競泳:入江陵介×萩原智子 ハギトモ取材後記
「スポーツと言うより、芸術品を見ているような気になってしまう。」


2006年7月16日にオンエアされた
「泳ぐ芸術品 入江陵介 16歳」
元日本代表スイマーの萩原智子さんによる取材後記です。
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入江選手の泳ぎが目に留まったのは、
2005年春・辰巳で行われたジュニアオリンピックだった。
なぜ彼が気になったのかは甘いマスクと素敵な笑顔・・・
ということももちろんあるけれど、
私が注目したのは、彼の泳ぎ。
私が長年やってきた背泳ぎだった。

驚きのあまり、思わず立ち上がってしまったのを今でも覚えている。
ボディーポジションが高く、胸に水がかからない!
そして、体が全くブレない。
「うわっ、綺麗な泳ぎ!いいなぁ〜」と
呟いたのを今でも覚えている。

それから大会の度に、気が付くと、彼の泳ぎを目で追いかけていた。
昨年、行われた国民体育大会夏季大会では、
「綺麗な泳ぎだね」と初めて声をかけた。
彼は、恥ずかしそうにはにかみ、「ありがとうございます」と言ってくれた。
彼の印象は、聡明・素直・誠実・優しさ・・・そんな言葉が浮かんでくる。

どんどん成長していく入江選手を見るのが、私の1つの楽しみになっていた。
この綺麗な泳ぎで、いつか日本代表、そして、
世界を目指してほしいとまで願っていた。
いつの間にか、私は入江選手のファンの一人になっていたのかもしれない。

2006年日本選手権、プールサイドでバッタリ会った入江選手は、
体が一回り大きく成長していた。
彼のレースを見ていると、スポーツと言うより、
芸術品を見ているような気になってしまう。
現在の日本の背泳ぎ界で、日本で一番美しい背泳ぎだと私は感じる。
オリンピック・世界水泳で銅メダルを獲得した中村礼子選手も私と同じような衝撃を受けたと話してくれて、大いに盛り上がったこともあった。

 
パンパシ水泳ビクトリア、そして世界水泳メルボルンへ−

今年の日本選手権、代表入りは狙っていなかったという入江選手。
ただ、大会中、年の近い選手たちがどんどん代表入りしていくのを目にして、
「ジュニアの代表ではなく、日本代表になりたい。」と落ち込むくらいに悩み、強く思ったという。
しかし、彼の得意な200m背泳ぎには、
100mアテネ五輪銅メダリストの森田選手、日本記録保持者の中野選手、
100mで既に世界水泳内定を決めていた山口選手など強豪揃い。
誰も彼が2位以内に入るなんて思っていなかったと思う。
しかし、彼は後半の追い上げで、2位に食い込み、初の日本代表選手になった。

「本気で日本代表になりたい」と思った・・・それがどう言う理由にしろ、
自分の心の中に芽生えたということが大切だと思う。
彼が「日本代表になりたい。」と思ったことは、ただ勝手な思いつきではなく、
練習によって裏づけされた結果。
なるべくして彼は日本代表になったのだと私は思う。

2007年の世界水泳メルボルン、そして、2008年の北京オリンピック、
彼の夢は広がるばかり。
私は、これからも彼を追いかけていきたい。
その背泳ぎのように、いつまでも真っ直ぐに伸び続けてほしい・・・心からそう祈っている。


[萩原 智子(はぎわら・ともこ)]
シドニーオリンピック 200m背泳ぎ4位入賞。
「ハギトモ」の愛称で親しまれ、100メートル自由形、200メートル個人メドレー、200メートル背泳ぎ(現在は伊藤華英選手が保持)の日本記録を持つ万能スイマーとして活躍した。現在は、水泳解説や水泳指導のため全国を駆け回る日々を続けている。
その活動の様子はブログ 「萩原智子のいつも笑顔で」でチェック!


【編集:GET SPORTS ディレクター 山西雄大】



 
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