1.注目のプレ五輪シーズン、グランプリシリーズに挑む選手たちへ

――荒川静香さんは、解説者としてグランプリシリーズに関わって、はや3年目。競技生活を離れ、外からグランプリシリーズを見て……改めて感じたことはありますか?

荒川 そうですね、まずグランプリシリーズも、ずいぶん重視される試合になったんだな、ということ。私たちが選手のころは、シーズン始めの評価を確認したり、全日本選手権に向けてプログラムを整えていったり……。シーズンに入って最初の試合、改善点をみつけ調整していくための試合、という認識が少しありました。でも最近は、以前にはない大きな注目が集まり、グランプリシリーズから、「今シーズン、どうですか?」と周囲から質問されるのは、戦う選手の立場からしたら少しきついかもしれません。ですが、周りの言うことなどは気にせずに、この盛り上がりに乗って、気合いの入った発言をすることも決して悪くはありません。でもグランプリシリーズ、もっとのびのびと、自分を試すつもりでもう少しリラックスして戦ってもいいかな、と思います。

――スケートブームがちょっと選手たちを忙しくしている、という印象は受けますか?

荒川 はい。でもシーズン最初からこれだけ注目度が高いことは、フィギュアスケートにとってはうれしいことです。記者会見などを見ていても、以前に比べると選手たちの対応も上手になってきていますよね。メディアの方々がスケートのことを理解していくとともに、選手たちも注目されながら成長している。みんなでこのスポーツを盛り上げていこうという雰囲気を、グランプリシリーズを通して感じることがありますね。

――またここ数年で、たくさんの人がテレビでグランプリシリーズを楽しむようになりましたし。

荒川 実はテレビ放映が充実していることは、選手にとっても影響が大きいんです。私が出ていたころは、他の選手たちが今シーズンどんな演技をしているのか、1ヶ月遅れくらいでやっと見られるような状況でした。4戦目のフランス大会に出る頃に、やっと1戦目のアメリカ大会が見られる、という感じ。でも今は、アメリカ大会が終わると、もうその瞬間に試合が見られて、今年のジャッジはこういう傾向だ、こんな演技にはこんな点がつくんだ、ということがわかる。選手も放送を見て、すぐに学んで練習に取り入れられるんです。以前は自分が出場して初めて分かるようなことも、報道で早く知ることができる。スケートブームが選手にプラスになる、そんな点でも大きいですね。

――今年は、オリンピックを来シーズンに控えたプレ五輪シーズン。ちょうど4年前、トリノ五輪を控えた荒川静香さんのプレ五輪シーズンは、どんな気持ちでグランプリシリーズを迎えましたか?

荒川 私の場合、次のオリンピックに出ることをあまり考えていなかったんです。「あれ、今シーズンも選手やっちゃってるな……」と。世界選手権で優勝(04年)できて満足して、ちょっと今年のジェフリー・バトルに似た気持ちだったでしょうか(バトルは08年世界選手権優勝後、現役続行を宣言していたものの、この秋に引退を決意)。世界チャンピオンになったからといって、オリンピック代表が約束されているわけではない。シーズン初めのグランプリシリーズ、1からまた戦わなければならない、そのことが憂鬱でした。年齢的には社会人、でも日本ではまだ社会人スケーターが一般的ではない時代でしたし、自分の将来についても不安でした。社会人なのに、親のスネをかじって、まだスケートをやるのかな、ということも考えて……。今の選手たちとはちょっと事情が違いますね。何の心配もなく、スケートを続けることだけを考えられたらよかった。今は社会人スケーターも珍しくないですし、競技を続けやすい環境が整っている。選手たちにとってはうれしい時代なのではないかと思います。

――4年経って、時代も変わりましたね。今回出場する選手たちの多くは、迷うことなくオリンピックを見据え、プレ五輪シーズンを迎えられている……。そんな年のグランプリシリーズ、どう戦うべきだと考えますか?

荒川 私としては、まだまだ気持ちを楽に、いろいろなことに挑戦してほしいな、と思います。もしオリンピックでやってみたいことがあるならば、今こそ試すべきとき。浅田真央選手はフリーで2回トリプルアクセル、と言っていましたが、きっとオリンピックでもやってみたいことなのでしょう。そんな挑戦を今、やってみる。楽な気持ちで挑戦しよう、くらいでいいと思うんですよ。毎年毎年、必死に最高のものを見せなきゃ、と思うと、競技を続けることにも疲れちゃいますから。今シーズンにすべてを見せてしまうのではなく、一番いいものはオリンピックに残しておこう、ぐらいの気持ちでリンクに立てば、あと2年、切羽詰らずに取り組めると思います。4回転にしてもトリプルアクセルにしても、今やらなきゃ! って気持ちではなく、やってみようかな? という気持ちでいい。オリンピックに向けたチャレンジの、ファーストステップ。そう思って挑んで欲しいですね。

――我々報道する側はプレ五輪、プレ五輪とうるさいですが、あまり気にしないように、と。

荒川 そうです。そんなに必死にならず、楽しんで過ごしてほしいシーズンですね。



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