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Q.放送が始まって約1か月。糸村聡を演じての感想は?

上川「毎日現場に行くことが楽しくて仕方がないと云うくらい充実しています。共演者の方との雰囲気、空気も非常にいいですね。共演者の方とは殆ど芝居の打ち合わせをしないんです。台本をもとに監督が場面の説明と(役者の)動きを決められたら、あとはほぼ我々の自由演技で収録は進みます。どういう演技でも監督はみなさんがウェルカムで迎えてくださる方ばかりなので。役者を整列させて一つの方向へ一心不乱に走らせる、というよりは、奔放にフィールドを動き回らせて、その瞬間瞬間をおさえていくという感じ。おかげで話数を進めていくにつれてキャラクターのふくらみ具合が顕著と云いますか、あっという間に関係性もできてしまいましたね」

Q.ということは、現場に行くまでに演技を固めていかないと、という感じですか?

上川「僕個人、糸村に関して言うと、あまり彼を囲い込むような行動や思惑は必要ないように思いますね。キャストには演技巧者のみなさんが名を連ねてくださっていますので、例えばいきなりアドリブを差し挟んだとしても支障をきたさないんですよ。アドリブが入ってもそれを取りこぼしたり、受け止め損ねたりと云う事態を不安に思わなくていい方々ばかりなので。そこまでやったらこれは作品としても、キャラクターとしても破綻してしまう、というようなところさえ越えなければ、アドリブもOKな現場なんです。そういったトライ&エラーを常に繰り返せる現場ですし、そこに躊躇する必要のない雰囲気が常にある現場です。」

Q.上川さんが糸村のようなキャラクターを演じるのは見たことない、という意見もありましたが、ご自身で新鮮さを感じましたか?

上川「刑事ドラマのフィールドを使って演じさせて頂くに当たっては、このようなキャラクターはまずなかったので、そういう意味では目新しいなとは自分でも思います。少し打ち明け話になりますが、自分の中にあるちょっとした危機感、齢40半ばを越えてきて、もうあと何年かしか試せる機会がないだろうと思われるお芝居があるんじゃないか、という思いが頭をもたげる事があるんですね。50歳を越えたら、きっとこういうようなことはできなくなるかも知れない、と。そういったものも含めて今やれることを全部やっている感じがあるんです、糸村という役柄を介して。彼の性格や行動が許してくれている部分もあるんですけど、本当に思い切ったことをいろいろやらせていただいています」

Q.それは俳優さんとして結構面白いんじゃないですか?

上川「今日は何が自分でできるか、またそういう機会がどこで訪れるのか、とてもワクワクしている自分がいます。正道を外れることの面白さってあると思うんですが、刑事ドラマなのに、と思っていただけることがむしろ面白いと感じている自分がいます。そういった思惑を投げ込める余地が『遺留捜査』という題材の中にはあるように、今強く思えるんです。このドラマに出させていただいたことを本当にありがたいと思っています」

Q.その中でこれは糸村としてこれはやってはいけない、と思っていることは?

上川「彼は出会った人を一人もないがしろにしていないんですよね。被害者も遺族の方は勿論のこと。そこですかね。その想いがあるからこそ、人が使っていたものへの拘りを貫き通していくんだと思うんです。きっと彼を疎んじているであろう曽根さん(佐野史郎)や宮下さん(螢雪次朗)も嫌いじゃないんですよね。むしろ好きなんでしょう(笑)。そんな『人への想い』というものが、彼の心の中にはとても強くあるんだろうな、と。そこは“糸村の主軸”として大事にしたいな、と思っています」

Q.今後、上川さんとしてはどういう糸村を見せたいですか?

上川「これほど彼のキャパシティが読めないというか、読みきれないところがあるので…。絞りこめないのも確かなんですが、うーん…。あくまで僕の妄想ですけど、彼の想いは今、主に被害者や遺された人たちに向けられていますが、その想いがそれ以外の関係者例えば犯罪者へと向けられたときにどうなるんだろう、と。そういうケースがあってもおかしくないかな、と思わせてくれるぐらいのキャラクターなんです。やむにやまれぬ事件があって、それに糸村が相対したときに何が起こるのかな、とか。それはもしかしたら殺人という形をとらないかもしれないですけど」

Q.でも、あんまりやると曽根さん(佐野)に怒られそうな…(笑)。

上川「ははは、そうですね。それこそ捜査にガッツリと入り込まないといけなくなりそうですね。じゃあ、ないかな、これは(笑)」

Q.真面目な織田みゆき刑事(貫地谷しほり)と糸村とのメリハリは意識しますか?

上川「それはコントラストとして意識する部分はありますね。でも、それは糸村が真面目ではない、という風には表現したくないと思っています。真面目というものの発露の仕方が違う、真面目に事件に向き合っている人たちの違ったスタイルという風にしたい。彼女の一途な思いは端で見ていて感じますし。そういう意味では彼女の立ち方から、または彼女の事件に向けるまなざしから僕はあえて迂回路を探すと。そうやって糸村の立ち振る舞いを決めているようなところもあります。強く放った光があるから反射することもできる、そんな存在として、貫地谷さんがしっかり光ってくれるキャラクターを作ってくれていますよね」

Q.足元はスニーカーだったり、ショルダーをななめがけしたり…。糸村の見た目の役作りというのは?

上川「まず監督が『スニーカーをはかせたい』と言われたんです。そこを出発点としてブレインストーミングといいますか、皆さんとアイデアを出し合っていきました。ショルダーバッグを提案させていただいたのは僕からで、最初はメッセンジャーバッグをイメージしていたんです。所轄の交番の自転車とのミスマッチは面白いんじゃないかな、と思って。でも、そこまでガチガチな自転車乗りということではなかろうし、じゃあショルダーにして何でもそこから持ち出してみせたら面白かろうと」

Q.肩紐も短めですよね(笑)

上川「そうですね、動きやすさを一番の理由としてショルダーを選んだんだから、ぶら下げているのは邪魔になりますし、じゃあ短く持とうと。そんな風にして、胸元がショルダーで開いたり閉じたりするのがうっとおしいから、上着のボタンを全部とめちゃおう、自転車に乗っていて時計を見たときに見やすい形として腕時計を大きめにしよう、といった具合に。一点から同心円的に発展する形でキャラクターの装備品やスーツの着方などが生まれていったんです」

Q.他のドラマなどでもそうやって作られたんですか?

上川「いえ、ここまでいろいろな形をアイデアとして出させていただいたのは少ないと思います。今回は警察組織の中のはぐれ者でいいという前提から始まりましたので、じゃどういうはぐれ方をしていきましょうかね、というアイデア出しの場を設けていただきました。糸村だからこそできた創り方だと思います」

Q.糸村というキャラクターはどんどん広げていけますね。水曜9時枠は長いシリーズになることが多いですから、それにも耐えられるぐらいに(笑)。

上川「本当にそうなれば嬉しいですね(笑)」

遺留捜査