3.女子シングル、頭角を現すのは誰か?

――一方、今年も日本選手大活躍の女子シングル。グランプリシリーズ、荒川さん注目の大会は?

荒川 まずはアメリカ大会と中国大会ですね。ここで安藤美姫選手とキム・ヨナ選手、同じ組み合わせが2回見られる。これが面白いと思います。安藤選手とキム選手の戦い、私たちはとても楽しみですが、安藤選手にとっては、勝ち負けはあまり大きなことではないんじゃないかな? すでに一度世界チャンピオンにもなっていますし、ここでどうしても勝たなきゃ、という立ち位置ではありません。そんな選手にとってはグランプリシリーズ、勝ち負けを気にせず新しいことを試す絶好の機会です。今シーズンの彼女の場合は、4回転ジャンプ。「グランプリシリーズから4回転!」と、力強く宣言しているので、注目したいですね。オリンピックに向け、彼女自身のレベルアップのためにも、ぜひ4回転を使えるジャンプにできたら強い。

――安藤選手、調子もよさそうですね。

荒川 はい、昨年は少し気持ちに波があって、全日本選手権などすごくいい演技を見せる試合もあったけれど、調子の良くない試合も多かった。世界チャンピオンということを意識して、自分からその言葉を発して、「やらなきゃいけない!」という意識がどうしてもあったと思うんです。でも今年は、そんな悲壮感がもう見えない。昨年1年、彼女も世界チャンピオンとしてプレッシャーの中で過ごしましたよね。私もそうでしたが、タイトルを持っているのに不甲斐ない自分に直面して――これからどうしなければならないのか、1年かけてやっと答えが出たと思うんです。そのためでしょうか、今年は練習を見ていても、心の晴れやかさが見える。落ち着いて、プライベートのことなどにも惑わされずにスケートができているようです。「4回転」という言葉も、自分の今やるべきこととして、無理なく発しているように聞こえますしね。

――安藤選手初戦のアメリカ大会。長洲未来、レイチェル・フラット(ともにアメリカ)と、若手も出てきますね。

荒川 彼女たち、今シーズンからシニア入りの選手は面白いですね! たとえば3年前、浅田真央選手がジュニアの年齢でシニアのグランプリシリーズに出た年もそうですが、ジュニアはこの時期、すでにシーズンを戦う準備ができているんですよ。前の年まで出ていたジュニアのグランプリシリーズは8月末に始まっていますので、例年だったらもう、バンバン試合をしている時期。シニアの試合はなかなか始まらないので、うずうずしているジュニアたちが、待ちかねたアメリカ大会で爆発して……。そんな楽しい波乱が見られる可能性もあります。ただ彼女たちは、若さの勢いもある一方、背が伸びたり体型が変わったりで、難しい時期でもある。そうした変化が、欧米の選手は一気にきて、スケートも安定せず、苦しむこともあるかもしれません。そこを耐えてがんばると、シニアとしての安定感を得られるのですが……。一方で浅田真央選手やキム・ヨナ選手のように、身体の変化がゆるやかなアジアの選手は、若くしてトップまで昇りつめることもできました。今年の新人たちは、どうでしょう? 彼女たちの動向も、アメリカ大会で注目ですね。

――さらにアメリカでは、日本の中野友加里選手も登場。初戦から豪華メンバーですね。

荒川 中野選手は毎シーズン毎シーズン、新しいことに挑戦して、それをこなしてきている選手。トリプルアクセルも一昨年はなかなか挑戦しきれない試合があって悔しがっていたのですが、昨年は全ての試合でほとんど成功している。今年はそこからさらに安定して、トリプルアクセルに関してはもう心配しなくてもいいレベルまできていますね。今シーズンはさらに新しく、3回転‐3回転にも挑戦している。堅実に歩んできたベテランが、初戦でどんな試合を見せてくれるかも楽しみです。

――さらに日本人の注目選手といえば、浅田真央選手。彼女が登場するのは……。

荒川 4戦目、フランス大会でやっと、ですね。ここが今シーズンの浅田選手初戦。初めて見せてくれるプログラムも、どこまで練られているか、楽しみです。彼女はまだまだ、表現の面でも伸びる余地がある。浅田選手自身もそう思っているでしょうし、今年はコーチにタチアナ・タラソワがつきました。あのふたりはもう、天才コンビ(笑)。タチアナは教えるプロとして天才的ですし、浅田選手は自分のことをよく知っていて、やるべきことを進んでこなしてしまうタイプ。タチアナと信頼関係さえきちんと築けば、浅田選手はいけるかな! きっと試合で力強く背中を押しだしてもらえるはずです。

――今年はトリプルアクセルの基礎点も上がりましたし、フリーでは2度入れたいという彼女の言葉もある。もはや敵なし、という雰囲気でしょうか。

荒川 そうですね。あとは完璧を求めるとしたらただひとつ、ルッツの踏切りの改善を今シーズンどこまでできているかという点でしょうか。やはりあれだけきれいに跳ぶジャンプにマイナスがついてしまうのは、もったいない。そしてルッツは、ショートプログラムでどうしても跳ぶことになりますので、ぜひ改善したいポイントです。採点スポーツの特徴かもしれませんが、これまでの戦いからジャッジの間には、「浅田選手のルッツはロングエッジの傾向」という認識が既にできてしまっている。きちんと改善できていれば問題ないのですが、ジャンプの癖を直すということは、スケーターにとって本当に難しいことなんです。ここが、浅田選手唯一の課題かもしれませんが、スパイラルもステップも、ひとつひとつのポジションをきれいに取りますので、心配ないと思いますよ!ほんとうにバランスの取れた選手です。

――女子はこのほか、有力選手といえばイタリアのカロリーナ・コストナー、それに続くのがカナダのジョアニー・ロシェット、スイスのサラ・マイアー……。新人選手が楽しみではありますが、昨シーズンから主だった顔ぶれは変わらないかもしれませんね。

荒川 はい、目に見えて大きな変化が期待できる、というよりは、現在のトップスケーターたちがどんな変化を見せて、誰が頭角を現すのかが見どころになると思います。選手はそれぞれレベルアップを図って、練習を続けています。勝ち負け以上に、選手たちの今年の変化やチャレンジを見る場として、グランプリシリーズ、楽しんでほしいですね。もちろんファイナルに行くためには勝たなければいけないのですが……。

――誰がファイナルに行くかも楽しみ。と同時に、ファイナルに絡むのは難しい選手たちも楽しみですよね。

荒川 そう、グランプリシリーズは、世界選手権では見られない選手もたくさん出場するんですよ。日本やアメリカのような選手層の厚い国は特に。グランプリシリーズで活躍しても、国内選手権で勝てなくて、世界選手権では見られない、そんな選手もたくさんいます。グランプリシリーズでこそ、そんな選手をチェックして、誰がこの後の世界選手権やオリンピックに出てくるのか、予想してみるのも楽しいですね。まだメディアが注目していない選手をチェックしておいて、後から彼らが活躍すると、うれしいもの。来年のオリンピックで活躍しそうな選手を、自分だけの視点で探してみる……そんな楽しみ方も、今年のグランプリシリーズではできそうですね!



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