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  • 奇跡の地球物語
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#110 2012.2.5
東京ゲートブリッジ〜未来への架け橋〜

<オープニング>
2012年、2月12日 『東京ゲートブリッジ』が開通する。
この橋には、日本の最先端技術と、どんな困難も乗り越える日本人の魂が込められている。

東京湾の埋め立て地を結ぶ工事には、数多くの課題があった。
真上を飛ぶ「航空機」や往来する「船舶」の航路確保、そして巨大地震対策。
東京港東航路を完全封鎖して行われる前代未聞の大工事に、熟練の技術者達が挑んだ。
限られた時間の中、許される誤差はわずか2mm、そして刻一刻と変わる気象条件、数多くの難題を彼らはいかにして乗り越えたのか・・・。

コンテナ貨物の取扱量日本一を誇る東京湾の物流をスムーズにするため、この橋は作られた。
橋の完成により都心に入ってくる交通量が大幅に減るという見通しも立っている。
全長2,618m、海上をまたぐ区間の長さは1,618m。これは横浜ベイブリッジのおよそ2倍に及ぶ。そこには現代の科学技術の粋が詰め込まれている。

<恐竜のようなデザインの秘密>
今から8年前、巨大プロジェクトはスタートした。
まず橋脚と呼ばれる支柱が建てられる。次に橋脚の上にトラス桁と言われる骨組みを乗せ、最後に残された中央部分を埋めるという工程。注目すべきはこのデザイン。
建設途中から恐竜のような姿をしていると一部で話題になった。なぜこのような形になったのか?これまで私たちが知っている橋とは異なるデザインを持つ東京ゲートブリッジ。
この不思議な形にはある秘密が隠されているという。
ゲートブリッジの設計からメンテナンスまで全てに携わる東京工業大学・三木教授にデザインの秘密を伺った。
「東京ゲートブリッジには、吊り橋も斜張も使えるが、しかし下の航路の制限と上の飛行機の制限と両方ある。」
この場所には、下には大型船舶が通る航路となっているため、幅300mに渡って橋脚の設置ができない。よって、本来ならば橋脚と橋脚の間を長く取れる「吊り橋式」などが理想だったが、吊り橋式で東京ゲートブリッジを造ると、計算上、支柱の高さが112m必要になる。しかし、上空は飛行機の離発着に影響を及ぼすため、海面から98.1m以内に設計しなければならない。よって吊り橋式は不可能なのだ。橋の上を車や人が通ると、桁はその重みによりたわんでしまう。吊り橋式が可能なら、これを上から吊り上げるのだが、高さ制限によりそれはできない。そこで補強を組む必要が生じる。この補強をさらに強くするための構造がトラスと呼ばれる三角形の組み合わせだという。ところが桁の下全面にトラスの補強を入れると船が安全に航行出来る高さを確保できないため、中央部を上部に配置した。
三木教授
「力学的にも三角形は安定した形だから、三角形を組み合わせたトラス構造は安定した構造。たわみも少ないし、変な力も入ってこない。」
数々の制限をクリアするため辿り着いたトラス式という構造。見事、橋脚の幅300m支柱の高さ海面から98.1mという難しい条件を克服してみせた。

<日本が生んだ免震技術>
トラス式で造られた橋桁を橋脚に乗せる日がやってきた・・・
重量およそ7,000tものトラス桁が、クレーン船3隻で吊り上げられ、橋脚に乗せられる。
驚くことに、この時トラス桁と橋脚は固定されない。そう、橋脚の上にただ乗せただけの状態と変わらないという。
橋脚と桁の接合部・・・実はここにこそ、地震国・日本ならではの技術が施されている。
ここで、地震が来たと想定して模型を揺らしてみよう。橋は揺れ当然のように橋の下にある車も揺れている。しかし、橋の上に車を置くとほとんど動かない・・・その差は歴然。
この構造に驚くべき発想が隠されていた。接合部は摩擦係数の少ないすべり板とゴムとの複合構造になっている。地震が起きたとき、2つの相互作用で揺れから橋を守ってくれる。
すべり板は、下がテフロン、上がステンレスという非常に滑りやすい組み合わせで、滑ることで橋脚から伝わる大地の揺れを逃がすという仕組みだ。しかし、地震の衝撃を軽減させることができても桁がずれたままになってしまう可能性が高い。そこで重要な役割を担うのが、もう一つの素材のゴムが変形すると戻す力として有効に働く。ゴムを使用することで揺れを吸収すると共に、桁を元の位置に戻すことができる。使用しているゴムは1個140cm四方。1本の橋脚に8個のゴムが配置されていて、左右の橋脚を合わせても16個。畳におきかえると、わずか19畳分ほどのゴムが35,000tもの橋を守っているのだ。この大胆な発想による大型免震システムは、地震大国日本で考案されたもので、震度7クラスの地震でも倒壊しないよう設計されている。
また、これからの造られる大型の橋には、このシステムが積極的に採用されていくという。

<架設工事>
物流の効率化を目的に、東京湾の埋め立て地を繋ぐ東京ゲートブリッジ。
2011年2月、工事はいよいよ大詰めを迎えていた。
中央に空いた長さ108mの空間に最後の桁をはめる日がやってきたのだ。
工事前日−2011年2月26日−
接合させる桁をクレーンで吊り上げ明日の本番に備える。
そして翌日数々の難題がプロジェクトを町かまえていた。
東京港東航路を完全封鎖して行われるという過去に前例のない大工事。首都圏の物流を担う船をシャットアウトしなければならない。
時間がかかれば物流への影響は大きい。プロジェクトチームに許された時間は、僅か13時間半。2月27日、午前4時。気温5度…架設工事が始まった。
午前5時、いよいよ橋桁を吊ったクレーン船が航路内へ侵入する。
明るくなるのを待って桁を70mの高さまで吊り上げる。そして慎重に橋に近づいていく。
無線による交信が飛び交う。
桁の高さや位置は随時ミリ単位でGPS監視され逐一無線で全体へと伝えられる。
しかし、あくまでも作業員の目視や判断がメインでGPSは補助的に使われるのだという。
少しずつだが、確実に前進し、橋の真上にまで桁を移動することに成功した。ここまで4時間。残りは9時間半、最も神経を使う仕事、桁を下ろし橋と結合させる作業が始まる。

<難関の連続>
中央に残された108mの空間に108mぴったりの桁をはめこむのは至難の技だ。ここにも驚くべき発想があった。片側の橋桁をジャッキで35cm引っ張り幅に余裕を持たせる。そこに桁を落とし込み、再び元に戻す。そして、プレートをあてそれぞれの接合部をボルトで固定するのだ。固定に必要なボルトはおよそ2万本。2.2cmのボルトに対し穴は2.4cm、もちろん位置がずれるとボルトが通らない。24mの幅の桁に対して許される誤差は僅か2mm。桁を下ろす作業が始まった。目標は誤差2mm。現場は強風が吹く海の上70m。また潮位は1時間でおよそ4cmも上昇するため、海の上での作業は自然との闘いだ。風に押され、波に揺られながらチームは誤差2mmのゴールへと向かう。午前8時30分、陽が高くなってきた。彼らの繊細な作業には太陽でさえも敵となるのだ。気温が1℃上昇すると、鉄は100mあたり1.2mmも膨張してしまう。冬とはいえ太陽に長くさらしておくのは命取り。出来るだけ早くトラス桁に固定させる必要があるのだ。慎重に且つ正確に。少しずつ、少しずつ桁を下げる。
−午後1時−
ついに桁と橋の高さをあわせることに成功。職人達がボルト締めに取りかかる。全てのボルトが問題なく入っていく。誤差2mm以内をクリアしたのだ。2時間後ボルト締めが終わり制限時間13時間半も見事達成。8年の歳月をかけ、1本の道となった東京ゲートブリッジ。
数々の難題を乗り越え、大きな仕事が成し遂げられた。支えたのは日本人の経験と技術。
三木教授
「最先端でやっているけれど、もう一つ大事なのは、それを実物にする技術がいる。そこには人がからむ。人間の技能の伝承は大切。最先端の技術と、昔からのトラディッショナルな技術をうまく合わせることでしょう」
物を運び、文化を繋ぎ、人と人を結ぶ「橋」。
その橋をつなげるのは人々の叡智と技術、そして決して諦めない情熱なのである。
人が集まり、集落が生まれ、そこに川があれば… 谷があれば… その時代時代の最先端技術で架けられてきた橋。それは文明の象徴。技術の進歩が私たちの夢を運んでくれる。
いかなる困難にも立ち向かう人間の強さが、未来への架け橋となる。

<今回の出演者>
東京工業大学 土木・環境工学科 /教授 三木 千寿氏