楽なしバージョン」をリミックスし、再編集して  差し替える
B外電・市販ビデオ、音事協関係などのフッテージはカットする
C生放送後にこうした手直し作業が必要なため、配信開始は当日の深夜0時とする
D生のスタジオ部分に付けるBGM、アタックなどは事前に権利クリアしたものを使う 
―などのルールを作った。ところが、肝心の番組テーマ曲が外国の楽曲ということもあって、どうしても著作権的にクリアできない。技術的に音楽だけ削除することは不可能だ。泣く泣くテーマ曲がかぶってくるスタジオのオープニングとエンディングはカットすることになった。これについては、いろんな議論があったが、まだまだ視聴者数の少ないWEBのために12年間慣れ久しんできたテーマを捨てられない・・・というのが今のところの結論である。

動画配信準備の一方で、インターネット版にもスポンサーをつけられないかインターネット事業部や営業局と相談。「近い将来のブロードバンド・ビジネスを見据えて、千円でも2千円でもいいから先駆的スポンサーを見つけた方がいい」と説得し、地上波と同じようにCMも付けて配信する、バナー広告のスポンサーを新たに募るなどのアイデアも出されたが、結局、広告媒体として未知数であるということで見送りとなった。また、有料配信では長年、地上波で見てきたスクープ・ファンを裏切ることになるので、これも断念。結果、番組内予算(!)でインターネット用の再編集費なども出すことになり、ただでさえ赤字の台所事情がさらに悪化するなどパイオニアにしてはかなり情けない状況もあるが、まずは「トライしてみること」が大切!そこからインターネットの双方向性やグローバル性を活かした、新しいジャーナリズムの形がおぼろげに見えてくるのではないかと期待している。

動画配信を開始してから、番組ホームページには海外からも好評のメールが続々届き(10月末の時点で海外からのアクセス率7.4%、41カ国)しかも、地上波に比べてリアクション率が驚くほど高い。感想や意見だけでなく、今後の取材とダイレクトに結びつくような情報も多く含まれている。今後の課題として、ネットを利用した視聴者とのコミュニケーションを、番組内容にダイレクトに反映するなど様々な展開も期待できそうだ。今はまだ地上波に比べると視聴者数は月とスッポンだが、1通1通のメールでのリアクションに制作者としての確かな手触りを感じている。

一方、今週も、特集の企画で「米同時多発テロとメディア」を取り上げたいが、CNNやカタールの放送局アルジャジーラの素材のオンパレードになりそうで、それをカットしたらインターネット配信が成り立たないなあ…などと頭の痛い日々ではあるが。
(新調査情報1月号掲載・執筆は11月初旬)

このページのトップへ△