取材・文:中村裕一
編集:辻義就
ゲスト:国吉伸洋 中山貴雄 萩野志保子

今回のインタビューは前編・後編のお得な2本仕立てです。

インタビューのゲストは国吉伸洋アナと中山貴雄アナ、実況研修を終えたばかりの萩野志保子アナを迎え、「プロ野球討論」マンスリーインタビューを行いました。

<国吉、中山アナから萩野アナへ贈る“最初の一歩”>

萩野

みなさんは実況の“最初の一歩”はどんなところから始めたんですか?

中山

「第1球を投げました」なのか「1球目を投げました」なのかどっちかにしろ、とか言葉の決まりをキチンとするよう厳しく注意は受けました。でも話していると思わず出てしまうからそこをチェックしたり、あとは選手の動きをいかに表現できるかというところかな。

萩野

国吉さんは最初から「あ、出来るな」というくらいしゃべれたんですか?

国吉

ルールとか選手とかは知っていたから、その点では大丈夫だと思っていたけれど、そこから先は実際に放送の現場でしゃべってみないと分からないし。僕もまだ数年しかやってないけどやっぱり思うのは、そう簡単に女性には実況は出来ない、と。萩野の希望を打ち消すつもりはないんだけれどね。

萩野

それは具体的にどんなところなんですか?

国吉

やはり、アナウンサーの歴史上なかなか登場してこなかったというのもあるし、女性の声を2〜3時間聴くことに抵抗を持つ人もいるのも事実。慣れてないということもあるけど、テレビでスポーツを見る視聴者層で圧倒的に多い40代以上の男性が女性の実況をいきなり聴いてすんなり受け入れるかは疑問だよね。まぁ、ある程度は僕自身のプライド、自負というものもあるけど、バラエティー番組のアシスタントとはまた違って、実況は自分が中心に動かしていかないといけないから。萩野自身も覚悟してるとは思うけれど。

中山

少年野球から高校野球、社会人そしてプロと続く野球界のいろいろな背景的なものを理解しないことにはやはり難しいと思う。野球界は先輩後輩を重んじる縦社会だし、プロになるとさらに実績や出身校というものもからんでくるから複雑なんですよ。確かに野球界には女性アナウンサーにとってぶ厚い壁がある。けれども視聴者的に10〜20代男性の野球離れという現状の中、そこで萩野が開拓者としてその世代を引っぱってこられるだけの“何か”があれば面白いんじゃないかなぁ。

萩野

その「いろいろな背景がある」の「いろいろ」とは何なのか、教えてもらえないでしょうか?

中山

男性でも野球に関わる際に、さまざまなスタンスがあると思うんですよ。データ重視、人間関係重視、リアルタイムでグラウンドで起こっている出来事重視…などなど。でも女性の場合、その入り口の段階で拒絶されてしまう“何か”があると思うんだ。

萩野

それは女性を捨てて、女性であることを武器にしないというスタンスをもってしても難しいということなのでしょうか?

中山

確かに担当記者は女性が多いんですよ。女子アナウンサーは来てるけど実況はやってないですよね。それはどうしてか分からないけど、やっぱり何かある気がする。女性でも比較的仕事のしやすい記者だって、球場でスカートはいているコはいないもの。

萩野

もちろん私もそういう部分は当然感じてはいます。ああいったところに女性らしさを持ち込むのはTPOとしてそぐわないと思います。でも選手や監督から何かを聞くために置かれている立場の女性は、時として女性らしさがクローズアップされてますよね。

国吉

まぁ、聞かれる側が女性を意識することによって気持ちが和むというのはあるよね。
リポーターや記者はそれで成立すると思うけど、実況となると難しいと思う。僕なんか自分が投げているような気持ちで試合に入り込まないとしゃべれない。だからはたして女性がそういう気持ちになってしゃべれるのかな、と。

中山

僕はそこまでしっかり把握している段階ではないし、解説者のかたがたに助けられている部分も多いんですが、今自分が思うのはグランドで起きている事も大事だけど“いかに話を聞くか”ということ。それはある種、司会に近いものかもしれないですね。

国吉

スタジオ(での進行)を回すのと基本的に似ているよね。

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