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  • 奇跡の地球物語
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#20 2010.3.7
知床 大地の果ての聖地

北海道の東、オホーツク海に突き出した細長い半島・知床。2005 年7月、屋久島、白神山地に続き、日本で3番目の世界自然遺産に選ばれた。知床半島は、付け根部分の横幅が約25キロ、付け根から先端までの長さが約70キロ。その中程から先端にかけての陸域と、海岸からおよそ3キロの海域が世界遺産に登録された。日本初の"海を含む世界遺産"となったのだ。

流氷が接岸する場所としては北半球で最南端に位置する知床は、世界的にも珍しい地理的な特徴があり、それが知床ならではの豊かな生態系を生み出す源にもなっている。
その特徴とは、狭い範囲の中で高い山から深い海までがコンパクトに閉じ込められている点だ。半島の中央には巨大な山々、知床連山がそびえ立っている。最も高い羅臼岳は標高1660メートル。そして、海側、知床岬沖は、海底まで約2000メートルの深さがある。
最も深い海底から羅臼岳の頂上までをあわせると、約3600メートル。富士山と同じ高さとなる。この範囲に325種類の動物と鳥類、257種類の魚、871種類の植物が生息している。

そんな知床の自然は、実にダイナミック! 毎年この季節、シベリアの海からやってきた流氷が海を覆いつくす。そこでは、アザラシが子育ての真っ最中。流氷は外敵から子どもを守ってくれるため、アザラシにとって子育てにもってこいの場所なのだ。子供は流氷に守られながら泳ぎをマスターし、氷が溶ける春先には一人前のアザラシになる。空に目を向けると、ロシアから冬を越すためやって来たオジロワシが流氷の上を飛び回る。オジロワシは世界で1000 羽ほどと絶滅が心配されている鳥。知床は世界的にも貴重なオジロワシの営巣地でもあるのだ。夜、森では夜行性のエゾモモンガが食事に精を出す。木から木へと滑空して移動するため、森が道路や畑で分断されると暮らしていけない。人の手が加わっていない知床の森が、住み心地の良い場所なのだ。

春には、オーストラリアからハシボソミズナギドリがやって来る。森では、エゾシカやヒグマが子育てに忙しい。一度は絶滅も危惧されたエゾシカの生息数は現在、1万頭から2万頭と言われている。また、知床はヒグマの生息密度の高さでは世界有数。アラスカと比べると、密度は約5倍といわれている。動物の生息密度が高いということは、森に潤沢に食べ物があるということだ。

夏、半島周辺の海はイシイルカ、シャチ、マッコウクジラなど、大型の哺乳類で活気付く。2000mも潜ることができるマッコウクジラを間近で観察できるのは、深海域が沿岸すぐに迫る知床沖ならではのこと。そして夏も終わりに近づくと、カラフトマスが長い旅を終え、産卵のために知床の海に戻ってくる。

秋、知床ではヒグマがマスたちを獲る姿が見られる。一方、産卵を果たすことができなかった魚たちは、後に動物たちの排泄物となり、皮や骨は分解されて、最後には森の土に還っていく。つまり知床では海の命の輪と山の命の輪が循環しているのだ…。

その後、また冬がやって来ると流氷の到着よりひと足早く越冬のために天然記念物のオオワシがやってくる。オホーツク海周辺に約5000羽が生息し、その半数が知床周辺で冬を越す。これもまた、絶滅が危惧される希少な猛禽類だ。

今も多くの自然が残る知床だが、リゾート開発の波に飲み込まれそうになったこともある。しかし、1977年、全国の人々に1口8000円で100平方メートルの土地を購入してもらう、100平方メートル運動がスタート。自然を守りたいという人々の願いにより、知床は秘境といわれる豊かな自然を保つことができたのだ。