Vol.50「感動と思い出・アラカルト、その3 私の心に残ったBEST3」
7/16 Reported By 
徳永有美

『200M自由形決勝イアン・ソープvsピーター・ファンデンホーヘンバンド』

ラスト50M。イアンがラストスパートをかけ、ピーターと並びかけたその時。
私には二人の姿が神様のように見えました。
横から見ると、二人の水をかく手がぴったりと重なり合う。水しぶきが二人を輝かせる。
どちらも引くことなく突き進む姿は、ほんの数秒のことだったかもしれないけど。

イアンとピーター

こんなに素晴らしい勝負を、自分の目で見ることができ、とてつもなく幸せで、この姿をしっかり目に焼き付けておこうと食い入るように見つめました。
その時、私の体は震えました。

”素晴らしいレースをありがとう”
二人が表彰台に立ち、握手する空間に、誰一人として入る隙間はありませんでした。

うれしさいっぱい!北島選手

『200M平泳ぎ決勝北島康介銅メダル』

あれだけ「世界」にこだわった男が、自分との闘いに勝ち、
ついに現実となった。
彼の強さをあの瞬間に見た気がします。
―あの瞬間。
彼は最後の力を振り絞って泳ぎきり、黄色い壁にタッチ、ゴールした瞬間。
たくさんの水しぶきとともに、彼は誰よりも早く、後ろを振り向きます。
その先には順位の出た電光掲示板が。
自分の名前を食い入るように探す彼。
その勢い、その姿は普通ではありませんでした。
自分の順位を探す…そんな単純なことだけではなく、
その姿には彼の姿勢そのもの、全てがつまっているように見えました。
彼が自分の努力、才能、全てをぶつけ、
“世界”という舞台に勇猛果敢に立ち向かう勇気を感じました。
なんて強く、なんて清々しいのか。

彼の顔つきはこの半年で明らかに勝負顔に変わりました。
私は母のような気持ちでレースを見ていました。

その後のリレーで不本意な結果しか残せなかった彼は最高に不機嫌な顔で現れました。
くやしさで、目から炎が出ているようでした。
でも、こんな世界だからこそ、自分は泳ぎつづけるんだという表情をしているようにも見えました。

私は、これからの彼をずっとずっと見ていきたいと本当に思います。
というのも、今の北島選手は、自信・才能・努力、すべてがいい形で結果に結びついている。
しかし、いつかきっと、彼にとって高い高いハードルが出現する日がきっと来ると思います。
その時に彼が、どうもがき、どう乗り越えていくのか。
世界に羽ばたく彼を見守っていきたいです。

 

『バタフライ山本貴司』

こんなに表彰台とは遠いものなのか。

山本選手と初めて話をしたのは、日本選手権の前日でした。
「シドニー五輪が終わって脱力感に支配される中、なんとかモチベーションを上げ、
ここまでやってきた。まだ勝ちに対する執着心がついてこないけど…。」
自分の調子を確認しつつも、淡々とその時の心境を語ってくれた山本選手。
私は山本選手自身に、歴史を感じました。きっとたくさんの苦労してきた人なのだろうと。

しかし、さすがです。
7月の世界水泳の時には、彼は完全にモチベーションを高めていました。
彼は‘シドニーで果たせなかった夢を叶えたい…’そう口にするようになっていました。
そして、同時にこれが自分にとって最後のチャンスだと言わんばかりに。

予選、準決勝と勝ち進むにつれ、彼は「とにかくメダル」と言っていました。
報道陣がいくら「いい泳ぎでしたね」と声をかけても
「今の僕にとっては結果が全て。結果(メダル)を出せなければ、何の意味も無い」

メダルへの最後の望みをかけて挑んだ100Mバタフライ決勝。
準決勝では日本新を出し、3位で決勝に進んだ。これはいけるかもしれない…。

無念!山本貴司選手

しかし…
彼はメダルを手に入れることはできませんでした。
レース直後のインタビューで彼はひたすら、
「…なんでやろ…なんでかな…」
と、言い続けました。
悔しさを押し殺すような苦い笑顔。
そして、最後の言葉に私は心を打たれました。
彼は一息着いてからこう言ったのです。

”もう…だめ。”

はぁぁ……と思いました。
これこそが彼の本音だろうと。
そして、私なんかには分からないくらいの努力を重ね、苦労を乗り越えてきて、
自分なりにぶつかって…出てきたこの言葉。
なんてせつないのだろうと思いました。
この言葉が私の心に重くズンとのしかかった瞬間でした。
 

 
ここで数々のドラマが・・・

『BEST3番外編 〜アナウンサーの頬に一筋の涙〜』

アナウンサーである私にとって驚き、感動したことがありました。それはシンクロナイズドスイミング・ソロ決勝。立花美哉選手の素晴らしい演技が行われている時のこと。

記者席にいた私の目の前には、実況アナウンサーが座っていました。私は、目の前でこのような実況を見るのは初めてのことだったので、選手の演技同様、実況アナウンサーの話す一言一言に聞き入っていました。

そして、立花選手の演技もクライマックスというところで…
実況アナウンサーの頬に一筋の涙が流れていたのです。
私はハッとしました。
そして、さらに驚いたのは、実況アナウンサーは涙を流しつつも、
その涙をふくわけでもなく、声のトーンが変わるわけでもなく、言葉に詰まるわけでもなく。
淡々と優しく、人の心にすーっと入ってくるような実況を続けていました。
「日本一だ…」

こんなに素晴らしい実況アナウンサーの後輩であることを幸せに思います。
 

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