9月23日

司会 :

佐藤紀子アナウンサー
武内絵美アナウンサー


今村千秋コメンテーター


【放送内容】

今回は、社会学者:宮台真司氏のロングインタビューをお送りします。
宮台氏には「今、テレビが直面する様々な問題について」伺っています。

宮台真司プロフィール

1959年生まれ(42歳)
東京大学大学院卒業
現在、東京都立大学人文学部助教授
カルチャー・サブカルチャー関連の著書を多数出版
 テレビ視聴の個室化

日本は地上波のみのチャンネルで考えた場合、数が多いように思うが、BS・CS・ケーブル等を含んで数を考えた時、世界的には先進国の中でチャンネル数が少ない。
今後は、「多チャンネル・個室視聴化」は進んでいく。これは、時代の変化であり、この事により同じ作品をみて話題を共有することが難しくなってくる。
しかし、その中でも家族が共に過ごす時間(例えば、朝食)が多少ある。
そこで何を見るかが重要。
その時に共に楽しめる作品があることが、望ましい。

 
 幼児番組

欧米作品には、優秀な教育評論家や教育研究者を入れて作るような番組(セサミストリート・・・等)がある。
これは、専門家達が、需要研究をして作るタイプの番組。
このような形で作る番組は、日本にほとんど無い。

*需要研究:番組を見せたとき、子供が何を感じるかを研究すること。

 
 ドラマ

視聴率を作品の質が直結していない。作品の質が非常に高く、評判が良いにもかかわらず、視聴率の低い作品もある。
現在、そのようなタイプの作品は非常に少ない。原因は、スキルの伝承の失敗にあると思う。

*スキル:身につけた技能のこと。

 
 ドキュメンタリー

1960年代は「強者と弱者の図式」が世の中に成立していた。
その図式で、多くの出来事が映像にできた。
しかし、1970年代以降、高度経済成長が終わり時代が進むにつれ、世の中「価値観の多様化」時代になってきた。
このことで、60年代の図式が成立しない関係が出てきた。
以降、ドキュメンタリーを作る上で、1つ1つ「どのような図式があてはまるのであろうか?」と考えることが必要となってきた。
現在のドキュメンタリー制作には、専門的知識が必要。
今までの制作者だけでは解決のつかない「図式」が存在し、専門家のアドバイスが必要となってきた。
今後は、これらの専門的知識を持つ人たちとのネットワークづくりが重要。
そして、質の高いネットワークを作るために専門家と制作者をつなぐ役割のミドルマンの確保が必要になってくる。

*ミドルマン:素人と専門家の真ん中に立つ人のこと。

 
 実名・匿名報道

犯人が、精神障害であるか否かに関わらず、「匿名報道が原則である」という立場は論理的にある。

日本の問題点は「実名にする事の意味」「誤報をした場合のマイナス」・・等
そういった事についての論議が深くなされていないこと。
もっと各方面の専門家をいれて論議すべき問題。

実際、犯人が「精神障害者であった場合」の「匿名報道」について。
これは、「少年法のもと」の問題と似た部分がある。
「自己責任原則」を適用できるかという点。
「自己決定と自己責任は表裏一体」
日本では、子供達に「自己決定権」を与えるという考えが、定着していない。
従って、「自己責任」についても同じ考えをすべきであり、彼らに「権利を与えていない」と言う者は「実名報道」を主張すべきではなく、どちらかだけを主張するということはできない。
精神障害者にしろ、少年にしろ、「実名・匿名報道」について話し合われる際には、その後の刑罰などとの関係性も論点に含む必要があり、「実名の部分だけ」「重罰化の部分のだけ」などなにか一部だけについて、話し合うべきではない。すべてを総合的に話し合うべき。

これからは、「事実・ものの考え方はこうなんだ」ということをきちんと報じていった方がいい。
この事をしないとマルチチャンネル化の中で衰退していく可能性がある。

 
 記者クラブ

記者クラブは外国にもある。
しかし、日本の記者クラブは閉鎖的であり、そこに「記者クラブ制度の弊害」が生じている。見直す点ではないだろうか?
他国は、「記者クラブでの会見情報」以外に「独自の取材」による報道(調査報道)をすることがある。
以前は、日本でもあった。

マスコミは「第四の権力」と呼ばれてる。「司法・行政・立法」の4番目に位置するぐらいの権力である。
マスコミは、情報についてのチェック機関としての役割を果たす必要があるのではないだろうか。

《スタジオ》
「記者クラブ制度」について、「閉鎖的部分」をなくし「開放的」になりつつあるようです。

 
 今後のテレビ

今後のマルチメディア社会でのテレビのあり方について幾つかのヒント。

まず「言語」。
日本人は、語学が不得意。
これが、アジア他国(シンガポールや香港)のように英語力があるならば、直ちに海外の報道機関が国内の報道機関と同等に競争ができるようになる。
そのことにより、これまでの悪しき習慣が、市場原理の中で、次々と打破されていくことになる。

次に「ブロードバンド」
今後2年ぐらいに間に「ブロードバンド化」は進み、コンピューターの中で情報を高速に取得することができる。
この事は、テレビと同程度の動画質をコンピューター内で見ることが可能になるということ。
テレビは、ソフトの内容で当然、競争しなくてはならなくなる。
今まで以上に独自の取材が必要になり「本当の事」を伝えるクオリティーが問われる。
そこに、ある意味で健全な競争が始まる。

これらのことを踏まえ、今後の対策を立てる必要がある。
これから「マスコミをめぐる環境」は急速に変わっていく。
世代によって、この認識度・対応能力は異なる。
しかし、これは社会の変動期には必ず起きる事。
事実を早くつかみ、それに適応していく事は必要。
早く備えた方がその改革に早く適応でき、上手に長く生きられる。

 
 テレビ局として

アリやハチの生態研究の中に面白いヒントが。
環境に変動が起きた時、生態の皆が同じ動きをしていると全滅してしまうことがある。
しかし、その中の一部が皆とはずれた行動をしていると、変動があった時、全滅せずに生き延びることができる。

つまり、環境の変化が激しい時に「一丸となって対処する」という考え方は危険。
昔から日本は「一丸となって物事を解決する」といった考えを持っている。
今後は、世の中で予想外の変動があった場合に「試行錯誤できるような枠組みを持つ、うろたえない体制」を作ることになれなくてはいけない。
意識を変える必要がある。

《スタジオ》
めまぐるしい変動の時代。頭を切り換える必要がある。
この事は、日々実感しています。
ブロードバンドの時代に「信頼」「質」・・・あらゆる面で視聴者の方達に指示されるソフトづくりをしていくようこれからも研究を重ねないていきたいと思います。