
関西で「文化財」を主に取材している立場の私にとって、昨年3月11日の東日本大震災は、「天命」に気づくきっかけでした。
いつも取材しているお寺や神社、遺跡の発掘現場、そしてテレビの映像化に苦労する古文書の類…あの日までは、昔の香りを伝える大切な「日本の文化」としか映っていませんでした。しかし、今は違います。幸運にも今に伝わる文化財の数々は、そのほとんどが、列島に幾たびも襲いかかった災害をくぐり抜けてきた「災害を免れた記録」であり、古文書や遺跡の中には、先祖たちが経験した災害の記録と、その痕跡が深く刻み込まれている。それを拾い上げて、広く長く伝える必要性に気づいたのです。
しかし、そんな貴重な史料たちは、国や行政の防災対策にほとんど生かされていないということが、取材していてよくわかりました。
文献から歴史地震を研究している学者の間ではよく知られている、古文書に書かれた大阪の津波到達地点の記述。かつて大阪が水没したであろうことを想起させるほどのショッキングなこの事実も、ボーリングで津波を調べている研究者には、“初耳”だったそうです。
古文書にわずかに記述が残る「千年前の巨大津波の痕跡」を地中に追い求めた地道な研究は、行政担当者からは「迷惑だ」と嫌がられ、地震学者の間でも“マイナーな分野”として、受け入れられにくかったといいます。これまでの防災基準は、経済的、技術的に可能な土木構造物をつくるための、「納得材料」でしかなかったのではないかと、愕然とします。
そうやって人のせいにするのは簡単ですが、そうした古文書の災害記述や、地中の痕跡の研究が進んでいたにもかかわらず、それを伝えてこなかった私たちにも、責任があると思います。その結果、たくさんの犠牲者が出てしまったことを悔やんでも悔やみ切れません。災害直後に「想定外」という言葉を使った専門家が非難の的になりましたが、結局は、私たち自身も、巨大災害を想定できてなかったのです。
研究者によると、現代のブログやインターネットに「事実でない情報」が氾濫しているように、古文書にも、不確かな情報や誇張が混じっているそうです。達筆な文字はついつい信用しがちですが、今回の番組では、それを鵜呑みにすることなく、様々な研究成果を総合して、冷静に映像化することに努めました。
今回の巨大津波は、土木技術の粋を集めて作った、我が国最大の防潮提をも、軽々と乗り越え、バラバラに破壊しました。しかし、今回、この放送をご覧いただいたみなさん一人ひとりが、先祖たちから受け取った教訓は、決して壊すことはできないと思います。この番組が長い間にわたって、多くの人々が参考にする「古文書」のような番組となることを願ってやみません。
ディレクター 木戸崇之(朝日放送)
今回、歴史ある番組に携わることができたことは作り手として大きな喜びでした。
とりわけ、そのテーマに個人的に「運命的なるもの」を感じていました。
私にはテレビ朝日に入社するより以前に出会った、地震予知を研究し続けている知人がいます。
国の会議に招かれるほどこつこつと実績を積み上げてきた彼と、体力任せに遭難救助に当たってきただけの私が共感しあえたのは、
「天気予報のように"地震予報"も現実的なものに近づけられたら」
「命を守れる可能性があるのなら、それは伝えるに値するのでは」
というものでした。
彼の研究を放送で取り上げもしましたが、やはり微妙なところもあって大きな流れにはなりませんでした。
むしろ、知る人が増えた結果はデマが飛び交い、彼の研究活動に支障が出る始末でした。
そうして時が流れて2011年。2週間のニュージーランド地震取材から戻ったのが3月9日。2日後の11日には会社を飛び出して壊滅的な被害を受けた陸前高田市に入りました。
今回の東日本大震災でも、複数の研究で"前兆"とみられる動きが観測されていたことが報告されています。
しかし、それが「警報」の域に達することはありませんでした。
地震予知の研究者との出会い、多くの被災地取材、そして今回のザ・スクープスペシャル。
「過去からの警告」は、ただ知るだけでは意味がないはずです。
自分の中に抱えた宿題を、少しでも進める努力を続けたいと思います。
最後になりましたが、今回取材させて頂いた研究者の方々は、いずれも強い使命感を持った、手を泥だらけにすることをいとわない尊敬すべきフィールドワーカーでした。
こうした地道な研究者の方々の成果が活かされることを願ってやみません。
ディレクター 鈴木 篤
富士山が噴火するかもしれない――
東日本大震災以後、そうした噂をあちらこちらで聞いた。
私は、去年2月に「富士山噴火の可能性」という番組を放送していたため、「いつ噴火するんですか?」という問い合わせも多数いただいた。
去年の放送では「富士山は100%噴火する。だが、中長期的に予知するのは難しい」という結論を出したのだが、それでも「夏に噴火するって本当ですか?」というご質問もいただいた。
改めて、富士山というのは、単なる山という存在を超えたものであることを認識させられた。
今回の放送では、古文書から見る「富士山噴火のすさまじさ」と「噴火に至る経過・経緯」を丹念に探ることとなった。
そこから見えてきたのも、富士山噴火のたびに恐れ、驚いてきた先人たちの声であり、富士山が古来から日本人にとって特別な山だったということだった。
いつか噴火する富士山――私たちはその被害を最小限に留めるべく、警戒をしなければならない。
ディレクター 水野泰介