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超絶技巧の音楽会

投稿日:2015年12月06日 09:30

 超絶技巧って理屈抜きの感動がありますよね。田中彩子さんが歌ってくれたモーツァルトの「夜の女王のアリア」では、どこから出てくるのか思うような高音が飛び出します。軽快で、ユーモラスで、でも迫力がある。爽快でした。

 このアリアが登場するモーツァルトのオペラ「魔笛」は、ほかのオペラとは少し違ったテイストで作曲されています。田中さんのお話でも少し触れられていたように、当時のウィーンでは宮廷劇場がオペラの上演拠点となっていました。しかしその一方で、民衆のための劇場でも歌芝居などが上演され、次第に人気を高めていました。

 とりわけ才人ぶりを発揮していたのが、興行主兼台本作家兼俳優兼歌手のシカネーダー。シカネーダーは自分たちの一座のために、モーツァルトに「魔笛」を書いてもらったのです。おとぎ話や魔法が題材に選ばれているのも、民衆劇のスタイルを踏襲しているからなのでしょう。そして、歌手が超絶技巧を発揮する「夜の女王のアリア」は、お客さんを大いに沸かせる見せ場だったにちがいありません。

 「魔笛」が民衆のためのオペラであったのと同様に、一噌幸弘さんが復刻した田楽笛も民衆のための楽器だったといいます。「空乱12拍子」では、アクロバティックな超絶技巧が連発されました。こちらもエキサイティングでしたよね。なんといっても複数の笛を同時に吹くというのが強烈。この曲は一噌さんのオリジナル作品ですが、きっとかつての田楽笛にも名手がいて、「夜の女王のアリア」と同じように聴く人を興奮させたのではないでしょうか。

 今回、東京シティ・フィルを指揮した沼尻竜典さんは、指揮のみならずピアノや作曲でも活躍されています。五嶋龍さんたっての希望で、沼尻さんのピアノとの共演が実現しました。ヴィエニャフスキの「レジェンデ」、心に響く名演でした。

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コンクール優勝者の音楽会

投稿日:2015年10月09日 18:04

 今週のテーマは「コンクール優勝者の音楽会」。コンクールの目的は、すぐれた若い才能を発掘すること。通常は年齢制限があります。有名な国際コンクールには世界中から優秀な若者たちがこぞって集まります。難関をくぐり抜けて、権威あるコンクールに優勝することは、まさに「ミッション:インポッシブル」。

 しかし、本当に大変なのは、優勝を果たした後でしょう。一時の話題を呼ぶだけではなく、たゆみなく成長を続け、聴衆の支持を獲得しなければなりません。今回ゲストに登場したピアニストの萩原麻未さんとチェリストの宮田大さんは、ともに著名なコンクールで優勝を獲得していますが、その上で、優勝後も着実にキャリアを深めているところがすばらしいですよね。

 コンクールのファイナルでも演奏したというラヴェルのピアノ協奏曲とドヴォルザークのチェロ協奏曲。どちらもおふたりのキャラクターに合っているような気がしませんでしたか。才気煥発としたラヴェルと情感豊かなドヴォルザーク。それぞれ、まるで萩原さんと宮田さんのために書かれた作品であるかのようです。

 ドヴォルザークのチェロ協奏曲で、宮田さんが「母への思い」を語っていましたが、この作品には作曲者のいろいろな思いが込められています。ひとつは「望郷」でしょう。ドヴォルザークは、故郷プラハをはるか離れて、ニューヨークで音楽院の院長を2年間にわたって務めました。19世紀末のことですから、ジェット機で大西洋をひとっ飛びというわけにはいきません。民謡風のメロディから故郷への思いが伝わってきます。

 もうひとつはかつて恋した女性、ヨセフィーナへの思い。作曲中にヨセフィーナ重篤の報せを受け、ドヴォルザークは彼女が好んでいた歌曲のメロディを作品に引用します。ドヴォルザークが帰国してまもなく、ヨセフィーナは息を引き取りました。

 ちなみに、ドヴォルザークの奥さんアンナは、ヨセフィーナの妹さんです。好きだった人に失恋して、結局、その人の妹と結ばれた……。よくある話といえば、よくある話でしょうか?

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