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清水宏保選手について
実は今回の長野オリンピックでは、私自身大会が始まる前からスピードスケートの清水宏保選手を注目の選手として挙げていました。
というのも彼のお父さんがアルベールビル大会の直前に亡くなられ、リレハンメルで彼が代表になれるかどうかを番組で半年くらい彼を取材したということもあって、彼に対する思いが強かったからです。 |
結果はみなさんご存じの通りですが、なにより彼のすごいところはいろいろな雑音が入る中でも自分が一番強いと信じ、そして実行してしまうところ。重なる緊張の中でも自分を高めてゆく力に圧倒されました。
さらに印象的だったのは、彼の中でレースの3日前にすべての“プラン”が完成し、その通りになったと言っていたこと。「こういうスタートで始まりこういうコーナリングをして…」というレース展開の総てが頭の中で出来上がっていたわけです。
さすがにそれを聞いた時には総毛立ちましたね。メダル獲得後に会う機会がありましたが、お互い目を合わせて肩を叩き…言葉は無用でした。
パラリンピックが持つ“原点”
私がパラリンピックと直接関わりを持つようになったのはバルセロナ五輪からです。当時は日本のメディアで取材に来ているところは他になく、その後のアトランタでも取材を続け、特番なども作りました。ですから今のパラリンピック人気を後押しさせていただいたという自負はありますね。
そんな中、今回の長野大会はパラリンピックというものが競技として一般にも認められた大会だったと思います。オリンピックと比較して興味深いのは、選手たちにとって競技はまだ“職業”ではないから“スポーツをする楽しさ”や“スポーツができる楽しさ”にあふれているんです。事故などでもう2度と体を動かすことはないと思っていた自分にも出来ることがある、単に外に出て体を動かすだけでも嬉しい、というスポーツの“原点”がそこにはあるんです。
もちろんオリンピックにもあったのだろうけど、だんだんと“職業化”する中でそのスポーツが好きか嫌いかも分からないまま続けてしまっている選手も中にはいるようです。その意味ではスポーツの原点というものをパラリンピックは教えてくれると思うんです。
その効果とこれからの課題
今大会で“心のバリアー”は少なくとも長野の人たちにおいては取り払われたと思います。
子供たちもサリドマイドの選手と握手をしたり、車椅子の選手にサインをもらったりしていましたし、さらに驚いたのは観客席に障害者の人たちをことのほか多く見かけたことでした。「今までホントみんな外に出ていなかったのかなぁ」ってくらい(笑)。心なしか大会後も街で車椅子の方をよく見かけるようになりました。みなさんも気にしていただくと新たな発見があるかもしれませんね。
車椅子を利用している多くの人に限らず、パラリンピックの選手たちは“人生”をものすごく大切にしているという印象を受けます。命ってものが限りあるものということを認識し、自分自身をしっかりと見つめているんです。そんな人たちに取材をするのはとても興味深く、「太陽の下で体を動かせる喜び」なんて健常者には当り前すぎる言葉も彼らにとってはとても重いわけです。
私もこの仕事を20年あまりやってますが「なんて深いんだろう」と思う言葉にたくさん出会いました。
これからの懸念としてはパラリンピックも商業化の波に乗せられて興行化してゆく恐れがあるということ。またアスリートとして自活してゆきたいという選手も多くなるでしょう。
しかしアスリートとはいっても常に内蔵や神経など体の器官に問題を抱えているわけですから、障害者独自のそういった問題と競技との間でどう折り合いをつけてゆくのかを私たちは考えてゆかなければならないと思います。 |
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アナウンサーとしての原点
アナウンサーは番組の音声や言葉の部分をつかさどる大事な職業。ですが私自身スポーツ中継のリポーターをしていて通じて感じたのは、どれだけ言葉を重ねても生の映像の力にはかな
わないこともあるということ。
だからこそ私はディレクターになり、見る人に何かを…
それを見ることによって気持ちがやすらいだり、勇気づけられたりする…そういうもの
を伝えられる仕事をしたいと思ったんです。
今後やっていきたい仕事ですか?スポーツでは、確かにトップアスリー
トのモノすごい世界に触れるのもいいんですが、近年私自身かなりマイナー志向になっ
てきているみたいで、光が当たっていないものに光を当てたいというか「みんなやって
るものはみんなにまかせればいいじゃない」というところがありますね(笑)。
例えば
自然の中で体を自由に動かすことが精神にどう影響を与えるかとか、老人しかいない村
にプールを作ったらどのように村が変わったとか…。
そういうテーマを取り上げながら
“スポーツの原点”を探せるようなものを作ってゆけたらいいな、と思うんです。
取材・文/中村裕一 |
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