[ part3 ] 女子シングルーー3強に加えて注目したい選手とは?
――トリノ五輪世代を中心に展開していきそうな男子に比べ、女子は昨シーズンから若手が一気に出てきましたね。
荒川 やはり今年も日本の安藤美姫選手、浅田真央選手、韓国のキム・ヨナ選手。この3人がファイナルの表彰台のどこに立つか、競う展開になっていくと思います。
まず安藤選手は今シーズン、既に身体が出来上がっていることに驚きです。しかもただ細いだけでなく、よく締まっていて、動きがとても軽やか。ステップでも身体が上手く使えているますし、ジャンプを踏み切るタイミング、跳ぶ時の回転軸の細さなどで、しっかり基礎練習を積んできたこともうかがえます。今年はプログラムを作るのが遅かったということで、新しいショート、フリーの滑り込みがまだまだ足りない、そんな不安はあるかもしれません。でもそのぶん、身体のコンディションは十分整えてきたように見えますね。そして今年滑るのは、コーチのニコライ・モロゾフが、忙しい時期にはあえて作らず、最後の最後に頭をクリアにして、満を持して彼女のために作ったプログラム。それを滑る準備が、安藤選手にはできていると思います。
もうひとりの日本のエース、浅田真央選手も今年はいいですね!まず昨年よりも力強さが備わったことが一番の強みです。脚力がついてステップにもブレがなくなり、しっかりひとつひとつ踏めるようになった。上体の動きも、上下、左右と大きく使えるようになり、全身から力強さを感じます。身体がほんとうに自由自在に使えていることに加え、ジャンプはもう言うことがないほど、安定感がある。今年はトップ3人の中でも一番いい仕上がりではないでしょうか。あとはメンタル面でどれだけ強く試合に向かえるか。どんなにいいトレーニングを積んでいても、本番に向かう精神力だけは、本番でしか養えないものですから。
このふたりのライバルとなるのは、今年もキム・ヨナ選手でしょう。彼女の弱みは、日本選手たちと違って国内にライバルがいないため、モチベーションを保ち続けるのが難しいこと。国に帰ればすごく大切に扱われてしまうでしょうし、そこで満足してしまったらなかなか伸びていくことはできません。けれど強みは今年厳しくなったルッツ、フリップの跳びわけが、女子のトップ選手の中でも誰よりもクリアーであること。安藤選手や浅田選手がマイナスをもらってしまいそうなところで、プラスがもらえる点は大きいでしょう。
――今年も隙がなさそうな3選手。彼女たちに迫る選手としては、荒川さんはどのスケーターに注目していますか。
荒川 3選手を追うのは日本の中野友加里選手。そしてイタリアのカロリーナ・コストナー選手でしょうか。
まず今年の中野選手は、少なくともファイナルに残る力はつけていると思います。新横浜のリンクで練習を時々見かけるのですが、今年は毎日の練習から非常に安定しています。昨年は少しトリプルアクセルに気を取られがちに見えましたが、今年はアクセル、3回転‐3回転、ルッツとフリップの見直しなど、バランスよく調整できていると思います。気になるのはルッツとフリップの矯正の過程でジャンプが回転不足になりがちな点ですが、そこはあまり気にせず、思い切り試合に向かっていって欲しいな、と思います。
またコストナー選手は一緒に試合をする選手にとっては、とても怖い存在です。上手くいかないときにはとことん失敗してしまうのですが、良いときは本当に素晴らしい演技をして、どんどん点数が伸びていく。メンタル面で安定しないのが弱みですが、調子が良ければルッツとフリップもクリアーですし、流れるようなジャンプの美しさも持っている。伸び伸びといい演技ができさえすれば、台風の目となる存在です。彼女の今年の様子はまだわかりませんが、なんといっても今年はグランプリファイナルが、トリノ開催。地元ですし、オリンピックで辛い思いをした場所でもありますから、彼女は絶対ファイナルに残りたいところでしょう。
――すでに評価が高い5人の選手。ここに若手がどう絡んでくるか、が見どころでしょうか。
荒川 そうですね。女子も若手が楽しみではありますが……まだまだ今年は、トップを狙うまで急激に伸びる選手は出てこないかもしれません。アメリカのキャロライン・ジャンもスピンやスパイラルは素晴らしいのですが、シニアの選手と一緒に滑るとまだまだ子供っぽさが目立ってしまうかな。跳ぶ前にスピードが落ちてしまう癖のあるジャンプも気になります。澤田亜紀選手、武田奈也選手ら日本の若手も、今年はまだ経験を積む時期ですね。自分に何が必要か、何をしなければならないか。頭ではわかっていることを、グランプリシリーズで世界の強さを目の当たりにすることで、さらに自覚できる。そんなシーズンにして欲しいと思います
ここでがんばって欲しいのは、むしろ若手よりも、ベテランの中のベテラン、村主章枝選手でしょうか。今年はスピンなど、これまで取らなかったポジションで回ってみたり、いくつか新しい取り組みをしています。先日の日米対抗ではまだ完成形を見ることはできませんでしたが、グランプリシリーズではどこまで評価されるのか?村主選手は日本選手の中ではスロースターターで波がある、その点は心配ですが、今年は初戦が中国大会で、まだまだ時間はあります。浅田選手などトップに食らいつくために、しっかりと仕上げてきてくれるのでは、と期待しています。