嵯峨小倉山の麓、豊かな緑にまるで身を隠すようにしているささやかな山寺、常寂光寺。太閤秀吉の宗門統制に逆らって、隠棲した日ワ辮lが開山したお寺であり、小倉山百人一首で有名な藤原定家の山荘跡とも言われています。今まさに苔の新緑を迎えている境内。毎日の掃き掃除、草むしりによって、大切に守られてきた苔が独特の美しさを見せてくれます。また約200本ものもみじが日を追うごとに彩りをましていきます。京都では緑に輝くもみじを「青もみじ」と言って、特別な美しさを見出してきました。常寂光寺の名前の由来となった仏教用語「常寂光土」は、生滅変化がなく、煩悩という心の乱れ、苦悩がない、仏様の知恵 慈悲が光のように行き渡っている世界のこと。それがもっとも感じられるのが新緑の青もみじに包まれる季節だと住職は言います。


世界遺産・仁和寺。平安初期に創建された高い格式を誇る門跡寺院です。宸殿の北側には、美しい庭園が広がります。手前に白砂、その奥に池や山を作ることで、変化に富んだ景観と奥行きを表現した池泉式庭園です。茶室「飛濤亭」と五重塔という二つに建築物を借景とすることで門跡寺院としての風格を表しています。人と自然の関わりが生み出した、美の空間です。


新緑を向える頃、京都は色とりどりの花に包まれます。高雄山神護寺の守護神として弘法大師・空海が平安時代初期に創建した平岡八幡宮は、200種300本の椿が咲き誇る名所です。内陣天井には極彩色の花絵44種が描かれています。その名も「花の天井」。花を愛した室町幕府3代将軍、足利義満のコレクションを描いたものだと言われています。京都の人々は、美しい花をこよなく愛し、大切にし続けています。
※本殿内陣の花の天井は5月15日まで公開されています。


京都に咲く艶やかな花が舞妓さん。華やかな着物に身を包み舞う姿は、思わず息をのむ美しさです。舞妓でいられるのは、芸妓になるまでのわずか数年間、10代から20歳頃までの限られた時期だけ。小扇さんは、6月に「衿替え」という儀式を行い芸妓になります。芸妓になると、舞妓とは違った女性の美しさを追求し、より一層の研鑽を積んでいきます。一生が修行、という強い意思があるからこそ、その所作には美しさが溢れ出るのです。


ミシュランで三ツ星を獲得した、京都を代表する名料亭・菊乃井。見た目の美しさ、想像力をかきたてる香り、そして旬の素材の持ち味を最大限引き出した味…。五感で感じる京料理を堪能します。この店の料理のポリシーは「美しくして浮華ならず、渋くして枯淡ならず」、それを一皿一皿に表現しています。さらに、お客さんが普段気付かない美しさを感じる手助けをすることこそが「もてなしの心」なのだと主人は語ります。美に対する感性が研ぎ澄まされていく、そんな空間が料亭での食事の醍醐味です。


漆を塗った上に金粉を蒔き、絵を描く「蒔絵」。日本独自の伝統工芸です。下出祐太郎さんは、伝統の技法を継承しつつ、新たなデザインを発表し続けています。漆の特質を生かし300種類以上の材料を巧みに使い分け、無限の表現が生み出される蒔絵。その"作る"技術も大切だけれど、手間ひまかけて作られた美しい「本物」を丁寧に"使う"文化も受継がれてきたことが重要だと語る下出さん。作り手側と使う側、双方の美に対する思いを、改めて考えさせられます。


十円玉のデザインとしても知られている平等院鳳凰堂は、極楽浄土の姿をこの世に現したものと言われています。平安時代から、飢饉や疫病などに見舞われた人々が、救いを求めてここ平等院を訪れたそうです。朝日を浴びた鳳凰堂は、池の水面にその姿を鮮やかに映し出します。光が強ければ強いほど輝きを増すと同時に、その影がくっきりと見えてきます。光と影が描き出す圧倒的な美しさ…。自分の気持ちや生き方を見つめなおすことで、美しさというのは自分の心の内にあるのだと気づかせてくれるのが、この鳳凰堂です。

  1. フォトギャラリー 京の情景をお楽しみください。

このページの先頭に戻る