5月15日更新
【裁判員制度導入と取り調べの可視化アンケート】

裁判員制度導入と取り調べの可視化アンケート

日本裁判官ネットワーク http://www.j-j-n.com/
の協力で10人の現役裁判官から回答をいただきました

Q 裁判員制度の導入には賛成ですか、反対ですか?

1 どちらかというと賛成である   7人
2 どちらかというと反対である   2人
3 絶対に反対である        1人



Q 裁判員制度が導入されることによって、
    誤審やえん罪は減少すると思いますか?


1 減少すると思う         1人
2 運用次第で増加する危惧もある  6人
3 増加すると思う         2人
4 わからない           1人
(広島高裁岡山支部判事)1
現在の裁判で九割以上を占める自白事件で信用できる供述調書を毎日精読している裁判官は,どうしても自白調書や捜査官の作成した文書に引きずられがちである。素人裁判官の新鮮な目が必要である。
(神戸家裁判事)2
密室(捜査段階)での自白が現在と同じように可視化しないで証拠として採用されるなら,裁判員は職業裁判官以上にこれを信用しがちである。そうした 自白には虚偽自白が混じっている可能性があるにもかかわらず。
(広島高裁判事)2
精密司法による緻密な事実認定によって事実誤認の防止が担保されていた面もなくなり、短期間に印象的事実認定をすることで、証言相互・証拠相互の関係が吟味されないまま、真実から離れた判断がされてしまう懸念が強い。
(佐賀家裁判事)2
可視化されないまま裁判員制度が導入されると、えん罪が増加する恐れがある。
裁判員の負担軽減を理由に、検察・裁判所主導で拙速となる恐れがあり、被告人にとってはけっして利益にならない。
(東北地方の家裁判事)2
裁判官と裁判員の取り組みにかかってくる。
(少年部の判事)3
素人が参加し人民裁判となる。
(匿名の判事)3
誤審等防止のためのものではない。捜査にメスが入っていない。
(大阪高裁判事)4
難しい質問です。今のところ分からないと答えました。誤審・えん罪の定義にも関係しますが、「疑わしきは罰せず」の原則が正しく理解される(あるいはより厳格に適用される)結果、無辜を罰する意味のえん罪が減少することを期待しています。
一方、本来有罪とすべき者を「無罪」にしてしまうのを「誤審」というかどうかですが、この場合は、被告人が真犯人かどうかは神のみしか分からないと考えれば、検察官の有罪立証が成功しなかったということで割り切らざるをえないと思います。



Q 裁判員制度の導入にあたって、
    取り調べを可視化すべきだと思いますか?


1 可視化すべき          9人
2 一部、可視化すべき       1人
3 可視化すべきでない       0人
(神戸家裁判事)1
自白は,大変有用な証拠であるとともに(動機解明を含め一気に事案解決),事案によっては危険な証拠でもある(虚偽自白が紛れ込む危険がある)。
職業裁判官は,曲がりなりにも,長い経験の下で,虚偽自白を見つけだす訓練をしてきている(もちろん,それでも見逃すことはあるが)。
裁判員が,そうした訓練をしないままに,密室の自白と向き合えば,どうしても,虚偽自白かもしれないとの警戒を持たぬまま,これを信用してしまい、結論として、虚偽自白がまかり通る危険がある。
(広島高裁判事)1
調書の任意性や特信状況がが争点となってしまうと、そのための証拠調べに膨大な時間を費やさざるを得ず、裁判員の時間的拘束の限界を超えてしまう。
(佐賀家裁判事)1
可視化しえない取り調べは、それ自体、本来刑事訴訟法の予定している取り調べとは言えない。
(関西地方の高裁判事)1
取調べの可視化は裁判員制度の下だけではなく現制度の下でも実施すべきと考えますが、それは密室での取調べが冤罪の温床と考えられるからです。
裁判員制度の下で可視化がより要請されるのは、捜査段階の供述の任意性・特信性が強く争われれば、裁判の長期化・判断の困難さが避けられなくなると思われるからです。
(広島高裁岡山支部判事)1
供述調書の任意性,信用性の判断は、密室の取調であるだけに、紛糾、長期化するうえ,灰色の心証しか得られないことも多い。ある意味で無駄ともいえる、そのような争いを無くするために可視化が必要である。
(大阪高裁判事)1
可視化されないと、まだまだ問題があるとされる取調が改善されないし、また本来実体形成に関係しない取調状況を争点とさせてはいけないからである。さらに取調状況が可視化されないと、従前同様、証拠能力を巡る争いが裁判員のいないところでなされることになる。可視化されないことを是認すると、裁判所としては任意性に多少疑義が残る自白調書であっても従前実務の傾向からして全面却下しにくいから、公判審理で、自白の信用性、ひいては取調状況について証拠調べが必要となってきて、これは裁判員にとって大きな負担となるであろう。
(中国地方の判事)1
密室での取調べで得られた自白の任意性や信用性、証言の特信性などの判断は、事件によっては現在の裁判官裁判でも非常に困難なので、裁判員裁判に関係なく取調べの可視化が望ましい。
可視化は裁判員裁判の前提として必要であろうし、裁判員裁判・取調べの可視化の前提として訴訟法の改正も必要であろう。
(少年部の判事)1
可視化すべきでない理由が分からない。裁判員制度を導入するにあたって、なぜ可視化か?両者は関係なし。誤審を避けるために、裁判員制度と関係なく可視化は進めるべきである。裁判員制度のための可視化という命題は、(1)従来の密室捜査が間違っていたことを認め、(2)これからの裁判員制度が誤審を生むことを自ら認めていることになる。
(匿名の判事)1
取り調べを巡っての争いが続き、裁判員制度の定着に支障をきたす。
(東北地方の家裁判事)2
否認があった時点からは可視化すべきである



Q 日本政府や捜査機関は、取り調べの可視化に反対する理由とし
    て、主に次のような点をあげています。
    賛同できる意見があれば○をつけてください(複数回答)


1 真相解明できなくなり治安が悪化する
2 取調官と被疑者の間に信頼関係が築けない ○
3 組織犯罪などで供述者を報復から保護しなければならない
4 再生・反訳に膨大な時間と労力を要する  ○○
5 刑事司法の構造全体を見直す必要がある  ○
(広島高裁岡山支部判事)○なし
むしろ密室で自白を獲得することを優先する捜査体質こそ問題である。科学捜査その他の自白によらない捜査手法の導入が必要である。
(神戸家裁判事)○なし
だからといって,可視化に反対するわけではないが,1の点はそれなりに理由がある。これまで,他に客観的な有力証拠がない場合に、有力な被疑者に対して,自白「追求」によって自白に追い込み,秘密の暴露もさせて(死体を埋めた場所,放火の方法等),迷宮入り事件を一気に解決してきた。
可視化すれば、そうした捜査手法が事実上、取りにくくなり、迷宮入りのままになる事件がふえることは,覚悟しておかなければならない(人は「紳士的な」取調では簡単に自白しない)。
代替的に,被疑者との取り引き(「死刑にはしないから真実を語ってくれ」と利益約束など脅迫でない自白獲得手法,アメリカがそれをやっている)を採用しないと,困難事案の犯罪検挙率が下がることは確かであろう。



Q 今現在、取り調べが密室化しているため、犯行を否認する被疑者
    などに対して、違法な取り調べが行われていると思いますか?


1 日常的に行われていると思う    4人
2 若干、行われていると思う     6人
3 ほとんどないと思う        0人
(神戸家裁判事)1
さすがに殴る蹴るといった拷問的取調はないであろうが、大声で威嚇する、「家族を逮捕する」「いつまでも釈放されない」「重い刑罰にしてやる」といった威嚇的取調べ、机を叩く、椅子を蹴る、壁に向かって立たせる,床に座らせる等の粗暴な取調べなどが,現在でも続いていることは,法廷での被告人らの供述から窺える。
もっとも、そうした取調べに基づく「自白」がすべて虚偽自白ではない。
むしろ,虚偽自白はごくわずかで,真実である場合がほとんどである。
ここに自白を巡る証拠採否の難しさがある。
(佐賀家裁判事)1
本当は行われているかどうかは判らないが、それを明らかにする意味でも可視化が必要である。現状では疑惑のみがふくらむ。
(少年部の判事)1
誘導に乗りやすい少年事件ではえん罪が多い。相当強引な取り調べが行われていると推測される。
(広島高裁判事)2
密室のため確認はできないが、調書を読んで「かなり強硬な取り調べが行われた」と感じることがある。
(広島高裁岡山支部判事)2
とりわけ重大注目事件で捜査が行き詰まったような場合に危険が高い。
(大阪高裁判事)2
強引な取調べ、無理な取調べ、さらには過酷な取調べにあったと訴えてくる被告人が少なくないが、これらすべてが虚偽だとはとても思えないし、現に違法取調ということで、証拠能力が否定されるケースも存在する。
(東北地方の家裁判事)2
違法か微妙な点もあるが、それに近い状態に至りつつ行われているように思う。



Q 取り調べを可視化するにあたって、自白以外の証拠を集める
    新たな捜査手法を導入すべきだと思いますか?


1 導入すべき            3人
2 導入すべきでない         1人
3 ある程度、導入すべき       5人
4 別途、議論されるべき問題である  1人
(神戸家裁判事)1
犯人検挙のための代替手段として必要である。理由は(4)に記載したとおり。
(中国地方の判事)1
自白があったからこそ真相が明らかに出来た犯罪も多い以上、それに代わる何らかの捜査方法が必要であろう。
(少年部の判事)2
自白に頼らない科学捜査をすべきである。
(佐賀家裁判事)3
自白偏重主義より、おとり捜査等で客観的な証拠を集める方が合理的であろう。
(関西地方の高裁判事)3
司法取引
(東北地方の家裁判事)3
事案に応じて通信傍受の拡大や司法取引も必要になってくると思う。



Q 取り調べの可視化が実現した場合、
    刑事裁判の手続きも変わっていくべきだと思いますか?


1 従来通り、調書中心の証拠調べを行うべき  1人
2 直接主義、口頭主義に移行していくべき   9人
(佐賀家裁判事)1
ただし、可視化が完全に実施され、弁護人がテープを十分に検討できる時間的余裕が与えられた場合に限る。
(神戸家裁判事)2
調書中心の裁判は,裁判員に調書内容の検討という困難は努力を強いることになる。裁判の長期化がもたらされ,裁判員の負担に耐えられないであろう。
(中国地方の判事)2
可視化によって自白が得にくくなるであろうから、現在のような調書中心では行えないと思う。
(東北地方の家裁判事)2
可視化が進めば取り調べの違法、自白の任意性・信用性の争点が少なくなり、より争点が明確になって、証拠関係も直接・口頭主義を実践しやすくなると思われる。
(関西地方の高裁判事)2
どの事件でもいつも感じますが、自分で証人尋問をした場合でも、直接証言を耳で聴いて抱いた心証と調書に記載された証言を読んだときの心証とでは相当に差異があります。やはり裁判は直接・口頭で述べられたことから心証を採るのが本来だと思います。 調書に記載された証言を仔細に検討して矛盾点を明らかにしていくことも冤罪防止に効果的な場合もありますが、それは日本的に変容された刑事裁判の姿のように思われます。裁判員制度の下では、より一層、直接耳で聴いた心証で判断すべきだと考えますから、直接主義・口頭主義に移行すべきです。
(広島高裁岡山支部判事)2
取り調べの実態をめぐる無駄な時間が減り、争点に集中した審理ができるので証人調べ中心の審理が可能となる。
(大阪高裁判事)2
当然、直接主義、口頭主義にならざるをえないし、まして裁判員裁判であれば、そうしないと審理できないであろう。
(少年部の判事)2
憲法や刑事訴訟法が定める本来の刑事手続きの原点に戻る。
自白に頼らない科学捜査を進めるべき。



Q 国際人権規約委員会は、1998年に日本政府に対して
    「電気的手段による取り調べの記録」や「代用監獄の監視」を
    勧告しています。
    日本の刑事司法制度は欧米に比べて人権的に問題があると思い
    ますか?


1 問題がある            8人
2 若干、問題がある         2人
3 全く問題はない          0人
(神戸家裁判事)1
日本的自白追求は、文明史的には野蛮である。効率的で日本の治安維持に貢献してきている面はあるが、もっと他のスマートな捜査手法に移し替える必要はある。
(関西地方の高裁判事)1
欧米一般と比較してよいのかどうか判りませんが、日本では捜査権限が強すぎ、司法審査の機能が弱体化している点に一番問題がある思います。
(大阪高裁判事)1
捜査の可視化の面ではもつとも遅れているといってよいし、刑事施設法案でも人権侵害の温床といえる代用監獄が存続の方向で進められていることは、大きな問題といえる。
(東北地方の家裁判事)1
代用監獄は問題があると思う。
(少年部の判事)1
代用監獄の廃止。
(広島高裁判事)2
代用監獄や勾留の延長が捜査手段として利用されている。
(広島高裁岡山支部判事)2
当事者主義といいながら,実態は圧倒的に捜査側優位の手続になっている。



Q その他、ご意見、ご提案があれば自由にお書き下さい。

(佐賀家裁判事)
裁判員制度は被告人の選択権を認めない限り、裁判を受ける権利の点からしても憲法違反の問題があり、実際にも裁判員の負担軽減を至上命題とすることにより、結果的に、被告人及びその弁護人に大きな負担を与えることが予想される点で問題は大きいと思う。
(大阪高裁判事)
裁判員制度における評議を十分なものにするためには、即時に公判証言や供述を再現する必要があり、そのためには速記が欠かせないのではないか。
(広島高裁判事)
裁判員制度において、裁判員に理解してもらうためにコンピュータ・グラフィックを使ったり、可視的な証拠方法を提出して判りやすい説明をすることになるが、そのために費用・労力・時間を要する。そのための費用や労力が割けるよう弁護側の態勢がどれだけ組めるかが問題である。
(少年部の判事)
家宅捜索が遅すぎる。