[ part2 ] 今年のGPシリーズの展望
勝つことも大事、でも選手にとってほんとうに大切なことは?
――シーズン前半を彩る、グランプリシリーズ。選手から見て、全日本選手権や世界選手権と違う難しさや面白さはありましたか?
荒川 グランプリシリーズは、シーズン前半ということもあって、「勝とう!」と意気込むよりも、何かを学ぶ場だったと思います。なぜか毎年、私が派遣される大会は強豪選手ぞろい!!
スケートアメリカは、クワン、コーエン、サラ・ヒューズと、トップスケーターが勢ぞろいで、6戦中一番レベルが高かった。世界選手権にでも出るような感覚でした。そんな試合に派遣になると、ファイナルに進める可能性が下がってしまうこともあり、「私ばかりどうして……」という気持ちにもなります。けれど出場してみると、すごくやりがいのある試合だということに気づくんです。
――昨シーズン、最後のグランプリシリーズでも、荒川さんはスルツカヤ、コーエン、浅田真央選手など、強豪とぶつかりましたね。
荒川 去年や一昨年などは「どうにかしてファイナルに出たい!」という気持ちが強くて、守りに入ってしまうことが多かったかもしれません。緊張感に負けて、のびのび滑れない。結果は悪くはないけれど、自分らしい滑りができない。なんとなく気持ちの良くない試合が続きました。
昨年の中国大会とフランス大会で浅田真央選手といっしょに試合ができたことは私にとって大きかった。初めて出場する彼女の初々しさ、キラキラした目の輝きが、ほんとうに印象的で……。あ、これが今の私に一番足りないものだと、気づかされる思いでした。
グランプリシリーズが「出れば勝てる試合」になってしまった選手には、それなりの難しさがあります。確実に勝とうとする気持ちばかりになって、新鮮な気持ち、この場にいられる喜びを忘れてしまう。私は昨年、浅田選手からそのことを学んで、積極的な気持ちをグランプリシリーズで思い出せた。それがオリンピックに繋がったと思うんです。
――シーズンの始まりの試合だけれど、選手にとってはもうシーズンの最後に繋がる大切な試合でもある。
荒川 はい。グランプリシリーズは勝つことも大事ですが、ここでいろいろなことを感じて学べるかどうかこそ、選手にとっての大きなポイントです。世界6カ国に散っていく選手たち、どこかで何かをつかんで帰って来てほしいと思います。私も最後のシーズンにグランプリシリーズの経験がなければ、迷ったまま、そこから抜け出せずに終わっていたかもしれません。