11月3日放送のディレクターズアイ 

11月3日放送 プロデューサー/原 一郎
【 何が”真実”なのか? 〜テロ事件とメディア〜】

ブッシュ大統領は、今回の「テロ事件」を「NEW WAR」だと宣言しました。「戦争」という捉え方は判断が分かれるところですが、ナポレオンの時代よりナチスドイツ・日本の大本営発表に至るまで、「戦争」というものが、常にプロパガンダ合戦の一面を持っていることは否定できません。そして、我々メディアも日々、アメリカ・タリバン双方から発表される情報を報じることによって、否応なく「情報戦争」に取り込まれていく宿命にあります。

タリバン=悪と断定し、「正義と自由を守る戦い」を主張するアメリカ。「イスラム世界とキリスト教文化圏の戦い」と捉えて「聖戦」を呼びかけるタリバン。

戦況や死傷者数ひとつとっても双方の主張は大きく食い違い、何が本当で何がウソなのか…実は伝える立場の私たちにも判っていません。例えば先月20日、アメリカ参謀本部長は「地上作戦は完全な成功だった」と会見を開き、”特殊部隊による奇襲作戦”の映像なるものを配布しました。テレビ局には衝撃的な映像に飛びつく悲しい性?があります。当然、パラシュートで降下しタリバンの飛行場らしき建物に潜入する映画のようなシーンは瞬く間に世界を駆けめぐりました。しかし、この映像を見た専門家は、通常地上作戦の前に空爆をするはずなのに滑走路も建物も無傷で、相手側の反撃もない。だいたい深夜の落下傘降下は部隊が広く散会する危険があり普通は行わない…と指摘しています。6日後、英紙インディエンデントは「実際の地上作戦は予想もしないタリバンの猛反撃にあい大慌てで退却した」という軍高官の証言を載せました。

一方、カタールのアルジャジーラを通じて世界に配信された”テロ事件後初めて姿を現したビンラディン氏”なる映像も、数日後に公表されたビンラディン氏の声明映像に比べ、明らかにヒゲや白髪が少なく、かなり以前の映像であると推測されます。

情報操作を研究している明治学院大学の川上和久教授によれば、第2次世界大戦当時、アメリカの宣伝分析研究所は情報操作の研究を行い「7つの法則」を見出したそうです。これを今回のテロ事件に当てはめてみると…

1.ネームコーリング:攻撃対象の人物や組織に対し、憎悪や恐怖の感情に訴えるレッテルを貼る方法

今回の場合、公の場で繰り返される「凶悪テロ組織アルカイダ」「非人道的組織タリバン」といったフレーズ

2.華麗な言葉による普遍化:華麗な言葉の繰り返しで自分たちの行為を正当化する方法           

「不朽の自由」「無限の正義」などの作戦名
「自由と正義を守る戦い」などの発言

3.転換:様々な権威や威光を使って自分たちの目的や方法を正当化する方法
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報復攻撃の前に国際社会に精力的に働きかけ「国連安保理のテロ避難緊急決議」「NATO集団的自衛権発動の合意」のお墨付き

4.証言利用:尊敬され権威ある人物に自分たちの正当性を証言させる方法

テロ直後、すばやく各国首脳に電話をかけ英ブレア首相・ロシア プーチン大統領ら主要リーダーの支持声明を獲得

5.平凡化:権力者などが自分も大衆と同じ立場であることを強調し、共感や一体感を引き出す方法

テロ直後の現場に私服姿で訪れ消防隊員と肩を組む演説で「我々は・・・」を連呼

6.バンドワゴン:皆がやったり信じていることを強調し、大衆の同調性に訴える方法

ギャロップ社の世論調査で大統領支持率は90%に急上昇、
国民の理解は得られたとして空爆論を加速

7.いかさま:都合の良いことは強調し、不都合なことは矮小化したり隠蔽する方法

現時点で真実は不明だが、前述の「地上作戦大成功」や民間人の誤爆情報など疑わしいものも多いのではないか

戦争時の情報において、何が真実で何がウソなのか?真実は全てが終わってみないと見えてこない…というのは湾岸戦争での教訓です。”イラク兵は保育器を盗み赤ちゃんを投げ出したのよ!” イラク軍のクエート侵攻直後、ナイーダという少女が涙ながらにイラク兵の蛮行を訴える衝撃的な映像が公開され、世論をイラク爆撃に導く決定的役割を果たしました。しかし後に、少女ナイーダはクエート侵攻当時アメリカにおり、涙の訴えは広告代理店がでっちあげた「やらせ映像」であることが判明します。ただし、それはアメリカが首尾よく世論を誘導し、成功裏にイラク空爆を終えた「あとの祭り」でした。

こうした真実が見えてくるのは、常に全てが終わった後からなのです。

逆にベトナム戦争当時は、世界のジャーナリストが現地に入り、ベトナムの悲惨な状況が次々に報道され反戦ムードが盛り上がってしまいました。国防総省は、この”失敗”を教訓としたのか、湾岸戦争以来、現地に記者を入れずピンポイント爆撃など”おいしいお貸し下げ映像”を配布するようになりました。この映像に飛びつくということは、メディア自らが当局の広報機関の役割に甘んじるということとイコールでもあるのです。

ただし、今回違うのは、カタールのテレビ局アルジャジーラが世界で唯一カブールに支局を持ちアフガニスタンの状況を逐一報道していることです。連日公開されるの誤爆映像や一般市民・子供の被害映像に、当初軍事組織だけのピンポイント攻撃を強調していたアメリカもある程度の誤爆を認めざるをえなくなったのではないでしょうか? 政府当局が各メディアに「タリバンのプロパガンダに荷担するような放送は自粛して欲しい」と圧力をかけるのは、情報戦略上、ある意味当然の結果でしょう。

今日も我々はアフガン攻撃やテロに関する様々な情報を伝え続けます。しかし、本当にアメリカや北部同盟が圧倒的に優勢なのか?タリバンは寝返る兵士が続出して内部分裂寸前なのか?本当のことはよく判っていないのです。
さらに言えば…あれだけ用意周到な「犯人」が本当にコーランや操縦マニュアルを残していったのか?
なぜピッツバーグで墜落した旅客機の映像が全く出てこないのか?そもそもビンラディン氏は本当に首謀者なのか?
一体、犯人は誰なのか?実は「真相」は何も見えていないのかもしれません…。

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